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銀鈴の音

 


 ――――ケイヤク



 『契約』


 二人以上の当事者の意思表示が合致することによって成立する法律行為のこと――――




 (ケイヤク……言葉通りならそのままの契約か)




 カスミの口から出た言葉に、裏切られた気持ちになった。


 もっと抽象的な言い方をされるとばかり思っていたのだ。


 いや、期待していたのだ。



 明らかにカスミは 『契約』 という言葉の意味は知らない。


 本当に頭に響いてくる言語を理解しているというのだろうか?



 しばらくの間、返す言葉が見つからない伊吹。


 その言葉の意味を多方面から考察する時間は長くて数十秒程度だった。




「け、契約って、何の契約を誰とするって?」



 動揺を隠すようなるべく穏やかにカスミに問いかけた。


 無垢で真っ直ぐな瞳の色は欺かれた黒。


 その奥にある本当の色を知る由は無い。





「んっとねー。おねぇちゃんは、いぶきとケイヤク? したいっぽいよ?」



「それってどんな契約か分かる?」



「ちょっとまってねー」




 巨大クリスタルを再び見上げるカスミは、じっと見つめたまましばらくの間動かなかった。






 <――――{gB\IYpWjN-nd(R=vi-);>si("mBeV――――>





 しばらくの静寂の後に、また美しい声が響いてくる。


 やはり伊吹には何を言っているのかさっぱりだ。




「うーーん。わたしたちをおてつだいしてくれる?」




 クリスタルを難しい顔で見つめながらカスミがそれを翻訳してくれる。




「手伝い……? この洞窟から出られるのか?」




 再びカスミが小さく唸ったあとクリスタルの方を見つめる。


 この巨大クリスタルと会話しているようだ。





 <――――{^EhkSW'}^D{gL:F)gBHaU$"EF$P;<n-H$O<Py_$!――――>





「ケイヤクすれば、それもカノウだって!」



「むう……」




 穿った見方を捨て去れば、これ程渡りに船な話は無い。


 そして俺はカスミの言う事を疑うなんて事は絶対にしない。


 素直にその言葉を信じよう。


 そう、カスミがこの謎の言語を理解出来ている、という事は真実だ。




 だが・・・




「契約の内容を教えて貰えるかな? 何が必要なんだ?」




 カスミに習って巨大クリスタルへ向かって話しかけてみた。


 先程と同じように再びカスミがクリスタルに向かって念じているようだ。






 <――――FhXO_XeC|{nqGDBJecW#dUxCCJ$OP#&――――>



 <――――YsELH]Mn#aYtQR\KDRB'\(>Vx――――>



 <――――(yWmlMhAQE_!jNTqE;EhEQ}Tx;gm[M&WL"lwG!]|A――――>





 かなりの長さで返答が返ってきた。


 カスミの表情を伺ってみるに、どうやらかなり難解な内容のようだ。


 今にも頭から煙が立ち上ってきそうに見える。




「うーん……うーん……」



「ごめんなカスミ……俺が分からないばかりに苦労をかけるな」



「んーん、だいじょぶだけど……むずかしいからこまってるの」



「だよなー。契約なんて言葉も、意味も分からないのが普通なんだ。そんなに無理しなくてもいいからな? とりあえず分かりそうな言葉だけそのまま教えてくれ」



「わかったー!」




 しばらくの間再びクリスタルへ念を飛ばすカスミ。




「……タマシイ、いっしょ? に、ドウイシテクレレバ? それだけ?」



「魂を一緒に? 同意するだけ?」




 カスミがどこまで本来の言葉をそのまま伝えられているか不明だが、聞き取れた言葉の意味を捉えるとそんな言葉が浮かび上がってくる。






 <――――}K?fShS^px:OLl――――>





 凛としたトーンは今までより緊張感がある声で響き渡った。


 こちらを見るように言われているようで、クリスタルへ向き直る伊吹。



 巨大なクリスタルは表面が煌びやかに光を反射し、自らも発光している為内部はよく見えていなかった。


 しかし今の声と共に見えるクリスタルは先程よりも内部が透けて見えている。





 まじまじとその中を見つめていると―――






「――――――――人!!?」





 はっきりとしないが、うっすらと人影に見えるシルエットが見える。


 これが声の主の正体だろうか。


 クリスタルの中から出ずに、声をかけてくるのには何か理由があるのだろうか?


 いくつも疑問が湧き出してくる。





 <――――YOyIpfUs^}N%6>-}qJ{N――――>



 <――――r,h\:FTqTh8{!y2Ey&DW8i{h}L0I^5――――>




「わたしにタマシイをササゲルだけで、あなたのノゾミをかなえられる」



「……魂を捧げるって、なんだそのオカルト染みた話は……」




 一気に胡散臭くなってきた。


 だんだん分かってきたぞここのカラクリが。




「魂をあんたに捧げたら俺はどうなってしまうんだ?」




 <――――BctVRF(2==r_RYd=!x<#?st=<b$>oR――――>


「ソノママだ。なにもかわらない、ってー」





「だとしたらそっちに何のメリットがあるんだ?」





 <――――;EH8&WP,3fk_}WShpy2#YIKYfm,DVB8CvlV――――>


「……ここからウゴクコトができる、って!」





 これはあれだ。宗教勧誘的な何かだ。


 間違いない。このおかしな場所にまずは誘導する、どうやったかは知らないが。


 そして精神的に疲弊した所にこうやって救いの手を差し伸べるかのように見せかけ、手伝った後に報酬を求める手口なんだろう。


 もしくは怪しいアイテムを売りつけるとか。





 (うちの地元にこんなのが蔓延してるとしたら一大事だな……)



 (でも何で俺には分からず、カスミには分かる言葉なんだろうな?)





 全ての疑念は晴れないが、自分の中である程度結論を導きだした伊吹。





「……悪いが魂をあんたに捧げる事は出来ない。いくぞカスミ」



「えー? いいのー? おねぇちゃんこまってるよー?」



「こんな怪しすぎる人の言う事をそんな簡単に信じちゃいけませんよ」




 巨大クリスタルを一瞥した後、カスミの手を引っ張り先へと進みだす。


 クリスタルを見つめたままその手に身を委ねるカスミ。





 <――――FB+SA1\T'"eI8sW0>jKo8.rvJsv+:P――――>





 引きとめるように声が響いてくるが、振り返る事なく先へと進む。


 二度、三度と同じようなトーンで続くが伊吹はそれに応えようとはしなかった。




「こんな訳分からない所、さっさと出てやる」




 ああいった仕込み的な人が居るという事は、出口もそんなに遠くは無いだろう。


 アトラクションや、お化け屋敷に似たような物だここは。





 大広間中央付近の巨大クリスタルから見える、入ってきた方とは反対側に穴が見える。


 そこから再び通路になっているだろうと察せられた。


 そこ以外に通路と思われる場所は見られないので、伊吹達は一直線にそこを目指した。




「あっ! ヒマワリだー」



「お? ほんとだ。あんな所に居たのか」




 目指していた通路付近にどこぞへ消えていたヒマワリの姿が見てとれた。


 呑気に毛づくろいをしている。




「ヒーマーワーリー! わーい」




 相棒を見つけた途端に猛ダッシュで距離を詰めて、そのまま抱きしめた。




「ゴロニャン」




 力いっぱい抱きしめられているにも関わらず、嫌がる素振りは無い。


 ゴロゴロと喉を鳴らして喜んでいるようだ。




「やれやれ、ただでさえ迷いそうなんだから勝手にどこかへ行くなよ?」




 少し遅れてやってきた伊吹はカスミに抱きかかえられているヒマワリの頭を撫でまわした。




 通路までやってきて振り返ると、少し遠目にある巨大クリスタルの全貌がよく見える。


 改めてその美しさに惚れ惚れとしてしまい、再びスマホで撮影する伊吹。


 クリスタルの中に見えた人影と銀鈴のような声が頭からまだ離れない。


 引っかかる事はまだあるが、先へ進む事に決めた。





「よし、行くか」





 大広間を後にし、再び洞窟を進み始める一行。




 クリスタルに彩られた通路が2人と一匹を出迎えた。



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