11話 丘の上の花畑
「ねえ、セレス様〜、いつまでもその不機嫌そうな顔止めましょうよ〜。楽しい旅の醍醐味が半減しちゃうもん」
「しちゃうもん、じゃないだろう、全く……今回はリアンもいないのだから静かにしていなさい」
ぶつぶつ言うセレス様とは正反対に今の私は超ご機嫌。
なんてったって、調査隊の一員として王都から移動中なんだもの!
アルが転落した現場で聞いた、謎の声と毒の花に関する調査が必要になったため、改めて調査隊が組まれることになったのだ。
捜索していた時に見落としがないか、花を特定して、毒の成分抽出をする、などの理由から、再びセレス様が隊長での調査にきまった。リアン様も同行を希望したのだが、予算の調整の時期に重なっているため、残念ながらセレス様とは別行動になった。
私もセレス様に同行させてもらえるように頼み込んだが、あっさり断られた。なおも食い下がると、しつこい、と逆に怒られる始末。
しょんぼりしている私を見かねたのか、バクスター先生のフォローで一発逆転、調査隊に参加できることになったのだ。ラッキー。
「いいんじゃないセレスが付いていれば? 護符と聖水用意しておくよ。アドラーの時みたく勝手に動かなきゃ平気だよ」
「しかし調査目的なのですよ? 彼女が役立つとは考えられません」
「『記憶』の中から解決策や参考になることがあるかもしれないでしょ? 我々も打開策の手ごたえが今ひとつハッキリしない薬だし、手がかりは少しでも多い方がいいよ」
諦め顔のセレス様に対し私は目をキラキラさせて「おとなしくしてますのでいいですよね?」と確認する。しぶしぶ『負けた感』をだしながら、ため息とともに首を振ると「君が言っても真実味にかける」と言われたが、聞こえないふりをしてバクスター先生にお礼を言った。
それから先生は付け足しのように私に向かって言った。
「今回は僕の代わりにビーノをつけるよ。彼、意外と使えるかもよ〜」
ビーノって誰だい? まあ、当日なったらわかるか。
その日、アルに面会予約をして夕方に会えることになった。
右足は腫れも引いて立つことができるようになったようで、左足はまだまだ時間が必要な感じだ。
「アルあのね、今度の調査隊に参加して転落現場に行ってこようと思ってるの。毒があるっていう花、どんな感じのお花だった?」
「真っ赤な花だ、でも花びらがひらひらして可愛い花だったんだ。お前に似合うかなって思ってな」
ちょっと照れてるようで、頬が赤い。
わざわざ選んでくれてありがと。でも何かが引っかかるんだよね。
「それって絵に描ける?」
「ああ、でもあんまり上手くないぞ、俺」
「わかればいいの、下手で構わないよ?」
……おい、この絵のどこが下手なんだよ。
下手のレベルが違うだろっ。私と同じ小学生レベルの絵だと思ってたら、絵描きにしちゃ下手ってレベルじゃないか!
「こんなものかな? 悪いな、あまりしっかり描けてない」
「う……平気平気、しっかり伝わったよ、ありがとね」
頬を引きつらせて絵を受け取りながら、自分はもう人前で絵は絶対に描かないと心に誓った。
……小学生並みの絵を上手に描けたと自慢したあの時に戻って回収したいです。木の職人さんごめんなさい。あれは算盤の絵とは言えないシロモノでした……
「んー、何かどっかでみたことあるかもなぁ、赤だよねぇ、赤かあ、赤」
「結構インパクト強い花だぞ? まあ現場着いたら見れるだろう」
「あとさ、例の声は?」
「男の子の声だな。俺達よりもずっと小さい。ちょっと高めだけど男だってわかるくらいって言ったら、何となく伝わるか?」
「うん、ありがと。近くに住んでる子とかだったら連絡とれるようにしとくね。毒って知ってたんだもの、他にも何か知ってるかも」
花を思い出せないもやもやがあったが、とりあえずアルに礼を言って別れた。明日から馬に乗るし、早く寝ようっと。
何日かの移動行程を経て、ようやく事故現場に到着した。
ここかぁ、確かにこの崖危ないかも。よく登ったわね。斜面が急で砂地なので足運びに注意しないと本気で危ない。
見晴らしがいいとこまで登ったら、斜め下にちょっとした丘がある。そっちを覗いてみよう。
「……これって、ダメなやつじゃん……」
側まできていたセレス様が私の呟きを拾う。
「何がダメなのだ? 花が咲いているだけだぞ?」
「花は花でも栽培しちゃいけない花なんです、て日本じゃないから構わないのか。でも危険なんですよ」
今私の目の前に咲いているのは、花だけ見ると、芥子っぽい花なのだ。いや、全く同じではないと思うのだが……
アルの絵と毒という言葉から薄っすらと嫌な予感はしていた。緑色のネギ坊主っぽいとこがパンパンにふくれてる。でも、ここの葉っぱは菖蒲の葉みたいなとんがったのになってるし、うん、決まった訳ではないよね。もしかして私の記憶違いの可能性もある。
実はテレビと交番のポスターしかみたことないんだが、確か坊主をキズつけると……
がーん、変な液体でた。うわぁ、この花の量的にマズいって。ほぼ危ない薬物に近いってことか? 絶対に中毒になる人がわらわらでるよ。
青ざめた顔をしていたら、隣のセレス様がさらに衝撃的なことを言った。
「この液体の成分はスピーディと同じだ。ということは中和剤も一緒だ、ということになるな」
「何ですって? なら学院の生徒はみんな薬物中毒になってるってことじゃない!」
学院で休んでる子達の顔が次々と浮かんでくる。
そう言えば、フローラ嬢。スピーディの副作用で亡くなったって言ってたじゃない。急性の薬物中毒で死んだんだ、たぶん……
「ねえセレス様、早く王都に戻ってスピーディの蔓延を止めないと。暴徒化したらパニックになりますって」
「まずはバクスター兄上に向けて通信の魔石を使う。早めに手を打ってくれるはずだ。王都は任せておいても大丈夫だろう。それよりもアリス、君はこの薬の解毒剤を知らないか?」
そんなの知らない。こんな危ない薬の知識なんて持ち合わせてないもの。
テレビでみたドラマか何かだと、ベッドに繋がれてひたすら水飲んで抜けるの待つとかだったような。
適当な知識を申し訳なさそうにセレス様に伝えると、快方に向かうならば、やってみるしかない、と言って通信内容にその話しも加えてもらう。
少しでも早く対応できますように、と祈るしかなかった。
「スピーディの調査はここまでとしよう。あとは王都での動きに期待するしかない。あとは少年の声を聞いた、という話しだったが」
セレス様に連れられて、保護されていたという小屋まで来た。
救助に関わった親子連れはもう旅立ったらしく、無人の小屋だけがそこにあった。
セレス様もアルを引き取る際に親子連れと話したようだが、子供の方の声は聞かなかったそうだ。アルも手当されてる間中、男の子の声は聞いてないようで、たぶん喋れないんじゃないか、ということだった。
他に人影はなく、声の正体は掴めないまま、帰りの日を迎えてしまった。
今回の調査ではスピーディの解明ができただけでも成果あり、ということで終了らしい。
声に関しては、うやむやのままになった。害はないのでそのまま、ということらしい。
手がかりがない以上はしょうがないよね。
「セレス様〜、来た道をそのまま帰るんですか? 私、もっと観光……いや、安全な道を帰りたいです」
「今、観光とか聞いたが? 帰りは崖に戻るわけにいかないからな、別ルートだ」
帰りは、西側に大きく回って帰るらしい。
クロランダの隣、サルーク領に一度入ってから王都に向かう。
領主の館がある街を通るので、領主に挨拶することになるだろうと言われた。
サルーク領って言ったら、手汗のリュシオくんのところじゃないの。
私は、リュシオンくんのダンスから、えらい目にあったのを思い出して少し遠い目をしてしまった。
まあ、今はパーティーもないし、ダンスをする意味もわかったから、大丈夫だ。
リュシオンくんの緊張した顔が浮かんで、クスクスと笑っていると、セレス様が嫌そうな顔をした。何かな、と思って首をかしげると、
「その笑いと顔が、何かを引き起こさないかとても不安だ。頼むから領主の館では静かにしていなさい」
だそうだ。
んもう、人がちょっと笑ったくらいで、悪者みたいに!
セレス様の方がよっぽど魔王顔してるんだからね!
ぷりぷり怒りながら、移動の馬に乗せてもらう。
私は遠くの茂みからこちらを見つめる目があることも気づかないまま、サルーク領へと向かった。




