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7話 王都への移動

「アルフレッド様……休憩したいです。お尻が限界です」


 涙目になりながら訴えるものの、当の本人は冷たい視線で私を見てフンと鼻を鳴らす。


 今、私は馬上の人です、はい。

 魔物避けのために、馬車ではヴォルフ、馬ではアルフレッド様という保護者が常に側にいないといけないので、現在は二人乗りでの移動になっている。


 王都に早馬で連絡が行き、私を保護するために急いで編成された部隊は、全員が馬に乗って来ていたので、当然帰りも馬移動になる。馬車も準備してもらって、とても贅沢に感じた。


 期待度満点で馬車に乗り込んで早々、酷い揺れに脳みそを掻き乱され、グロッキー気味に横たわる。サスペンション無しの乗り物がこれ程のものとは思いもしなかった。


 これ以上の揺れと乗り物酔いに耐え切れず、アルフレッド様の馬に同乗させてもらうことにした。

 確かに外の空気は美味しかったし、景色も素敵だ。しかしこれもまた最悪で……


 とにかく痛いのだ。

 何かって?

 お尻ですよ、お尻!


 馬に乗り変えをお願いした初日はまだ頑張れたよ。二日目でお尻と腿の内側が筋肉痛でアウト。流石に三日目は慣れるかと思ったが甘かった。

 お尻はもう皮が剥けてるんじゃないかっていうくらいビリビリしてる。


「アルフレッド様、アルフレッド様、アルフレッド様!」

「うるさいっ! だいたい馬や馬車に乗れないなんて聞いてない!」

「少し休憩したら持ち直しますから! だいたい紳士たるもの淑女のお願いは聞いてあげるものですよ!」

「どこに淑女がいるんだ? 口うるさくて文句ばかりの淑女なんて聞いたことないぞ!」

「文句ではありません! 要望ですよ、要望!」

「却下!」


 切羽詰まっているので殆んど怒鳴りながら伝える。それに対するアルフレッド様も怒鳴りながら応える。周りの側近や騎士達は私達のやりとりをみて笑いを堪えるのが精一杯といった感じ。


 半ベソをかきながら唸るも、一向に相手にされない様子にがっくりとうな垂れながら我慢する。少しして、側近らしき人が馬を寄せて、「そろそろ休憩をとりましょう」と言ってくれた時には、後光がさしてるように感じたよ……


 ようやく馬から降りて大きく伸びをしながらお尻をさすっていると、アルフレッド様が側に来て話しかけてきた。


「お前、もう少し馬に乗る練習した方がいいぞ」

「『お前』って言っていいのはルークだけです! アルフレッド様には言われたくありません!」

「くっ……」


 一瞬口惜しそうな表情をしたかと思うと、顔を背けて足早にその場から立ち去っていく。


 ……ちょっと言い過ぎたかな。だって憎まれ口しか聞かなかったんだもん、このくらいいいよね。ルークを探して泣き言を聞いてもらうことにしよっと。


「ルーク〜。お尻が痛いよぉ。こんなガタガタなんて信じられない。馬も馬車も地獄だぁ」

「……お前なぁ。わざわざ王子様に同行してもらってるんだぞ。有難いと思いながら少しは我慢するのが当たり前だろう」


 呆れ顔で諭され、更に鼻先をピンッと弾かれる。


「痛っ……」

「それに、王子様傷ついてたぞ。あんな言い方ダメだ。謝ってこい」

「だってお願い聞いてくれないんだもん!」

「そうじゃないよ。休憩だって魔物から守りやすいとこ選んで、小まめにとってくれてただろ? 冷静になって考えてみろ」


 そうだったの? お尻の痛さが一番で全然思いつかなかったな。言われてみれば、私が疲れる頃を見計らって休憩をとってくれてた。馬だって、基本的に人が移動する場合は必ずついて回る。荷物運びも馬車を使うのだもの、村の子供だって乗りこなしてる。


「……そっか、自分のことしか考えてなかった。謝ってくる」


 確かに。状況が見えてなかったかも……

 早めに謝るのが大事だよね。


 アルフレッド様を探して歩くと奥の方に手を組んで俯きがちに座っているのが見えた。やっぱり酷い言い方だったよね……せっかく私のこと思って言ってくれたのにごめんね。


「アルフレッド様……」

「何か用か? またしばらく移動するから充分休んどけ」

「はい……あの……先ほどは失礼な物言いをして申し訳ありませんでした!」


 バツが悪かったので、目をぎゅっとと瞑りながら頭を下げ、そっと下から様子を伺う。

 向こうも予想外だったらしく、目を見張るとギクシャクと立ち上がり、うろたえながら「おぉ」と謝罪を受け入れてくれた。


「悪かったな、『お前』なんて呼んで」

「平気です。私もイライラしてたんでキツく当たってしまいました。アルフレッド様だったらお前だろうがアリスだろうが、呼んでもらっても大丈夫ですよ」

「オレのことはアルで構わない。呼ぶのには名前長すぎるだろ」


 思わぬ申し出に嬉しくなってアルフレッド様の両手をぎゅっとと握った。照れているのか目元がちょっと赤い。


「じゃあ、アル。さっきはごめんね」


 早速名前を呼んで話しかけたら、「様付けはどうした!」と怒られた。へへへと笑いながら逃げるようにその場を後にした。


 舗装された道路と乗り心地の良い車しか経験なかった私には試練の連続だ。あと三日。耐えられるだろうか……

 ふ…んぬぅ…現代文明リスペクト!





「着いたぞ、城下町だ」


 門番の役人が敬礼して迎えると、アルを始めとした一行は軽く手を挙げて通過する。私まで特権階級になった気分でちょっと興奮する。


 王城まですんなり到着すると、役人やら侍女やら、それっぽい人達がワラワラとやって来た。あれよあれよという間にお風呂、お着替え、ブラッシングまでのフルコースを堪能して、現在王様がいらっしゃるお部屋の前にたたずんでおります……


 重そうな扉だなぁと、引きつった顔をしながら眺めていると、ズゴゴゴ……と扉が開く。


 いや、そんな音しなかったけど、雰囲気がズゴゴゴだったんだよね。絵とかドラマの設定っぽくゼフュール王と王妃様がいて、その傍らにたぶん王子様かなという人もならんでた。

 頭に描いてたよりもずっと若い夫妻に驚きを隠せない。


 しかし、王族との接点なんて、一度目の人生からは想像だにしなかったからねぇ……

 ファンタジーだぁ、と感動してると近くの役人に促されて挨拶するようにと言われた。


 しずしずと前に進んで丁寧にご挨拶をすませ、側近から私に関しての報告が始まった。


 聞いてるうちにだんだん飽きてきて、ふ と、アルがいないことに気づいた。周りをチラ見してもやっぱりいない。


 と思っていると、ガチャリと入室してきて「遅くなりました」と挨拶しながら席につくアル。ちょっと不思議そうな顔をしていたら、私を見てニヤリと笑う。


 一通りの報告が終わると、アルが補足として、ルークとヴォルフの処遇について話しをする。セレスティアル様のお屋敷に移動するのは明日以降になることも知らされた。今日は私が家族で過ごせるようにと、二人と一緒になれる部屋も手配してくれてたらしい。


 へぇ……お仕事となるとしっかりしてるなぁ。見直しちゃった。セレスティアル様の前だと甘えん坊ぽいけどね。


「父上、母上、それに兄上も。コイツを前にカッコつけなくても平気ですよ? 今はキチンと猫被っているようですが、私はずいぶん驚かされましたから」

「なっ!」


 何をいきなり暴露するんじゃ!

 最高権力者を前に私の立場が悪くなるだろ!

 何か反論を言おうとしたが真っ白になって言葉がでない。

 あたふたしていると、ゼフュール王から思わぬ一言が飛び出した。


「そうか! 助かった。威厳を保つのも疲れるからな!」

「はぁ……ん? 何ですと?」


 王様は姿勢を崩しながら軽快に笑った。王妃様はコロコロ笑うし、第一王子様も軽く肩を竦め、微笑みながら私に会釈してくれた。

 アルがこちらを振り返り、悪戯が成功したような顔で言った。


「これがうちの家族だ。まあ、よろしく頼むよ」


 あまりのギャップに、ポカンと口を開けて眺めていると「あとでヴォルフ殿に会いたいから待っててね」と王様に言われてしまった。


 ……こんなフランクな人が大勢の人を従えるすごい国を作っているのだ。


 アメイジング! 花護衛の国!


 猫被りがお上手ですねと聞いたら、特技の一つで限られた側近くらいしか知らないかも、と答えてくるあたり、


『真実は小説より奇なり』


 地でいってる王様、さすがです!


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