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2話 結婚披露パーティー 〜控えの間にて〜

「ららら〜ん、るる〜ん」


 鼻歌交じりでご機嫌な今日の私のドレスは、全体的にクリーム色で統一した華やかな仕立てにしてもらってる。


 本日の主役のアニー様はゴードン領の花畑カラー、薄紅色の豪華なドレスを身にまとっているので、皆それ以外の色を身につけている。


 そう、今日はフィリップ王子とアニー様の結婚式が行われたのだ。


 厳かに行われる式が終わり、高らかに鳴り響く鐘の音。お二人の姿が国民のみんなの前に現れると、割れんばかりの歓声と拍手。その祝福を受けながら笑い合う当人たちをみていると、誰もかれもが知らないうちに満面の笑みでお祝いしたくなるようだ。


 いつかは私もーーそう願う多くの女性陣の羨望の眼差しを一身に浴びたアニー様は、その視線さえも飾りの一部として、一層輝いていたようにも感じた。


 先ほど式と国民へのお披露目が終わり、これから行われる披露パーティーに参加する貴族は、それぞれに与えられた控えの間に待機している。


「はぁ……アニー様、綺麗だったなぁ。あそこまで豪華なドレス着こなせるのもアニー様だからよねぇ」


 今日の私だって可愛いさでは負けないけどねっ!

 クロエさんとかランドルフさんしか褒めてくれないもん、自分で自分を褒めとくわい。


 ドレスを軽く摘んで「ららら〜」と歌いながら一人ダンスでステップを踏んでいく。

 興奮冷めやらぬ私に対して、セレス様がソファから立ち上がり、私の側までやってきた。


「アリス、そこまで浮かれていると、どこかにつまづく。危ないから少しは大人しくしていなさい」

「平気ですよ、きちんと広い所にいるじゃないですか? っと、なぁっ……」


 お約束のようにドレスの裾を踏んづけて、バランスを崩した瞬間、セレス様に抱き込まれるようにして支えられた。あげく、ため息交じりにこうささやかれる。


「言った側からこれでは、アニー様のような淑女までの道のりはまだまだ遠いな」


 失礼ねっ!

 淑女になるのは明日からよっ! たぶんだけど……

 不満いっぱいに口先を尖らせるとムニっと摘まれて


「これだこれ、毎回毎回どうして君はこういう顔を……」

「うぃ、うぃらいれふ……」


 思うんだけど、そんなに思いっきり掴まないでもいいでしょっ。もうっ、やめなさいっての。

 そんなやり取りをしてる時、扉が開く音がした。


「失礼するよ〜、ん? ずいぶん二人で仲良くなってるじゃん。羨ましいねぇ」

「「なってない」」

「あはは、声まで揃えちゃって、まぁまぁ」


 お部屋に入って来たのはバクスター先生だった。今日の先生はいつもより二割増のいい男になっている。


「先生、いつものモッサい白衣よりすごく格好いいですよ? 普段からピシッとすればいいのに」

「だめだめ、学院の女の子がみんな僕に釘づけになっちゃうでしょ? タダでさえファンが多いのに、お勉強ができなくなるよ」


 ……さすがバクスター先生だな、その自信をうちの店で切り売りしたら、飛ぶように売れるわ。


「ところで先生のご用件は? パーティーの先触れ役って訳ではなさそうだし」


 私が不思議そうな顔をしながら尋ねると、ニッコリ笑顔で話し始めた。


「今日のパーティーのね、ダンスのお願いしにきたんだ。僕もイケメン親族枠だと、一曲くらい出とかなきゃ格好つかなくてさ。僕的には、アリスちゃんだったら何曲でも踊れると思うんだけど……セレスの機嫌が悪くなりそうだから一曲だけね」

「先生と踊るのに、何でセレス様の機嫌を気にするんですか? わけわからんです」

「ふふふ、アリスちゃんはまだ『お子ちゃま』枠卒業してないからね、いずれわかるでしょ?」


 クスクス笑いながらチラリとセレス様の方に流し目を差し向けてる。その視線につられて私も顔を向けると、なぜか苦虫を噛み潰したような表情。


「セレスってばプライド高いからぁ、独占欲とか出したくない訳よ〜。ちっちゃな時からそうだったよねぇ」

「え? セレス様にもチビっ子の時期ってあったんですか?」

「あるある〜、可愛いかったよ〜」


 セレス様の小さい時って……あの顔のままかなぁ、眉間のシワをグリグリと揉みながらため息つく幼児……ないわぁ。


「バクスター叔父上、セレス叔父上をいじるのはそれくらいにしておいた方がよろしいのではないですか?」


 扉をノックしながら入って来たのはアルだ。足はもう平気かな? 長時間立ちっぱなしはキツいだろう。ズリズリと椅子を引っ張ってアルの側まで寄せてから


「アルまでどうしたの? とりあえず椅子に座って。あんまり負担かけてまた捻ったりしても嫌だからね」

「お前ほどドジ踏まないから安心しろ。俺もアリスにダンスの相手を頼もうと思ったんだが……辞めとくかぁ」

「何で? アルだったらオッケーだよ? 先生はどうしよっかなぁ?」


 ちょっと意地の悪そうな顔をして先生の方に向かって言ってみた。


「え〜、アリスちゃん、僕見捨てられちゃうわけ〜? 大量のお嬢さんたちっていう肉食獣目の前にプルプル震えるツノウサギがみえないの? そこは救済措置取らないと〜」

「……先生、ホントに見捨てましょうか?」


 右手の握りこぶしを先生の前に突き出して、軽く睨むと、片手を口元に当ててクスクスと笑う。そうしてからおもむろに、私のこぶしに手を添えて「よろしくお願いします、お姫様」と手の甲に軽くキスを返してくれた。


 呆然とする私に「じゃあ後でね〜」と手をヒラヒラさせながら颯爽と帰っていく先生。


 毒気を抜かれた私は、ポカンとしてその手を見つめてると、アルが頭をポンと押さえ「よかったな、叔父上に認めてもらえて」呆れとも同情ともつかないような表情で呟く。

 最後にボソッと聞こえたのは「これから会う度にいじられるから……」だった。


 アルはセレス様に向き直り、すごく真面目な顔して喋り始めた。


「足はこの通り完治しました。武術訓練も少しずつ時間を延ばして鍛え直してます。行方不明の折はご心配かけました」


 深々とお礼の後にもう一度セレス様を見、コホンと咳払いしてから、さらに言葉を重ねる。


「ダンスはリハビリ目的ですから、気になさらなくても大丈夫ですよ。私もバクスター叔父上と同じで格好がつかないものですから。まぁ、他のお嬢さんたちと踊る気もありませんけどね」


そして「ですが……」といいながら挑戦するような目つきでセレス様に向かって


「もしアリスが一人になったり、寂しそうな顔してるのを見たら、遠慮なくもらっていきます。私も男だ」


 それだけ言うと今度は私に向き直り「じゃあパーティーでな」と軽く手を上げて挨拶して出ていってしまった。


 セレス様を見ると、苦笑しながらこちらへとやってくる。


「全く君は……いろいろなものを寄せつける。まさに『花』だな。私も寄せられた一人か……護るのもひと苦労だ……」


私の頭を髪を梳くようにひと撫でして、最後に絡まった髪を持ち上げて軽くキスを落とす。

ん? 撫で方変わった? まぁいいけど。



 そしてそれぞれの想いを抱えて披露パーティーが始まる。

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