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19話 赤い麦わら帽子

「姉ちゃん、また勝負しようぜ」

「わかったわ、次まで腕磨いときなさいよ」

「今度は別の遊びも教えてくれよ、俺が小ちゃい奴らと遊んでやりたいんだ」

「了解〜。私が直接来れたらいいんだけど、近いうちに連絡するね」

「きっとだぞ〜」


 村の子供たちの見送りを受けて、山へと出発する。

 良い子達じゃん、小さい子の面倒みるなんて、ご近所付き合い皆無だった頃の私からすれば、賞賛に値する行動よ。やっぱり子供は遊びで絆を深めていくのかしらね。


 山の中腹までは比較的緩やかな登りなので一気に進む。歩いて登る人用なのか、ちょっとした広場に到着、休憩の合図があった。


 馬から降りてセレス様を探した。居た〜、発見! 側にいって少し雑談でもしようと思ったら疲れた顔つきで断られてしまった。


「悪いな、アリス。少し一人にしてもらってもいいか?」

「別に構いませんが、酔いましたか?」


 苦笑して首を振られた。考えたら馬に乗り馴れた人が今更酔うこともないか。その場を離れ見晴らしのいい崖っ淵から遠くを眺め、下を覗きこむ。


 うっわぁ、なだらかな登りだと思ってたけど意外と谷が深いわあ。落ちたら助からんぞ、こりゃ。

 はっ、ダメダメ。よくないことは悪運運ぶもんね、考えない考えない。


 景色がいいなあとほぼ頭を空っぽにしてボーッとしてたら、隣にビーノ師がやってきた。


「お一人でこんなところにいると危ないですよ?セレスティアル殿はどうしました?」

「一人にして欲しいって振られちゃいました」

「……こういう場所ほど魔物に狙われやすいのに一人にするなんて、何を考えて……よほど余裕がないのでしょうか……」


 ブツブツ言いながら、私を騎士の多くいる場所まで連れていって、移動で外にいる時は、なるべく人が多いところにいなさいと注意する。さらに自分の首からペンダントを外し、私の首にかけてくれた。


「王族の護りより効果は薄いでしょうが、一応魔除けです」

「ありがとうございます。普段はセレス様、あんなんじゃないんですよ?」


 とりあえずフォローしておいた。ビーノ師は「わかってます」とニッコリ笑って頭をひと撫でしてくれた。思うんだが、私の頭って撫でやすいのかしらん? みんなが不思議と撫でていくよ。別に嫌じゃないけどね。


 出発までの間は騎士さん達にセレス様から教わった剣の素振りを剣なしで披露したり、雑談したりして親睦を深めた。話してみると気さくな人達ばかりですごく心が和む。


 集合の合図がかかり、馬に乗る直前に視界の端に何かが映った。赤?

 体ごと振り返ってみようとしたら、呼ばれたので気にするのを止めた。

 でもあの鮮やかな赤い色は例の目と違って綺麗な色だったね。何だったろな。


 道が細くなり、一列になりながら頂上を目指す。頂上に到着し、ひと息程度の小休止でまた出発すると連絡が入った。もたもたすると日が陰ってしまうかららしい。

 ここを一気に下れば、王都へ向かうのは、なだらかな一本道だ。


 出発の号令がかかり、隊は順調に山を下っていく。ふとセレス様を見遣ると、下る道とは別の細い道を気にしてるようだ。


 馬を寄せて「セレス様?」と問いかけると「……エミリア?」と呟き私の問いを無視してフラフラと小道へと馬首を向けていく。

 私は近くの騎士さんに、すぐに追いつくと伝え、セレス様の後を追った。


 細い道を下り、幅が狭くなったところで馬を降りたようで、セレス様の愛馬、私が命名した『揺りかご』さんがそこにいた。後から本当の名前を教えてもらおうっと。私の意思が伝わったのかわからないけれど『揺りかご』さんに私が乗ってる馬をお願いして、さらに奥に進んでいってみた。


 ようやく見つけた。

 全く、人には遅いとか時間を守れとかお小言ばっかり言っておいて、自分は隊から勝手に離れたりして規律はどうしたのよ、規律は!


 ちょっとぷりぷりしながらセレス様に声をかけようとしたのだが、その少し先に赤いリボンのかかった麦わら帽子を被った女性がチラリとみえた。


 帽子を目深に被っているので口元あたりしか見えないが透けるような肌で、髪の色は金に近い赤の色、ストレートロングの髪が風になびいている。

 セレス様はその子を見て愕然としているようだ。

 嫌な予感がして、早く連れ戻そうとセレス様に近づこうと距離を詰めた。


「……セレス、迎えにきたわ……」


 優しい声で口元に微笑みを乗せて、その白い手を差し伸べてくる。セレス様はその手を取ろうと少しずつ彼女に近づいていく。

  やだ、行かないで!


「セレス様、だめっ!」


 思わず叫んでしまった。セレス様はビクッとして伸ばした手を引くと我に返ったようにこちらを振り返る。驚きに目を見開いて私を見るがすぐ女の方に向き直る。


 しかし、その僅かの隙に斜め上から矢が飛んできて、セレス様の左肩に当たる。

「ぐっ」衝撃を逃しきれずに片膝をつくが、次の攻撃に備えて剣を抜く。


 女は「ちっ」と舌打ちしながら短剣を取り出し、素早く近づきながら振り下ろすが、剣で帽子とともにはじき返される。反動で女の被っていたカツラも弾かれ、中からは金赤とは似ても似つかぬ色、短かめの銀髪が現れた。


「あっ……」


 女ははじき飛ばされた短剣よりも、足下に落ちた帽子を慌てて拾いあげ、キュッと胸に抱きしめる。

 セレス様は立ち上がり、女の喉元あたりに剣を突きつけて、顔を上げさせようと間合いを詰めた。


「……誰だ? エミリアではないな?」

「エミリアです……髪の色は抜けてこんな色になってしまいましたが……」


 女は重ねるように微笑みながら話しかける。


「長い間寂しかったんですよ? 忘れてしまわれたのかと悲しくなってしまいます……さあ、迎えに来ました……私と永遠の眠りに就きましょう……」


 セレス様は痛みを感じたかのように顔をしかめ、剣先を力なく地面に落とす。


「くっ……本物のエミリアなら、そのようなことは言わない」


顔を歪めながら、誘いを振り切るように声を絞りだす。


「彼女は最後まで私に向かって前を見て笑えと言った。もう一度問う。エミリアの顔を持っているお前は誰だ?」

「……やはり厳しいですかね、本人になりすますには。お久しぶりです、セレスティアル様。お葬式の時に顔を合わせておりますけれど、覚えてないでしょうね」


 くすりと笑いながら話しかける女に、記憶をたどろうとする表情になる。

 私はエミリア様に似た顔という言葉が気になって、女をみようとしたが、先ほどの立ち回りで場所が入れ替わり背中しか見えない。


「もう五年近く経ってしまったんですね。私の大事なエミリアお姉様が亡くなってから」

「お姉様……エミリアには姉妹はいなかったはずだ」

「実の妹ではありません、私は従姉妹ですから。でも病弱だった私には、本当の妹のように接してくれましたよ。私の唯一の拠り所でした」


 胸に抱きしめた麦わら帽子を被ると、


「亡くなった時も私、こうして帽子を被ってたんです。これはお姉様がくれた大事な帽子だから」

「赤い……麦わら…… ティナという従姉妹がいたはずだが?」

「ふふっ、思い出してくれましたか? 私正式にはマルティナという名前なんです」


 もっとも、と言いながら少し体を斜め後ろにずらし、私にも女の顔が見えるような位置にたった。そして、その口から驚きの言葉が出てきた。


「彼女の隣では『マール』と名乗ってましたけどね」


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