4話 異変
「ルーク、あっちの奥の方に鳥。私が外したら仕留めて」
「了解」
今、私達は森にいる。
お祭り用の肉を確保しに来てるのだ。
なんだかんだ言っても、私とヴォルフのコンビが一番狩りが上手いらしい。村のみんなからも狩りは任されたので、より一層気合いがはいる。
今回はルークまで連れてきてるので、効率よく仕留めることができている。
鹿もどきの魔物を昨日のうちにゲットしたので、あとは黄羽鳥やツノウサギを何頭か狩れば大丈夫なはず。
二日後に護衛隊が到着するという連絡があったようだ。隣村から伝令役の人がくるのだという。今朝がた村長の家に来ていたのを見た人がみんなの家に伝えて回ってた。
「あと二日かぁ。楽しみだね」
「おい、あまり浮かれて狩りをするとケガするぞ。母さんからも注意されただろ?」
笑いながらルークに話しかけると、いつもより神妙な顔つきで釘を刺された。
確かにそうなんだけど……
すっごく楽しみなのはしょうがない。
だって家族とお祭りなんて経験ないし!
「はあい、もう少し静かにしてま〜す」
クスリと笑って、戻ってきたヴォルフの鬣をワシャワシャしておく。
ルークはやっぱり呆れてる。
「結構狩れたし、そろそろ帰るか」
「うん!」
お祭りでは、村人有志が楽器を演奏してくれて歌えや踊れやで大騒ぎになるらしい。
なんと、大工の棟梁もウクレレで参加するそうだ。意外な特技があるもんだ。ルークは何かやるのか、と聞いたら『可愛い女の子探し』だそうだ。ご馳走さま。
村の入り口近くに差しかかった時、ルークがピタリと立ち止まった。
同時にヴォルフが体を低くして身構える。
気づくのが遅れた私は、思わずルークの背中に鼻をぶつけてしまった。
「痛いよぉ。なんで急に止まるのさ」
「……村が……変だ!」
言うが早いか、ルークが村まで走っていく。
私もヴォルフと共に後から続く。
「なっ……」
言葉を無くして呆然と立ち尽くす私の目には、焼け崩れた村と死体の数々。
どの村人達も、何かの毒を受けて亡くなったのか、皮膚が変質しているようだ。
二、三歩前に歩くと、今朝まで笑っていた人々の顔が見てとれる。
真っ青になりながら家まで向かうと、ルークが崩れるように座っていた。
あぁ……ダメだ……
マーサもおじさんも、ひと目で手遅れとわかる有様だ……
あまりの光景に、私は目の前が真っ暗になって意識を手放した。
ハッと飛び起きるとベッドの上だった。
知らない部屋だし、頭がガンガンしている。
すぐ様ベッドから這い出してヴォルフに縋りついた。
「……ヴォルフ……マーサとおじさん、大丈夫だよね。居なくなったりしないよね。」
一縷の望みをかけて口にする。
ヴォルフが慰めてくれるのか、手や頰をしきりと舐めてくれる。
フラフラとしながらも、部屋から出て、ここがどこかを確認することにした。
ルークはどこ?
外に出ようとしたら、居間っぽいところにいるルークが見えた。鎧を着た騎士らしき人達と何やら話しているようだ。
よかった。ルークは無事だ。でも、ずいぶんと顔色が悪い。
その中の一人が話しかけてきた。
「お目覚めですか? 村人のほとんどが双頭鷲の毒と攻撃でやられてしまいました。村の方々も火で応戦したらしいのですが……残っているのは、あなた達だけのようです」
……私達だけ……
手を引いて椅子に座らせてもらい、話しを聞く。
「先発隊から魔物急襲の連絡をもらい、急いで駆けつけたのですが、発見した時には既に……」
「……そうですか……」
自分のとは思えない乾いた声をだして、そう答えた。
そばにきてくれたルークの手をギュッと握り、肩に頭を預けて静かに泣いた。
優しく背中をさすってもらい、落ち着きを取り戻したところに、騎士様の話しが続く。
ここにいる騎士達は二日後に到着するはずだった白藤の花護衛隊だそうだ。先触れに立った騎士が村の上空の異常に気づき、本隊も急いでこちらに向かったが間に合わなかったらしい。
双頭鷲という魔物は、北の山や東側の森の奥に生息しているらしく、こちらに飛んでくることはほとんどない生き物だと言う。今回、何故村が襲われたのか調査をしなければいけないとのことだ。
そんなことどうでもいい……
いつも私の手のひらから幸せが溢れていくんだ。
神様って本当にいるの?
何で私にばかりこんな思いをさせるの?
こんなんだったら、最初の人生のように傍観者でいる方がよっぽど楽だよ……
二度目の人生なんてもう辞めたい……
ぼんやりと聞いていたら気分が悪くなってきた。
騎士様に断りを入れ、ノロノロともう一度さっきいたベッドに戻る。
ヴォルフが寄り添うようについてきているが、気にすることも出来ない。
……何も考えたくない。このまま眠って目が覚めなければいい……
体を丸めながら溢れる涙をそのままに、ゆっくりと目を閉じた。
今はただひたすらに……
大切な家族と一緒だった幸せな夢を見させて。
夢うつつの状態で過ごすこと二日間。
三日目、ルークがツカツカとベッドまでやってきて、私の頰を両手で勢いよく挟んだ。
パァン!
「痛い!」
「そうか。ならよかったな。痛いってことは生きてるってことだ」
ハッとしてルークを見上げた。
私だけが悲しいんじゃないんだ。
悲劇の女王を気取ってる訳にはいかない。
ルークだって私以上に悲しんだはずだ。
あぁ、ごめんね、ルーク。自分だって泣きたいだろうに、私を思って気丈に振る舞ってくれてるんだね。
何ていいお兄ちゃんなんだろう。大好きだよ。
本当に目が覚めた。
私はベッドの上に正座をしてルークに向き直った。
急に真剣な顔になったせいか、ルークも居住まいを正して私をみる。
「ルーク、心配かけてごめん。もう大丈夫。これからどうするか二人で考えよう」
「そうだな。父さんと母さんは居なくなったが、まだオレが居るだろ?」
「うん、お兄ちゃん、大好き」
「何だよ、急に。気持ち悪りぃな」
嬉しさが込み上げてきて、ルークに抱きつきながら思わず口にする。
優しく頭を撫でてもらいながら、更にギュッと力を込める。
「だって本当に好きなんだもん」
「よしよし、オレがお前を絶対守ってみせるからな」
「期待してる」
こんなところで立ち止まっているのは、マーサやおじさんに申し訳ない。
前に向かって歩き出そう。
「さて、どっか行く宛てある? 私は村以外知らないし。狩りでなら生計立てられるよね?
「そのことなんだけどな。護衛隊の隊長さんからお前に話しがあるって言っていたぞ」
なんだろう? だいたい騎士様の知り合いなんていないし、繋がりないけど……




