8話 迂回ルートでの襲撃
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クロランダ領に入った。
気温が高い割に空気が乾燥しているのか、あまり暑さを感じさせない。全体的に人が住むところは高台になってるようで、風が通り抜けると爽やかな気分を味わえる。大きく伸びをして胸いっぱいに空気を吸いこんだ。
「……っ、ごぼっ、かっ……」
吸い込み過ぎでした……
そっと辺りを見回すと、モブ騎士さん……
なぜこちらを見てたのよ、もうっ。口元に人差し指を当てて内緒にしてもらった。軽く手を上げたのは了解ってことでいいよね?
小高い山を少し越えて広場のようなところまで来て休憩となった。ここまで来るのに予定の日数をかなりオーバーしているらしい。
やっぱり魔物の出現率が前よりも高いようで、追い払うために足止めをくらうことが多かったって聞いた。
この道を下れば領主の館はもう目の前だ。館の周りの街を眺めながら、アルに話しかけた。
「アルはクロランダ入りは初めてになるの?」
「そうなるな、この間は途中リタイアだったし」
「あ、ごめん、足のこと思い出すよね、怖かったでしょ?」
「怖いというよりも痛いって感覚かな、体だけで反応することがなくなった。前は考えずに行動してたけど、少し考えてから動くようになったよ。何が幸いするのかわからないよな」
そうだよね、そんなに簡単に乗り越えられる痛みじゃなかったろうに、頑張ったよ、アル。無性に頭を撫でてあげたくなって、髪の毛をワシャワシャと乱したら「こらぁ!」と怒られちゃった。何よ、ちょっと褒めたかっただけじゃない。
アルに怒られちゃったから早々に退散してセレス様のところに出向いた。
私が顔をみせると、言うか言うまいか、と悩んでいる様子だったのだが少し考えてから「ふむ」と一つ頷いたあとに頼みごとをし てきた。
「アリス、一つお願いがあるのだが」
「何でしょうか?」
「君が懇意にしている間諜を私に紹介してくれないだろうか?」
「ん? ヤンのことかな? それはまた何で?」
セレス様が言うには、個人的にヤンにお願いしたいことがあるんだそうだ。いつもの王都の家とか店じゃないから、呼べるかわかりませんよ、と前もって断っておいてから、ヤンと一緒に決めた合図を木の先にぶら下げた。
ヤンは私が一人にならないと出てこないので、しばらく休憩の仮テントの中で一人にさせてもらい、彼を待つことにした。
「ほーい、お呼び出しかい?」
「ヤン! こんなとこでも来てくれるんだね!」
感心しながら本人なのかどうか、ペタペタ触りながら喋ってると、ちょっとムッとした感じで言い返された。
「俺たち一族を馬鹿にしちゃいけないぜ。特に一度依頼を受けた相手の動向ってのには気を遣ってるからな」
「ありがとね、今回は私じゃなくてセレス様がヤンにお願いしたいことがあるって言ってるの」
「セレスって、あの毒矢のヤツか?」
私はコクリと頷いて話しを続けた。まずは、ヤンの方が紹介でも依頼を受けてくれるかどうか。一族を動かすとなると誰と契約するのか。契約に期間があるとしたらどのくらいまで延ばせるのか。
これらを確認しながら話していると、もう一人ヤンの隣にスッと入ってきた男がいた。
「わっ!」私はびっくりしてヤンの後ろに隠れるようにして恐る恐るその人を覗きこんだ。
「ご依頼があるという話しを聞きつけて参上致しました。詳しい内容は今夜、あなた様と王弟セレスティアル殿下がお二人の時、私と『これ』とでお伺い致します。それでよろしいでしょうか?」
「わかりました、セレスティアル様にも伝えておきます」
その言葉を聞いた瞬間に男が消えて、私はまた目をパチクリとしたまま「消えちゃった……」と呟いた。
「さすが親父だぜ。いつもながら格好いい身のこなしだよなぁ、俺もあそこまでならないとな。おっと、ところでアリスお嬢さん、いつまで俺を掴んでるんだよ、俺一緒に行けなかったじゃねえか」
「ああ、ごめん。突然だったからびっくりして。じゃあ今夜待ってるわ。お仕事頑張ってね」
「お、あぁ、そ、それじゃあな」
なぜか照れた様子だったのだが、軽く片手を上げたかと思うとヤンも消えていた。
この神出鬼没さには毎回驚かされるよ、本当に。
ヤンと連絡取れたことをセレス様に報告していると間もなく出発するという伝令がやってきた。
ただ、山道を下る途中に大型の魔物の巣があるようで、迂回ルートを通っての領都入りになるらしい。
領主の館に到着するのがまた一日延びたってことに安心する自分がいるのを感じてちょっと複雑な気分になった。まあ、最終的には私もクローゼ嬢に謝って、セレス様を婚約者候補から外してくださいって言わないとね。
漠然と不安な顔をしていたら、セレス様が私の髪をひとすくいして軽くキスを落としたかと思うと「大丈夫だ、全て順調にいくはずだから」と声をかけてくれた。
そうだよね、前向き思考がよい運を引き寄せるんだ、何ごとにも全力で、頑張っていこう! ニッコリと笑い返し、休憩の仮テントを飛び出した。
迂回ルートを順調に進んでいく。
ざわりと空気が動き「うわぁっ」と言う声。ガチャガチャと金属の擦れる音が間近で響く。何事? と周りを見回すと、騎士の何人かが剣を抜いていた。隊列の横の林の中から虎っぽい赤黒い魔物が二頭襲いかかってきてる。
「アリス、伏せておきなさい」
セレス様が気を遣って魔物を倒すところを見せないようにしてくれる。こんな時は二人乗りでよかった、と思った。
一頭が倒れたあたりで、騎士たちが慌てた声を出した。近くの魔物をさらに呼び寄せたようで、イノシシっぽいのが加わっている。
もしかして私が魔物を呼び寄せているのかもしれない……罪悪感と焦りでそわそわしてると、セレス様がアルの側に馬を寄せ、私をアルの馬に移動させた。
「私が行こう、アルフレッドはアリスを守れ」
「わかりました。隊員はセレスティアル殿に続け!」
騎士たちが順番に魔物に向かっていくが、イノシシがまた一頭寄ってきた。普段より魔物の動きが活発化している、ってこのことだったのね。
今回の襲撃までは先発隊がうまく追い払ってくれたのだ、とアルが教えてくれる。
「マズいな……」
アルが呟くのを私の耳が拾った。やはり今回の魔物は手強いらしい。
迂回ルートとはいえ、やはり巣穴の近くには強い魔物がうじゃうじゃいるのだろう、倒しても湧いてくるように増えてる気がする。
マズいかも、と頭をよぎった時、後ろからヒュンっと風が舞いあがった。
ヴォルフだ!
騎士の間を上手くかわして魔物に攻撃を加えている。
私の錯覚だろうか、大きい狼が二頭分、虎に向かって波状攻撃でダメージを与えていく。イノシシの方には小さいのが三頭分見える。
ああ、分身がつかえたのか……
あっと言う間に虎を倒して、イノシシも騎士たちと協同してしっかり倒しきったようだ。
やっぱり私のヴォルフだ、孫悟空みたいねって褒めてあげなきゃ。
分身したまま、それぞれから血を吸い取ってる。
「ねえ、アル。ヴォルフってば分身つかえたのなら王都で怪我することもなかったように思わない?」
アルはとっても嫌そうな顔をしてため息を吐いたと思ったら、思いっきり私の頭にゲンコツを落とした。
「ったーーいっ! 何すんのよっ!」
「あったり前だろっ、この馬鹿! よく見ろ!」
よくよく見ると、確かにヴォルフは一頭だ、んじゃ他は?
……微妙に違う狼さんたちですか、あらら。
「わかったか。あそこの小さいの、あれはヴォルフ殿の子供だ。お前に近々家族を紹介するって言ってたんだぞ?」
ほう、家族……子供? 子供!
ヴォルフに子供だって?
「えーーーーっ!?」
アルの発言は衝撃だった。私は目を見開いたまま固まってしまった。少し得意げな表情で私に教えてくれる。
「びっくりしたか?」
「ヴォルフってお母さんだったのーー!?」
「ち、が、う、だろーーーー!」
その瞬間にアルからゲンコツの二発目をくらうことが決定した。
明日以降は不定期投稿なるかも、です。なるべくお待たせしないよう頑張りますのでお付き合い下さいませ。




