9話 名付け
「ホントにお前の頭の中を分解してみてみたいよ……何でそんな発想になるのやら……」
仏頂面で話すアルの側で頭を抱えてうずくまっていた。
くうっ……そっちこそ何で同じとこにゲンコツ思いっきり落とすのさ、しかもレディに対して!
だいたい子供が産まれる、イコールお母さん頑張る、の図式になるじゃないっ!
あまりの痛さにセレス様に泣きついたら、おざなりに頭を撫でながらすっと視線を外らせ、肩を震わせリアン様の側へいってしまった。もしかして……もしかしなくても笑いを堪えてるってことだよね。
えー……慰めてくれないんかいっ!
そのまま動向を追ったらリアン様まで体を折り曲げて笑ってる。ひどい話しですから!
もーいいっ!みんなで私を笑うんだからっ!
ぷりぷり怒ってたらヴォルフが側にやってきた。私の顔をじっと見てるのだが、やっぱり声は聞こえない。ホントは直接話したいのだけれど……残念だよね。代わりにギュッと抱きついて寂しさを紛らわせた。
アルが仲介に入って説明してくれる。
大きな狼はヴォルフの奥さんなんだそうだ。よく見ると優しい顔立ちをしているなぁ、ごめんなさい、ヴォルフの分身なんて言っちゃって。
子供は三頭、そのうちの二頭はチョコチョコ私の周りをじゃれるようにまとわりついて遊んでる。目で追ってるとクラクラして星が出てきそうだ……この子たちの相手は体力使うだろうな。男の子と女の子なんだって。
そしてもう一頭、ヴォルフの隣に目をつぶって伏せている子、男の子かな? 何となく。
「この子狼が次代の知識のある魔物になるらしい」
へぇ、この子がねぇ。じっと見つめてたら、片目だけ開いて私をチラ見した後、フンッと鼻を鳴らして反対側に頭を向けてしまった。
……何だろ、このチビっ子にもバカにされた感じ、失礼しちゃうわね。
「もともと一頭のみに全ての知識を引き継がせることになっているようだぞ。『教えて伝える』のではなく知識をそのまま『移植』する、と聞いた。だからこの子狼だけがヴォルフ殿にいつも付いているみたいだな。一緒にいることでどんどん引き継いでいるんだろ」
「『移植』ってことはヴォルフの頭から知識がなくなるってこと?」
「簡単に言えばそうなるのかな。完全に移植が終わると普通の狼に戻るのだそうだ」
「え? それってヴォルフがヴォルフでなくなるってこと? 私のこと忘れて捨てられちゃうの?」
急に不安になってアルの腕を引っ張った。心配ない、という感じで反対側の手で私の肩をポンポンと撫でてくれたので、すぐに落ち着けた。
「大丈夫だ、完全に引き継ぎが終われば、ヴォルフ殿はお前が望むなら一緒にいてくれると言っているぞ。ただし普通の狼として、だ。つまり俺たち王族との心話はできなくなる。相手の意向を汲んで動くこともあまりなくなるかもしれない。その役目を負うのは、今度からこの子狼になるようだ」
「あ、そうしたらこの子はもう家族と一緒に過ごすことができないの?」
家族と離れる辛さは身に染みているので、子狼の気持ちを考えるとなんだか切なくなってしまう。
「知識を引き継ぐ者は単体で行動すると聞いた。結婚相手を見つけて次代に引き継ぐまで常に独自の判断で動くらしい。今は引き継ぎ期間だから二頭だが本来ならヴォルフ殿は期間が終われば出て行かなければならない」
戻ってきたセレス様がアルからの話しを引き継いで説明してくれる。
「しかしそれ以降も一緒にいたい、と君が願うなら、それも可能だ。そして可能なわけは、名付けの契約が残っているからだ」
名前をつけるつけないに何か違いがあるのかよくわからなかったので、さらに詳しく話しを聞こうと思った。
セレス様が言うには、『名付ける』という行為は契約と同じなのだそうだ。保護し保護される、魂の結びつきに当たると言われているらしい。
だから次代にも『名付け』をしてもらい、私を守り続けたいのだと。『名付け』に関しては、ヴォルフが次代に頼み込んで決めた内容だということらしい。
名前を付けてしまうと私に縛りつけてしまうことになるのかな? 次代のこの子は平気なのかな?
「あ……じゃあ、一番最初に私がヴォルフに名付けちゃったから、それ以降の自由を奪っちゃってたってこと?」
「それは違う。彼は望んで君の保護にあたったと聞いてる。これは巡り合わせだったとも」
そっか、私もヴォルフに逢えたのは運命だと思ってるよ。あなたから生きる力をもらったからね。目の前にあるタテガミをワシャワシャとしてギュッと抱きついた。
あ、奥さんに悪かったわ……「ごめんなさいね」と奥さんに向かって声をかけると、逆に気遣われて尻尾で軽く撫でられる。
この家族から子狼やヴォルフを引き離してしまう申し訳なさもあって、奥さんにペコリと頭を下げた。
「本来ならば昨日のうちに顔合わせを済ますはずだったそうなのだが、この子狼が納得しなかったので保留になったらしい」
「納得しないってどんなことですか?」
セレス様がとても言いにくそうに口元を覆いながら下を向く。
一歩詰め寄って先に話しを続けるように促した。気まづそうに私をみないように「私が言ったのではないからな」と前置きして軽く両手をあげ喋り始めた。
次の瞬間、今さっきこの子狼に対して抱いた、同情とか共感、感謝などの感情がマッハで吹っ飛ぶ言葉を聞いた。
「あー……君がヴォルフ殿の娘としていることが納得できないと。ここまで間抜けな者を姉としては受け入れ難いとも……」
「なっ、何ですってーーーっ!」
あまりの言われようにセレス様の胸ぐらをギュッと掴んでしまった。はっと思い直して手を緩め、半目になりながら暴言を吐いたアイツをにらんだ。
ツカツカとアイツに向かって歩みより、両脇に手を入れて私の目の高さまで持ち上げてみた。地面から足が離れたからなのか、ジタバタと四肢を動かして、拘束から逃れようと頑張っている。さすがにちょっと重かったので、近くの石を支えにしてしっかりと向き合った。
「……おいお前、いい度胸してるな」
この場で誰が上なのか、コイツにハッキリと教えこませなければならない!
私がアンタのお姉ちゃんなんだから、絶対に認めさせてやるわっ!
少し怖い声で凄んでみれば納得するでしょっ!
……という計画だったのだが……
「ベシっ」という音とともにヤツの前足が私の鼻にヒット。あろうことか、グニグニと押し付けてブタ鼻にしまくっている。
「びにゃ〜い、はにゃにゃやめなひゃい〜」
潰れるかと思う痛さに、ヤツを離して自分の鼻を隠し涙目になりながら周りに助けを求める。
するとどうだろう、口元を押さえて肩を震わせるセレス様、私に背中を向けて決して目が合わないようにしてるアル、リアン様に至っては、笑い声さえ出ない悶絶ぶり。
三者三様の態度に、腹を立てた私は、赤くなった鼻のことなんか気にも留めずに、軽く腰に手を当ててこう言い放った。
「ヴォルフさん、やっておしまいなさい」
ヴォルフは了解とばかりに、ジャンプして素早く三人に近づいて、脛に思いっきり尻尾をヒットさせた。
声なくうずくまる三人を見て満足した私は、アイツに向かって人差し指を突きつけて、高らかに宣言した。
「お前の名前は今日から『ガウナ』で決まりだ! どうだっ、観念しろ、このいたずら坊主っ!」
「ガウナ」……ドイツ語で「いたずら好き」の意
次話以降は何日かあけるかもです。なるべく早めに投稿できるように頑張ります。




