13話 サルークを救え!
「お久しぶりです、サルーク様、リュシオン様」
「おお、アリス嬢、社交の季節は体調不良をおしてパーティーに参加したと聞きました。息子ともども心配しておりましたよ。もう大丈夫なのですか?」
なんか私って虚弱が売りになってないかい?
いいねぇ、可憐な存在をアピールできるじゃん。
でも、この領主何か抜け目なさそう。
「ご心配おかけしました。何分にもお酒に弱いもので、加減を間違えてしまったみたいです。まだまだ大人のレディには程遠いと、セレスティアル様からも釘を刺されておりますの」
リュシオンくんにダンスを申し込ませて私に売り込むあたり、策士っぽく感じるわ。あわよくば嫁にもらって王族と繋がりを持ちたいっていう感じがビンビンに伝わってくる。
「こちらに滞在する日数も限られていると聞いております。小さいながらもまとまった街になっておりますので、息子に案内させましょう」
ガチガチに緊張したリュシオンくんの後ろについて行くと、馬車が用意されていた。
「どど、どどうぞっ」
私が乗り込んだ後から乗って……つまづいてるし、しっかりしろ〜。
「大丈夫ですか?」
「だだ、大丈夫れしゅっ、あ、あの、パーティーでお酒飲ませたの、たぶん僕でし、ごべんなさん」
……犯人はおまいさんだったんかい……
慌てて謝るリュシオンくん、馬車の中で立ったまま頭下げたりしたら……やっぱり……
ぶつかるのわかるだろ、お前っ!
頭の角をさすりながら座るが、私と目を合わすのがダメらしく、窓に体ごと向けて外に向かって深呼吸してから喋りだす。
「すみません、こんな格好で。僕、面と向かって女性と話すのが苦手なんです」
「平気ですよ、その体勢が楽ならそれで結構です」
「ありがとうございます。そんな風に言ってくれるお嬢さんがあまりいなくって」
普通のお嬢様だったら怒るよ、丸無視なんだもん。
私は日本にいた分、コミュ障や対人恐怖症の知識があるから対応できるだけ。リュシオンくんなんか、自分に向き合って改善しようと努力してるだけすごい人だと思うよ。
「このサルークは、めぼしいものがないんです」
そう言って、リュシオンくんは呟くように窓からの景色を眺めながら私に説明した。
サルーク領は調味料の花畑がない六領地のうちの一つだ。
クロランダの西側に位置し、気候的には、ゴードンほど暑くもないし、クロランダほど高地に位置してるわけでもない。つまり、本当に普通なのだ。
地場産業と言えるものも特になく、クロランダや王都で護衛隊を務める人達の武具の下請けや、クロランダの市場に持っていくための野菜や家畜の産業など、まさにクロランダの下請け領地と化している。
クロランダ領主が絶対君主でサルーク領主はその腰巾着という構図だ。
「父はサルークの生き残りをかけて、クロランダの下に降りました。今でもこのサルークをなんとか生き残す方法を模索しています。でも僕は一生クロランダに頭を下げて生きていくのは嫌なんです」
窓から振り返り、私の顔をみて訴える。
「アリスさん、あなたはあの『神から見放された土地』と呼ばれたイヴァンを救った方だ。その力で、どうかこのサルークもクロランダの手下から脱却させてください」
リュシオンくんは私の手をぎゅっと握り、必死な目を向けて話しかけてくる。
と、ふいに自分がどういった行動をしてるか理解したらしく、あたふたと手を放して立ち上がろうとする……ありゃ……痛いだろそれ。
案の定、頭のてっぺんをガッツリ打ち付けて悶絶。
どちらからともなく乾いた笑いがでた。
ひと通り街を見させてもらった。
確かにインパクトが薄い街だと言わざるを得ない。ここの町おこしを請負えと? あまりに無謀な挑戦のようで頭が痛くなる。
とりあえず夕食の時間になったので、着替えを済ませて食堂へと顔を出した。
すでに領主親子とセレス様は席に着いて、ワインを楽しんでいた。
「遅くなって申し訳ありません」
席に着くなりワインとブドウジュースが一つずつ出された。
クロランダが近いので、ワインやブドウジュースは安く手に入るらしい。
ふうん、ワインねぇ。ワインと言ったらチーズとかクラッカー?
ん! 肉って良くない?
肉の塊、ステーキとかハンバーグ!
おう、今日のメインもステーキではないですか! これ無理やりいけるかも!
「リュシオン様、例のお話し、いいアイディアがありますの。領主様も含めてのお話しでもよろしいですか?」
「え? 今日の話しでもう思いついたのですか? 詳しく聞きたいので、みなさんの食事後にワインでも飲みながらでどうでしょう?」
「わかりました。さあ、みなさん早く済ませましょう」
私がニッコリわらって周りのみなさんに話しかけると、セレス様が嫌そうな顔をする。
笑顔のままそちらに顔を向けると「また悪だくみか……」と呟いている。
失礼ねえっ!
私は救世主となるべく天使のアリスちゃんとして降臨しようとしてるのに!
いつかセレス様が私にひざまづく時が来ることを想像して不敵に笑った。
呆れ顔をしながら私に近づいてきて「そういう顔は百年早い」と言いながら頬をグリグリとされてしまった……痛いです、ごめんなさい。
「まずは、このサルークはワインをクロランダから安く仕入れることができるということから注目してみましょう」
私は、ワインには肉が相性が良いと力説して、サルークを肉の街として推していきましょう、とプレゼンした。
江戸時代に『今日はうなぎの日』って書いて慣例化した例をあげて、適当な日に肉の日を設定すればいいだろう、と適当なことを言い放った。
「月の最初は肉の日として値段を半額にするとか、ワインを一杯サービスするんです。安息日の前の日は肉の日とかしてもいいんじゃないですか?」
話しを聞いていたサルーク親子は感心したように私をみつめるが、セレス様は違った。
眉間にしわを寄せ、例の親指グリグリで「また適当なことを……」と軽く首を振る。
「いいんですよ『無理が通れば道理が引っ込む』ということわざもありますから。言っちゃったもん勝ちですって」
「そんな言葉は聞いたことがないし、言うだけ言って赤字になったらどうするのだ?」
「いや、気にしないでください。アリスさんの提案に一か八か乗ってみましょう、父上。ここで勝負にいかないでいつ動くんですか? 最初は赤字かもしれません。諦めずにやってみましょう」
「息子がこんなにやる気なんだ。私だって最後のひと花咲かせてみせますよ。明日からは職人ギルドとの話し合いだな、領主であることがこれだけ楽しいなんて初めてですよ」
サルーク親子のキラキラした目をみながら、一日も早く地場産業として確立して欲しいと思った。
そしてふと気がついたのだけれど……
「リュシオン様、お喋りが普通にできてますよ?」
「あ……れ? 緊張しないなんて。町おこしの話しに集中すると不思議と平気です」
ふふ、このまま女性が相手でも商売の話しだったら平気って感じに持っていきたいね。
何かリュシオンくんのお姉さんになったら気分だわ。生き生きしてる彼がちょっと格好よく見えたりもするし。
私が微笑ましく彼を見ていると、さえぎるように人影が立ちはだかる。
誰か、と見上げると不満顔のセレス様が「やはりその顔も百年早い」と頬をグリグリされた。
何よ、見守るくらい、いいじゃない!
それから一年のうちにサルーク領が劇的変化を遂げる。
毎月肉の日のアピールをするサルークの商店街のみなさん、武具の下請けに加え、食器の製作に励む職人たち、王都貴族を始め、地方貴族を招待してサルークでの肉の日の実施をアピールする領主親子。
領主と領民が一丸となってサルークを盛り立てよう、という取り組みが、他の領主にも認められ始めた。
それまでクロランダの属領のような扱いだったことを微塵も感じさせない力強いリュシオンくんの成長を喜びながら、ワインで乾杯する話しはもう少し未来の別の時期のお話し。




