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17話 事件の真相と私の立場

 神隠しにあった最後の一人は、塔の地下で薬漬けにされ瀕死の状態で発見された。昏睡状態から回復するかどうかは本人の体力に期待する他ない。


 今回の事件は、フローラを亡くした母親が、似たような年頃の女性をみかけると半狂乱になってしまうのを見兼ねた使用人達複数の犯行ということらしい。


 若い娘を見かけるとフラフラと幽霊のように歩いていく様子があまりに気の毒で、どこかの少女をフローラに仕立て上げれば落ち着くかも知れないと皆で話し合って決めたと言っている。


 最初は事情を話し、協力のお願いをしていたらしい。娘達も初めはあまり抵抗せずに協力的だったそうだ。おそらく抵抗できなかった、というのが正解のようだが。しかし奥様の異常性がわかってくるとすぐに帰ろうとして、引き留めようとする使用人と押し問答になり、結局軟禁になってしまったとのこと。


 誘拐した娘は全員、逃走や脱出を図ったりしたため、何度も抵抗する場合はスピーディを飲ませて、無理やり従わせるようにしていたらしい。

 無抵抗になったところで奥様の前に連れていったが「薬の匂いのする娘は違う」と言って自らナイフで刺し殺していたようだ。


 三人目が犠牲になった時点で直接会わせることを止め、昏睡状態の娘を離れたところから見せることにして残り一人の命だけは守れることに成功した、ということだ。


 私が攫われた日は、使用人たちが目を離した隙に、奥様がフラリと外に出て行ってしまったのが発端らしい。


 実家の領主の館にある隠し通路の先、私が寝ていた部屋は、昔奥様が使っていた部屋ということで、ベッドに寝ている娘をフローラと思い込み、拉致するに至ったようだ。


 誰が塔まで運んだかは使用人は誰も知らないのだそうだ。ただ、私が塔の入り口に寝かされていた、と使用人みな同じことを言っている。

 私も意識を失っていて証言できないため移動手段の部分はうやむやになってしまった。


 日を改めてから、神隠し事件に対する処分、処遇が決まった。

 誘拐と今回の神隠しに関わった使用人達には、領地の奥にある重労働現場での作業を何年か務める罰が下された。

 奥様については領主の監視のもと、生涯幽閉の身となる。

 亡くなった三人と昏睡状態の子には、それぞれ手厚い補償がされるとのことだ。


 いずれアンフィーサ領主からレオナルド王に向けて、領主辞任の意向書が届けられるはず。今回の事件で、領地経営から引退するつもりだ、と話されていたからね。領主はそれでも満足したような表情で、姉のいる部屋の方へと視線を送って、こう話してくれた。


「これからは姉と二人で、湖のほとりの別邸で暮らす予定です。自然に囲まれた毎日を過ごせば、いつか心が戻ってくるかもしれません。それまで長い目で見守るつもりです」


 陰惨な事件を経験した例の塔は、早い時期に取り壊す予定らしい。奥様があの塔をみて事件を思い出すのも気の毒というのもあって、早めの処置が決定したと聞いている。


 領民が被害になる事件だったが、起きた理由が母親の愛情が絡むとあって、同情的な意見が多く、とくに女性達の多くが領主姉弟を支援している。これまでの領主の人の良さも影響しているようだ。


 元を正せば、スピーディが原因で引き起こされた哀しい事件だった。これだけ影響を世に与えておいて、犯罪者は悪いとは思わないのだろうか。

 犯人に対する憤りとともに一刻も早く事態が収束してくれることを願うしかなかった。


 神隠し事件に一応の決着がつき、王都へ移動する準備が整いつつあった。出発の前にどうしても欲しいものがあったので、セレス様にお願いして少し時間をもらった。とても渋い顔をされたが、華麗にスルーして現在に至っている。


 今私は街に出てたくさんの絵描きさんがいる場所で、ある作品を探している。

 さすが芸術の街、いろいろなタイプの絵や焼き物、木がグネグネしてるやつとか、見ていて飽きがこない。


 ここだったら、私の絵も誰かの目に留まるかも。将来大きな賞とかもらったら、きっとサイン攻めだわ。今からかっこいいサインとか練習してもいいかも。


 考えてみたら、私の絵は小学生みたいな絵というわけではないと思うのよ。たぶん時代が私についてきてないだけなのよね。

 いずれ作品を描いたらアンフィーサへ持ってこようっと。


 いろいろみてまわってようやく目当ての物を購入した。


 それは奥様と一緒にたたずんだ湖の絵だ。


 あの時過ごした時間には、攫われたという恐怖など微塵も感じられなかった。むしろ、私を通してフローラにかける親の愛情を感じ、胸が温かくなった。

 母親からの愛情にあまり触れていない私には、マーサからの愛情にも思えて、この絵を胸に抱きしめ、私の一生の宝物にしようと思った。

 


 これは後日談として聞いたのだが、領主達が移り住んだ別邸の壁面には、多くの画家が協力して、見事な花畑が描かれているらしい。まるで花畑の中に住んでいるような錯覚さえ起こすような出来栄えに奥様が満足して、息をひきとるまでその部屋からでてこなかった、という話しが領民を通して様々な地域へ広がったということだ。




 アンフィーサ領主に挨拶を済ませ、調査隊の移動が始まった。

 整備された橋を渡り、王都までの道を順調に進んで行く。これから先の唯一の難所といえば、小高い山を越えるくらいだ。時間帯によって強い風が吹き下ろしてくるので、それさえ注意していけば問題のない行程だ。


 私は、セレス様にお願いしてアンフィーサで用意してもらった馬車で移動している。

 小回りが利く馬での移動が原則なのだが、事件のショックのため、という建前を利用してちょっとだけボーっとさせてもらっている。何となくセレス様と顔を合わせ辛いのだ。


 どうしても先日のセレス様の言葉が頭から離れないのだ。あの時震えながら私を抱きしめてくれたのは恋情からかと一瞬錯覚した。

 もう一度よく考えてみよう。


『手離せなくなる』


 セレス様は後見人として私を手放すことを前提としてるはず。手を離せない、ということは手元に置きたいってことよね。

 じゃあ何で手元に置きたいの?


 私が心配だから、かな? 何で心配なの?

 一人前じゃないからだよね。

 ってことは、一人前になるにはまだまだ時間がかかるってことになるじゃない?


 お? 今は一人前じゃないということは、半人前ってことだよね。

 半人前ってことは結局のところ、お子ちゃまってことか?


 ん? あたしゃ、お子ちゃまだから目が離せなくて困ってるってこと? だから独り立ちさせるまで手間かけるしかないってことだったんかい!


 くーっ……あんなシーンだったから特別な感情を持たれてたかなって思って勘違いしちゃったじゃないかっ!

 ああ、ゆっくり整理して考える時間あってよかった〜。全く乙女な感情になってた自分がとっても恥ずかしいじゃないのよっ!

 何か感傷的になってる今の自分にイライラしてきた。

 向こうが後見人の立場をとるなら、こっちも被後見人の立場を貫くわっ!


 折しも、休憩の号令が響き渡り、馬車が止まる。私は勢いよく馬車を飛び出し、セレス様の元へ駆けていった。みなさん馬から降りて思い思いの場所に動いて休憩をとっている。あ、見つけた。


「セレス様、ちょっとよろしいですか?」

「ん? 何か用か? だいぶ元気になってきたようだな、馬車から顔も出さないので心配したぞ」


 セレス様は軽く微笑んで、私の頭に手を置く。

 私はニッコリ笑いかけて、軽く両足を肩幅に開いて姿勢を正し、両脇に拳を握ると、セレス様のボディに一発、正拳突きをかました。


「ぐふっ……なぜ……急に……」


 悶えるセレス様。周りのみなさんは一様に固まったまま、目を丸くして私達をみている。一方の私は手をパンパンと払い、スッキリした顔でこう言い放った。


「殴りたくなったから」


 乙女の恥じらい、受けてみなさいっ!

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