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20話 本当は……

26話エピローグまでまたお付き合いください。

 ああ、これが昔、同級生がキャッキャ言ってた『朝チュン』ってヤツですかい。

 鳥が鳴いてるんだかどうかは確かめ様がないけれど、気づいたら朝でしたからね。たぶん私は恋愛初心者の壁を突破したと思うよ。

 起きてからの皆さんの視線が痛いだろうなぁ、あー起きたくない。


「アリス、体調はどうだ? 今日の移動は君次第となったので、動けるようになったら知らせなさい」

「動けるようになったらって……いつでも動けますよ、ただ人に会いたくないだけで」


 顔が火照ってくるのが自分でもわかる。ちょっと嬉し恥ずかしの雰囲気を出していたら、あっさりと「平気ならば着替えて軽く食事したら出発だ」と通常運転仕様で返された。


 へ? 照れてるの私だけ? 肩すかしを食らったみたい。あっそう、そっちがそんな対応ならばこっちだって素っ気なくしてやるさ。


「わかりました、すぐ準備します」


 セレス様は軽く片眉を上げ私をみて、ニヤリと笑う。何か、と返せば「それならば普段のアリスと雰囲気が変わらなくなったな。他の連中が突っ込むスキもないだろう」といって去っていった。


 あら、何気にフォローしてくれてたのね? 確かに、これで気合いも入ったわ。さあ、準備して声の主に会いに行くわよ。



 クロモント山に入ったあたりから、襲ってくる魔物の数がずいぶんと減っているらしい。こちらとしては有難い話しなのだが、何者かの意図がからんでいるようにしか感じられない、引き続き警戒が必要だ、というのがセレス様の見解なのだそうだ。


 思うに、声の主が魔物の暴走を調整しているような気がしてならないのだ。


 あまり詳しく思い出せないのだけれど、北の子たちが煩いって言って私の命をもらっていったはず。

 北の子ってのはたぶん魔物じゃないかな? イヴァンで暴れてる魔物が多かったし。それを抑えるのに私の命、っていうか、生命力とかかな、それを使った訳だよね。そう考えると、この山にいる魔物はたぶん声の主の支配下にあると推察しているのだけれど。この状態を国全体に浸透させるのが声の主の願いな訳でしょ? ならば一刻も早く解決方法をさがさなくては。


 私はこの考えをセレス様に話してみた。私には見えない別方向からの意見も欲しいから。

 しばらく考え込んでから重い口を開いた。


「声の主が言ったことを当てはめると、アリスの考えが妥当だろう。ただ、国全体を賄うための生命力を君が提供するとなると……君が犠牲になる可能性も……いや、良くない考えはしないでおくのだったな」


 頭を軽く振ってマイナスなイメージを振り払うような仕草をしている。 

 それにつられて不安な顔をしていたら、くすりと笑い、頰をひと撫でしてくれた。あ、ちょっと安心。

 まずは私を呼んでいる理由と問題の解決策を話し合わないと進まない、山頂までのあと一、二日がとてももどかしい行程に感じた。



 グラッ、ユラ……ユラッ


 おお、というみんなのざわめきとともに大地が揺れた。


 地面にしゃがみ込む者や動揺する馬を宥める者で、隊の中が混乱状態になっている。 

 とっさにエレンが心配になり、急いで彼女の元へと向かった。何てことはない、アルにしっかり抱えられて不安顔ひとつしていない。

 エレン、あんた将来大物になるよ。

 仕事の邪魔になるだろうから、と彼女を受け取ろうとしたら、逆に怒られた。


「俺は指示出しだけだから動かなくても平気だ。エレンは預かる。それよりお前だ。この山の魔物が一気に襲ってくる可能性もあるんだ、しっかり叔父上の側にくっついてろ。ただでさえ魔物呼び寄せ体質なんだから」


 しゅん、として「ごめんなさい」と謝ってると、同じく指示出しを終えたセレス様が慌てて私の側に来てくれた。

 ギュッと抱きしめ深いため息をつき呟く。


「姿を見失ったので心配した。頼むから側を離れないでくれ。二度も私の手からすり抜けていったのだ、これ以上はダメだ」

「あー、ごめんなさい。エレンが心配だったので。でも大丈夫ですよ? 前にも言ったでしょ? 私は悪運から逃れることができるんです。だからいなくなったりしませんって、ね? 安心して」


 少しだけ泣きそうなセレス様に向かって、安心してもらうためにワザと明るく言ってみた。抱きついたまましばらく離れようとしないので、背中をトントンと優しく叩くと、落ち着いてきたのか、やっと解放してもらった。

 どうしたんだろ、気持ちが不安定になってるみたいだね。地震の影響かしら? こちらの人たちは地震に慣れてないからね、不安になり易いのかも。


 でもこんな不安定な状態のまま皆さんの前に出て行ったら、仕事にならないんじゃない?

 それこそ、今以上に隊員さんたちの不安を増幅させてしまう。

 私は人が居ないような場所を探し、少し一緒に歩いて改めて向き合った。


「どうしたんです? 普段と違った様子ですけど? 何か不安がありますか?」

「……いや、大丈夫だ。いや、それも違うな、大丈夫ではないのかも知れない。君の身の安全を考えるとたまらなく不安になる」


 切羽詰まった表情で顔色もあまりよくない。

 たまらず二人一緒に座れるような場所を探し、落ちつかせようとその手をとろうと動かした。

 ところが、その私の両手を自身の手で包み込み、更にその上におでこを乗せて吐き出すように話す。


「いつも私は置いていかれてしまうのだ。母上もエミリアも、私に笑いかけながら、そのまま背を向けて居なくなってしまう。だから君はダメだ、絶対に離さない。お願いだ、私を独りにしないでくれ」


 この人って……究極の寂しがり屋さんなんじゃないのかしら?

 ここがセレス様の一番弱いところかな。自分から誰かが離れていくのが恐くて、必死に心に鎧を纏っているのかもしれない。

 あまり人には深く関わらず、それでいて関わった人たちには執着してしまう。心は小さな子供のままだ。

 ルークの執事修行の時も、屋敷から出すのをかなり渋ってたって聞いてたし。


 そんなこと考えてたら、急に魔王の尻尾がワンコの尻尾に見えてきて……くすっと小さく笑ってしまった。


「ねえセレス様、居なくなった人ばかり追いかけても仕方ありませんよ? 自分の後ろを振り向いてみてくださいな。リアン様もいる、アルたち王宮の皆さんだって、ランドルフさんや屋敷の皆さんもいるじゃないですか。決して独りじゃありません、皆さんがあなたを見てくれてますから」


 びっくりした表情で顔をあげ、まじまじと見つめられながら、やがてニコリと笑ってくれた。


「そうだな、私は過去にこだわり過ぎていたのかも知れない。こんなことにも気づけなかったなんて。ありがとう、もう大丈夫だ」

「セレス様にも弱くなる時があるんですね? それだけ信頼してくれてるってことかしら?」

「私は本当は弱くて自信などひとつもない。だからこそ、周りを安心させるために強いフリをしているだけだ。私以外が自信を持てば、そこから私自身が自信や勇気をもらえるような気がするのだ。そうすることで自然と自信が持てるようになるし、力が湧いてくるのだ」


 そっか。自信の塊だと思ってたけど、必死に努力してたんだね、偉いよ。

 うん、だんだん余裕がある顔つきになってきたみたいね、よかった。さあ、みんなのとこに戻ろう。


 手を繋いで先ほどの場所へ戻り、背中を叩いて送り出そうとしていた時だった。空気がざわり、と動いた。同時にエレンのきゃあ、という声。


 慌てて近くにいくと、エレンがいつも抱いていたヌイグルミが赤い目をして変な動きをしていた。


「な、何これ!」

「エレンのねんねちゃん! 急に暴れたっ」

「アリス、私の後ろに。赤い目は危険だ」


 私とセレス様の目の前に赤い目をしたヌイグルミがふわりふわりとやってきた。


 ヌイグルミからも攻撃されるなんてっ!

 ロックオン状態のヌイグルミから私も目が離せないまま、睨み合いが続く……

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