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22話 エピローグ

 マールから衝撃の告白を受けてからひと月ほど経った。


 王都でのスピーディ被害もバクスター先生の陣頭指揮の元、迅速な対応が行われたため、これ以上の被害拡大はなくなっている。


 薬の服用者は症状の度合いによってだが、癒しの魔石を使用することと、神殿の泉の水を少量飲んで中和することにより、徐々に快方へと向かっているらしい。


 アルの足は、私が調査隊で出かけている間にかなり良くなったらしく、完治まであと少し、のところまできている。

 王都に戻った次の日、私はアルに会いに行った。出かける前に言われた婚約の話しに対しての返事をしなければならないと思ったからだ。この件だけは早めにケリをつけないとね。


「アル、ごめんなさい。私やっぱりまだ婚約とか結婚とかまで考えられないの。学院を卒業する頃になったら、その先のことも考えるようになれると思う。だから今はごめんなさい」


 アルはくすりと笑って、私の頭をひと撫でしてからこう言った。


「だいたいわかってたから気にするな。俺はお前を縛るつもりはないんだ。自由でいるお前を見るのが好きだからな。もし寂しくなったらそん時は来ればいい、そんな気持ちでいろ」

「ありがとね、アル」


 そういうアルは私から視線を外し、ボソボソとひとりごを呟いている。聞き取りづらかったので理解もそこそこで終わってしまったが。


「この時点で落とせなかったってことは、かなり立場不利かぁ、いや、一発逆転狙いでガツンと……でもなぁ……俺って引きずるヤツだったのか……」


 その足でユーリ妃にも会いに行った。

 アルとの話しを報告して婚約の話しはなかったことにしてもらった。すごく残念がられたのだが、こればっかりは気持ちの問題なので、どうすることもできず、ひたすら恐縮するしかなかった。

 まあ、最後には納得してくれたけどね。


 セレス様の肩の傷は、完全にとは言わないまでも、生活にはほぼ影響ないまでに治ったようだ。ざっくり切られた髪も肩にかからない程度で切り揃えられている。へぇ、軽くウェーブなんかかかっちゃって私より女子力高くなってるんですけど。

 整った顔立ちをより目立たせるようなオシャレな髪型に多少むっとしながら話しかけた。


「ずいぶんスッキリしましたね」

「ああ、おかげで風邪でもひきそうだ。あれはあれで、寒い時期の暖をとるのによかった」

「じゃあ、萌黄の季節にはずいぶんと涼しくなるでしょうね」


 何でもないことのようにさらりと返す言葉に、なるべくマールの件には触れないでおこう、という意識が働いているような気がして、私もその場での話しはこれで終わりにした。


 学院の方はこのひと月、多くの出来事を自分なりに消化するため、お休みをもらっていた。ようやく登校したら、休んでいた子たちも少しずつ増えてきているようで、徐々に元の明るい学院に戻りつつあるようだ。

 相変わらず退屈な授業を受けながら、お天気がいいなぁ、とボーっとしていたりする。


 放課後、バクスター先生のお部屋に、ビーノ師からいただいた魔石がセレス様の怪我に役立ったことを話さなければ、とお礼の気持ちも併せて伝えにいった。


「やっぱり僕って天才だよね〜。ビーノついて行かせて正解だったもん。アリスちゃんもセレスも僕に感謝してよ〜」

「感謝は先生よりビーノ師にしたいです。ビーノ師なんか、最初見た時本当に溶けるかと心配しましたよ」

「僕たち魔呪師は基本インドア派だからね、外出ると溶ける人多いのよ〜」


 ……だから出不精なだけだからっ!


 先生にもアルとの婚約話しは、きちんとお断りしたことを話した。


「ふうん、それでセレスとの距離縮まった?」

「縮まるも何も、相変わらず後見人と被後見人の間柄ですよ。私は今はそれでいいと思ってますから」


 ニッコリ笑ってそう答えた。

 先生も瞬間に理解したらしく、軽く笑って、


「君らがその距離を理解したならそれでいいかな? じゃあ僕はまだ研究が残ってるから。またね〜」


 先生の部屋を追い出されるようにして出たあとは、ぶらぶらしながら帰り道を歩いた。


 足は自然と街が見える丘に向かっていく。


「やっぱりここに居ましたね」


 私は見晴らし台から街を眺めるセレス様に向かって声をかけた。


「君か、学院からの帰りか?」


 頷く私を見ながら台を降りて、少しだけためらいながらも話し始める。


「マルティナが話していたことは本当だ。私は君の中にエミリアを重ねてずっと見ていた。しかし、いつの間にか君だけを見ている自分にも気付かされた」


 私から視線を外し、苦笑しながら話し続ける。


「私の中のエミリアが消えていきそうで、罪悪感と怖さにずっと苦しんだ。アルフレッドに君を託すことで楽になるなら、それでもいいかと思っていたのだが……君がさらわれた時に気づいてしまった。手許から離すといつか自分が空っぽになると。だから離せない、離すことができない」


 自嘲気味に軽くため息をつき、しばらく街の方を眺めながら風に吹かれている。

 一度少し強めの風が吹き、それが凪いだ後こちらを向いてこう言った。


「どうにも、私には君が必要らしい」


 言葉の意味が理解できなくて、私はしばらく固まってしまった。


 ……罰ゲームか? とっさに考えたことがこれだった。どう考えてもセレス様、私に告ってるよね?

 ありえないでしょう、素直な魔王サマだよ?

 何がそうさせた?


 せっかく私が被後見人の距離を保とうと心に誓った矢先にこれかいっ。この気持ちの整理はどうしてくれるのさっ。

 思わず、セレス様の前にツカツカと歩みより、腰に手を当てて顔を見上げた。


「……アリス? 何を怒っているのだ?」

「そんなの当たり前でしょ、人がせっかく……セレス様のお気持ちはわかりました、ありがとうございます。しかし、私たちは後見人と被後見人の間柄です。私が卒業するまではその関係のままですっ、いいですかっ!」


 私の剣幕に押されて、無言のままコクコクと首を縦に振る。

 私は人差し指をセレス様の目の前にかざして尚も続けた。


「あたしゃまだまだお子ちゃまなんだっ! セレス様もアルも、その気持ちはどっかの軒先にでも吊るして私が卒業して成人するまで眺めときなっ」


 はぁはぁと荒い息をしながらものすごい形相で喋る私に、呆気にとられたのか、セレス様はしばらく固まっていた。


 それから小さく噴き出すと、それをきっかけに笑いが止まらなくなってしまったかのようにお腹を抱えて笑っている。


 初めて見るセレス様のそんな姿に、今度は私が呆然とする番だ。そのうち何だか私も、こんなに真剣に悩んでたのが馬鹿らしく思えて笑い始めた。


 ひとしきり笑った後、お互いにスッキリした顔で向きあったら、なぜか同じ言葉が出てきた。


「帰ろう」「帰りましょう」


 差し出されたセレス様の手に自分の手を乗せて、二人でそこから一歩踏み出した。







 第2部 完







2部までお付き合いありがとうございます。3部については活動報告にてお知らせします。

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