12話(閑話)ヤンの呟き
今日は連続投稿〜
俺はヤンっていう名前だ。
本当は俺たち一族に名前などないのだが、あのお嬢さんが俺と親父に名前をつけてくれた。お嬢さんが仕事の確認するときに名前がないのが呼びづらいんだって。
だから今はヤン。
来年あたりにはまた違う名前なってるかもな。
親父って言っても、本当の親父かどうかもわからない。仕事の関係上、親子連れの方が怪しまれずに行動できるからそう言っているだけだからな。
俺達の今回の仕事は、赤い花畑の実の部分から液体を搾り取って、それを粉にする作業だ。今度は大量にその粉を作りたいらしく、一人じゃ手が足りないからって俺までかり出された。
今度は、っていう意味は、親父が何年か前にもそのお嬢さんから依頼を受けたからだ。そん時は討伐も依頼されて双頭鷲の内臓も渡したんだってよ。すげえ毒あるんだけどな。
この粉ってのが結構やっかいで、口を布で覆っての作業になるんだ。不思議に思って聞いたら、毒を含んでいるらしいんだと。毒って聞いてびっくりしたが、少量に分けるといい薬になるって話しだ。
こんなに集めるなんて、毒の研究家か?
まあ、俺には関係ない話しだな。
俺たち一族は与えられた仕事を完全にこなすことをモットーとした一族だからだ。
考えることは許されていない。考えるなんてことは、依頼人がやればいいことで、俺たちが考えることはいかに任務を全うするか、ということだけだ。
さて、今日もあの花畑に行って、実の回収作業をするか。
何だ? 崖のところから若い男が花に手出してるじゃないか。
待てよ、それは俺の花だ。お前が取るんなら別の花にしとけよ。
「その花って毒あるけど必要?」
慌てて顔をあげたもんだから、あいつ、崖から落っこちていきやがった。しょうがねえやつ。
実を大量に回収して小屋に戻ると、親父があいつを小屋に運んでいた。
俺は親父に向かって、
「そいつ、崖から落ちたやつだ。例の花に手を出そうとしてだんだ。声かけたらびっくりして落ちた」
「なんだ、そうだったのか。身なりがいいからな、どっかのお坊ちゃんだろう。手当てしてやればたっぷり金もらえるぞ」
依頼人からの金なんてたいした額にならないんだそうだ。だから恩を売って金づるにしたり、新しい依頼人にしたりするらしい。
金をふんだくるにはコツがあるんだと。
何でも、最初は受け取らずに辞退して次に会う約束をするらしい。で、そん時会ったら金に困った、と言えば楽勝で手に入るってさ。
次の依頼はこのお坊ちゃんなのかな?
「ところでさあ、こいつに声かける時、あの花に毒があるってこと言っちゃったんだ。死ぬから別にいいかと思ったけど生きてるもんな、どうすればいい?」
「なっ……顏は見られたのか?」
「いや、そんなヘマしないさ」
「ならいい、この坊ちゃんを引き取りにくるまで喋れないことにしな、そうしたら毒ってのも空耳だったかもって勘違いするかもしれん」
「わかったよ、金もらうまでの辛抱だな」
改めて見ると、こいつの足が大変なことになっていた。
親父の診立てによると、骨はポッキリいってはいないんだと。ただし、治るまで相当かかるらしい。俺のせいじゃないぞ、こいつが勝手に落ちてったんだ。
だいたい、あっちの崖から普通は登ってこないって。まあ、俺たち一族くらいになれば、どんな場所だろうが関係ないけど。
気がついてから、ものすごい痛みに耐えなきゃいけないらしいんだとさ。親父も経験したらしく、死んだ方がマシってくらい痛いらしい。脂汗までかくもんだから、あの液体の絞りかすをちょっとだけ飲ませてやった。
貴重な金づるだし、死なせるわけにいかない。でも取り出した粉も金になる。死なない程度だったら絞りかすで充分だろ。
それを飲むとだいぶ痛みがとれるらしく、すぐまた寝るんだ。いっぱい寝るんだから治りも早いんだろ、たぶん。
しかし、少しの量でいい薬になるってのは本当なんだな。絞りかすでこの効果だ、俺も怪我したらこの粉飲もう。
そう言えば、クロモント山に登った連中はちょっと具合が悪くなってたな。
あいつらもこの粉飲めば治るんじゃないかな、あとで親父に言ってみよう。
前の依頼人が山にある赤く光る石を採って来いって言ったんだ。
赤い石なんて面白そうだから俺も連れて行ってって言ったのに、足手まといになるからダメだって言われた。俺だって結構訓練してるんだ、山の頂上までの距離を大人と同じ速さで駆け抜けることだってできるはず。ちょっと遅れるかもしれないけどな。それはまだ体が小さいからであって、能力が劣ってるわけではないと思うんだ。
なだめられてクロモント山行きは諦めたけど、早く大きくなりたいよ。そうしたらどんな任務だって任せてもらえるんだからな。
今は粉作りだけど、次はもっとかっこいい任務がしたいな、ああ早く大きくなりたい。
何日か仕事をしてたら、赤い石の任務をした連中と話す機会があった。
もうだいぶ調子がいいらしい。
何でも、赤い石に直接触れると気持ち悪くなるんだそうだ。そこらへんに転がってるわけではなく、大きな塊からカケラを削ってくるらしいんだが、その時に多少触るらしい。
うへっ、気持ち悪くなるんだったら行かなくて正解だったかも。
頂上が広場みたくなってて、その広場を囲むように四ヶ所と、あと真ん中に赤い石が置かれてるらしい。端っこの石の一つは何回も削られてるから半分くらいになってて、それだけは削りやすかったんだとさ。
そうそう、その半分になった石なんだけどな、削った分だけ石の中の光がだんだん小さくなってきたって言ってたな。また削る依頼があるんなら光が消えてるってことないのかね、俺が依頼受けるまで光が消えないことを祈るしかねぇな。
まあ、次があるって訳じゃないけどな。
金のためとはいえ、気持ち悪くなる任務ってのも嫌だな。仕事選べるんだといいけど。
そんなわがまま通らないのは知ってるし、俺たちは淡々と仕事をするだけだ。
途中どんな魔物がでるのか聞いてみたら、オオカミとか、山猫みたいなやつ、あと鷹とかのくちばしが鋭い鳥なんだと。
くぅ……たまらねぇ。
俺も討伐やりてえな。討伐の仕事だったらいくらでも受けるぜ。
護衛隊ってのは依頼出さないもんかな?
護衛隊の護衛って、笑っちゃうよな。
でも最近は軟弱なやつしか護衛隊にいないって親父が言ってる。
何年か前までは本当に強かったんだって。
クロモント山とか東の森にはやっかいな魔物が住みついてるらしいんだが、ここんとこ何年もそいつら出てきてないんだと。
噂の『記憶持ち』が魔物抑えてるんじゃないかってのが親父の酔った時の口ぐせさ。
記憶持ちなんて、一生お目にかかれもしないと思うから、どうでもいいや。
とうとう、こいつを捜してた連中が来た。
何とこいつってば、第二王子のアルフレッド様なんだと。
親父はこいつに話しを聞いてたから知ってたらしいが、俺は喋り禁止だったから、極力側に近づかなかったんだ。
王族だったらたんまり金をもらえるだろうよ。親父、頑張ってふんだくってこい。
しかし、あの隊長って男、全然隙がないな。
俺たち一族もびっくりするくらい鍛えてるぞ?
あの隊長は敵には回したくないな。
坊ちゃん、じゃなかった、第二王子をうまく依頼人にできれば、俺たちって王族の使いに引き立てられるかも。
そこらへんのおっさんや嬢ちゃんより金回りも良さそうだし。こいつは期待できるんじゃないか?
アルフレッド様が出ていってしばらくして、お嬢さんから連絡が入った。
もしかして花畑を調べにくるかも知れないから、道具はすぐに片付けろ、だと。
もう粉作りは終了するのだそうだ。
急な依頼の打ち切りに少し納得がいかなかったが、まあ、考えることはない。
今回の俺たちの仕事はここまでだ。
次の依頼人は誰なんだろう。俺はもう少しこのお嬢さんでもいいんだけど。
前の依頼人のおっさんみたいに、俺たちを虫ケラ扱いする奴らもいるから、今回はずいぶん気が楽だった。
次も楽な仕事だったらいいな。でも討伐の仕事もいいし。
まあ、どんな仕事でも、与えられた仕事を完璧にこなすのが、俺たち影の一族だ。
内容が閑話だったんで本編(若干お遊び)を追加投稿です。




