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18話 セレスの想い

「姉ちゃ〜ん、次、姉ちゃんの番だぞ〜」

「は〜い、いっくわよ〜、せ〜の」


 山のふもとの村で日程調整のために滞在しているうちに、近くにいるチビっ子達の人気者になってしまった。


 山から強い風が吹き下ろしてくるのは不定期らしく、予測がつきにくいのだそうだ。ただ、それが起きたらしばらくは風が吹かない、ということになってるので、強風が吹いた直後に移動することになった。

 それまでは各自待機とのことで、それぞれが道具の手入れや軽い運動などをしている。


 私は特にすることもなかったので、ぶらぶらと散策してる間に子供たちと知り合い、遊ぶことになったのだ。


 地面に枝で大小さまざまな円を描いてその中に小石を投げ入れる、という単純かつ奥深い遊びにみんな夢中なのだ。

 スタートラインを設定し、距離が遠いところの円や近くても範囲が小さい円の中に石を入れれば高得点。

 子供たちが最初のコツを掴むまでは私の方が有利だったので、負けず嫌いの子たちがハマりまくったわけだ。


 実はこれ、小学校の頃に友達が遊んでるのを冷めた目でみてた遊びだ。単純だね、と本を読みながらチラリと眺めていた自分が情けない。もっと声をかけて遊んでおけばこの楽しさを満喫できていたんだね。


 おかげで今、全力で楽しんでます。子供相手に手加減なんかするもんか、真剣勝負だ!


「ふふ〜ん、今回は私の勝ちだね、君達にはまだまだ私は倒せないのだよ〜」

「うそつけっ、さっきは姉ちゃんがボロ負けだったろ、もう一回勝負だっ!」

「受けて立つわっ!」


 軽く腰に手を当て、のけ反りながら子供らと話していると、近所のおばさんから感謝の言葉を受けた。ここら辺には移動目的の大人しか立ち寄らないため、子供らはお手伝いしかすることがなく、退屈な毎日になるらしい。

 こんなに楽しい声を出す子供たちは久しぶりだ、と言っていた。

 私も子供たちから元気パワーをもらったので、と返してまた遊びに参加する。


 アンフィーサの哀しい事件を忘れて元気を取り戻すんだ。


「アリス、そろそろ身支度して食事の準備をしなさい」

「ひと段落したら向かいますね〜」


 セレス様に言われて、子供たちに最終ゲームだと伝える。名残惜しそうな顔をする子もいる中、ゲームを終えて宿に戻った。


「お腹が減りました〜、今日もご飯が美味しそうですねぇ」


 ニコニコしながら食堂に入るとセレス様から苦笑が漏れる。


「元気になったのはいいが、羽目を外して淑女らしくない言動が多くなり過ぎてるのではないか?」

「いいんですっ、まだまだお子ちゃまなんですから。今全力で遊ばずにいつ全力出すんですか。お子ちゃまはお子ちゃまなりの矜持ってもんがあるんですっ」

「レディだレディだとあれ程騒いでいたのに今日は子供か? 君変わり身の早さには舌を巻く」

「……誰のせいだと思ってるのよ、全く」


 最後は聞こえないように呟いて「食事にしましょ?」と食べる方に意識を向けた。私だっていろんな葛藤があっての今なのだ。これ以上波風立てずにこの距離を保つのよっ。


 食前にちょっとだけワインを舐めた。

 全力で遊び切ってからのワインがすぐに体に廻ってきてとっても心地よい。だんだん目蓋がふさがり「アリス」と声がしてるが反応できない。ああ、美味しいご飯、最後まで食べたいのに眠いよ……ダメ、眠るのは……


「ご飯……」と呟き、うっすら半目の私に呆れたセレス様が微かに笑いながらベッドに運んでくれる。眠りの淵にいるとセレス様の呟く声が子守唄のように響く。


「本当にまだまだ『お子ちゃま』だな君は。ずっとそのままでいてくれたなら、私も手元から離さずに守ってやれるのに。君が大人びた表情をするたびに私は……」





 窓から漏れる光がちょうど目に当たった。


「眩しっ」


 ムクッと起き上がり、大きな伸びをしてから身支度をする。少し早めに起きちゃったのかな?

 扉を開けて外に出ると、騎士のみなさんは素振りやら組み手やら、普通の訓練みたいなことをやっていた。ぼーっと見ていると、後ろからビーノ師もやってきて、


「アリスさんも早いですね。この早起きに付き合わされることもあと少しで終わるかと思うと、頑張った自分を褒めてあげたいです」

「ビーノ師は訓練は参加されないのですか?」

「部外者は専門家の領域を侵さないものです。だからゆったりした朝を満喫して残りは魔石の側にいたいのですが」

「本当に魔石が好きなんですね?」


 私が聞くと、すごく爽やかな笑顔でこう答えた。


「はい、どんなに大変だったとしても、好きだからこれだけのめり込めるのです。義務で続ける仕事は長続きしない。私は死ぬ寸前まで魔石と共にあると思いますよ。周りが呆れるくらいに」


 ビーノ師は軽く腕を伸ばし、首をコキコキ鳴らしながら「これ、よかったら持っててください」と手を添えられて何かを握らされた。

 私の手にあったのは小さな癒しの魔石だった。


「もうすぐ王都ですし、私は危ないとこに行きませんからね。旅のお守りで友達の神官からもらってきたんですが、あなた最後にどこかで転びそうだし、差し上げます」


 そう言ってあくびをしながら食堂へと歩くビーノ師を見送り、再び騎士の訓練に目を向けると、セレス様もいた。こちらに気づいたようで、近くまでやってくる。


「アリス、ずいぶん早く目覚めたな、疲れはとれたのか?」

「問題ないです。みなさん毎朝訓練されてたんですね、気づきませんでした」

「普段は離れた場所でやるからな、今日は場所を選べなかった」


 確かに、この小さい村で距離とったら山か崖だもんね。でも抜いてる剣とか久しぶりに見たかも、切れ味良さ気〜。

 じっと剣を見ていたら、クスリと笑われ「持ってみるか?」と問われた。

 差し出された剣はズッシリと重く一人だとヨロヨロする状態だ。


 補助についてもらって握り方から教えてもらうのだが……近いっ、密着度ハンパないっす。

 二、三回素振りもどきをしてすぐ止めた。

 もう勘弁してください、折角セレス様との距離感を取り戻したばかりなのに……


「昔、フィリップ殿と一緒にアルフレッドにこうして剣を教えたことを思い出した」


 セレス様は懐かしそうに軽く笑いながら、当時のことを教えてくれた。


 最初はアルも剣が重くて、ヨロヨロしてたんだそうだ。六歳だったらしいけど。そりゃヨロめくだろうよ。

 年数と訓練回数が増えていくと、しっかりとした太刀筋になってきて何回かに一回はアルも勝てるほど成長したようだ。ここしばらく手合わせしていないので、どちらが勝てるのか、わからないだろう、と。


「考えてみればアルフレッドももう大人なのだな、いつまでも小さい子供だと思っていたが……」


 後ろの方の言葉は呟きくらいになり、最後は黙り込んでしまった。

 眉間に軽く皺が寄って俯いている様子に、深刻な考え事かと思いつつ、恐る恐る話しかける。


「セレス様?」

「ああ、すまん。ふと考えたら次々と思うところがあって。食事をしておこう。いつ出発の合図が出るかわからないからな」


 軽く首を振って思考を追い出すような仕草をしてから立ち上がり、一緒に食堂へ向かった。


 それから少し後、風の吹き下ろしか始まった、という連絡がきた。

 準備が整い次第出発するので外に出るように促され、慌しくこの村を後にすることになったのだ。


 急な出発の準備に、先ほどのセレス様の表情が浮かないものだったことは、頭からすっ飛んでいってしまった。

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