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3話 結婚披露パーティー 〜会場にて〜

 今この会場には、国の大半の貴族が揃っているんだろうなっていうくらいの人、人、人。たぶん社交の季節のパーティーよりすごい人数だと思う。


「セレス様、人が多過ぎて恐いです」

「王族のエリアに行けば混乱は避けられるが……パーティーが始まるまではあちらに近づかないのが得策なのだ。いろいろと餌食になるからな。しかし……」


 溢れんばかりにざわつく様子は、大都会の大きな駅構内を思いだす。

 辺りを見渡しても知らない人の波がうねるように広がっていくような日本の光景と今のパーティー待ちの人たちが重なって、なんだか自分だけ弾き出されたような孤独感に襲われて、足元が少しだけぐらついた。


「やだ……」バランスを崩しかけ、セレス様の袖口をギュっと握ると、肩に手を添えらたのでちょっと安心した。ほっとした顔で見上げるとじっと私を見つめるセレス様。

 少し迷ったようだったが、納得したように「ふむ」とひとつ頷いて私の手をとり「こちらに」と歩き出す。


 連れ出されたところは花畑をもっていない 六領主のみなさんが揃っている待機エリアだった。ミラさんとカミュさんが見える、何かほっとする場所だ。少しでも知った顔が見えたことに、気持ちが安定するのがわかった。


「ここならば君も知った顔が多いだろう。あまり気疲れもしないと思う」


 優しく微笑まれ、私もついつい嬉しくなって微笑見返した。


「アリスちゃん……アリス様、ご無沙汰しております。お元気にしてますか?」

「ミラさんもお久しぶりです。カミュさんと仲がいいという噂しか聞こえてきませんよ?」


 冗談交じりに話し始めると「奥様たちの教育が大変で……」と愚痴をこぼすがちっとも嫌がっていないあたり、関係の良好さが伺えた。よかったね、ミラさん。


 少し先にはロッテ様がいるみたい。ん? ちゃっかりリアン様も隣にいるではないか!

 はっは〜ん、最初から示し合わせてたわね、後で問い詰めようっと。

 少し離れたところにサルーク領のリュシオン君がみえた。小さく手を振ると、向こうも気づいたらしく、軽くワイングラスを持ち上げて挨拶を返してきた。へえ、何か仕草も格好よくなってきたんじゃない?

 噛み噛みリュシオンを思い出して「ふふっ」と声が漏れた。


「だいぶリラックスできたようだな、もう平気か?」

「はい、お気遣いありがとうございます。これならばガッツリ営業もできそうです!」

「……今日くらい商売から離れなさい。元気を営業力で示すのは何かが違う」


 眉間に親指を当ててグリグリしながら喋るセレス様を見て、お互いにリラックスできたんだな、とちょっと笑ってしまった。



 国王夫妻と今日の主役、フィリップ王子夫妻が入場し、披露パーティーが始まった。


 王族が集まるエリアに顔を出し、国王夫妻と王子夫妻にずらりと並ぶ貴族たちが順番に挨拶をしていく。早いうちに挨拶できたから眺められてるけど、受け応える側ってかなりの重労働だよね、やっぱり王族って大変。


 そんなことを思いながらダンスフロアまで移動してきた。まずはセレス様と一曲踊る。前まで髪がなびくように踊ってたよなぁ、とか考えていたら「どこ見てる」と問われたので「髪」と素直に答えた。


「踊って気づいたがもっと短くても良いかとも思うな、君はどう思う? 今度リアンにも相談してみよう」

「そのくらいでいいですよ、五分刈りとかツルツルとか、想像できないですもん」

「……君の意見は多いに役立った、ありがとう。この話しは辞めておこう」


 げんなりした顔で返ってきた言葉に、首を捻る。結構いいアドバイスしたのに……


 一旦フロアから出ると、バクスター先生がいた。


「先生、どこに雲隠れしてたんですか? 全然見当たらなかったですよ?」

「僕って、かくれんぼのエキスパートだし、言ったでしょ? 肉食獣から身を守るのに必死なわけ」

「はぁ……頑張ってくださいな」


 引きつり顔の私の手を引いて、一緒にフロアに向かう。周りの貴族たちがザワザワと何かを囁き合っている。不思議な顔を先生に向けたら、ニッコリ笑ってたので気にしないことにした。


「アリスちゃんさぁ、セレスのことお願いね」

「何ですか、改まって」

「ん? セレスはね、愛情の受け方がわからないんだ。うち、母上いなかったし、父上は公務ばかりでね。僕たちもなかなか面倒みてあげられなくて、小さい頃あまり笑わない子だったんだ」


 昔を思い出してるのか、ちょっとだけ寂しそうな顔をしている。笑わない子、と聞いて昔の自分が被った。私と似てるんだ、だから最初から気になってたのか……


「愛情の与え方も知らない。エミリアちゃんに出会って少し変わったんだけどね、残念なことなったし。だからいろんな愛情や感情を経験して欲しいわけ。例えば焼きもちとかね」


 グイっと手を引かれて強引なターンをして抱え込まれた。周りから「キャー」という黄色い声。うおっいっ。焦るじゃないかっ!

 ドキドキのまま、表面だけ取り繕ってダンスを終えた。あービックリした、転ぶかと思ったよ。全く相手の状況をよくみてダンスしてくれよっ!


 フロアから戻ると機嫌の悪そうなセレス様と面白がってるアルがいた。

 理由がよくわからず、セレス様に話しかけようとしたら「次は俺ね」とアルに手を引かれてまたまたフロアに逆戻り。

 向こうをちょっと気にしつつダンスが始まる。踊って場所が移動した時、クローゼ嬢とセレス様がグラスを取り合ってにこやかにしている様子がチラリとみえた。

 え? 何でクローゼ嬢?

 気になる……何を話しているのか知りたいよ。無意識に視線はセレス様の方へと流れていく。


 その瞬間、アルがグイっと手を引いて、先生と同じように、ターンでアルの胸元に収まるような格好になった。ビックリしてアルを見上げると「今の相手は俺。俺の目を見ろ」と私の顎と視線を自分の方に向けさせた。

 案の定、周りから「キャー」やら「だいたーん」の声。すぐに元の位置に戻ったが、やっぱり今回もドキドキが止まらない。


「……ごめん、アル」

「俺だからいいけどな、よそ見してると危ないし、他の奴だったら問題になるぞ、無視されたって」

「う、うん……」


 ちょっとうつむきがちにダンスを終えて戻ろうとしたら、ざわめきがどよめきに変わるくらいのザワザワ感。

 何事か、と顔をあげるとセレス様がクローゼ嬢の手を取りフロアへ出てきた。


 え? ダンスするの? 最初の頃嫌がってたじゃない……

 私を虫除けにして、他の人とは踊らないって言ってたじゃない……


 自分でもよくわからない感情が胸を覆い、痛みを散らすように胸元をトントンと叩いて気を紛らわした。


「あー、セレス叔父上もバクスター叔父上も、今日は今までと違う相手と踊ってるからなぁ。明日からいろんな話しが飛び交いそうだなぁ」

「今までと違う相手ってどういうこと?」

「恋人探しはしてませんってことで、二人とも、ほぼ社交でのダンスはしなかったんだ。もし踊るとしてもバクスター叔父上はうちの母上、セレス叔父上はエミリア様かお前に限られていた。違う相手ってことは、そいつが現時点の婚約者最有力候補ってとこかな」


ん? 先生の相手って私だよね……

あーっ! またはめられたんかいっ!


「まあ、バクスター叔父上は年齢差を考えると結婚話しにならないってのは予測つくし。一度きりの相手だからそれほど話しの的にはならんだろ。だから俺も一度きりのダンスで終わらせたんだよな。セレス叔父上は何でクローゼ嬢と踊ってるんだ? これじゃ噂してくださいって言ってるようなもんだ」


そっか、私の方は大丈夫なのね……って!

全然大丈夫じゃない!

だってセレス様の方が大変なことなってるんだもん。

セレス様は私の大事な……

何だろ? 後見人ですよね? なら問題ないかな?


自分の中で逃げ道を作るような考え方をしながら、クローゼ嬢と一緒にいるセレス様を見つめるが、先ほどの感情との堂々巡りに頭を悩ませたりもしてしまう。

そんな私をアルが、呆れとも苦笑ともいえない微妙な表情で眺めていたなんて、思いもしなかった。

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