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6話 小間使いアリス

 ちょっと隣の奥さん、聞いてよ!

 って言いたいくらいに今の私は誰かに不満を聞いて欲しい。

 魔石研究科のみんなが合宿に行っている間の私の涙ぐましい努力を。


 私が家から出られなくなった時、セレス様が自分の仕事を全て割り振ってしばらく王宮に来なくてもいいように、と無理矢理調整してお休みしてくれてたらしい。


 その分の回収作業とばかりに私を使う使う。まるで消耗品ですか、と言わんばかりにこき使われている。

 あっちの部署にこの書類を持っていけ、向こうの部署からあの書類を持ってこいなどと、足が棒になりますよ、っていうくらいの忙しさだ。ちょっとでも休もうものならば「遅い!」と叱り飛ばされる。

 あまりの忙しさに不満を漏らすと、


「仕方ないだろう、リアンと他二人は休み返上で仕事をしてくれたのだ。代わりに今休暇を取ってもらっている。だから君が三人分働くのだ」


 すごい言い訳だ。でも私のために無理してもらったから言い返せないところが痛い。

 唇を噛みしめて「次は何ですか?」と尋ねる。

 挑むような私の顔に満足したのか、ニヤリと笑い「じゃあこれだ」と書類を渡してくる。

 くぅっ、久しぶりの魔王モード全開のセレス様。

 負けるな私。日本の、いや、違うな、ゼフュールの夜明けは近いぞ!

 今なら幕末人の気持ちがわかるかもよ!


 次の日も、疲れた体にムチ打って朝から一仕事頑張った。

 セレス様の執務室のソファに座ってぐったりとしていたら、リアン様がやってきた。


「おや、アリス、早いですね。約束して働いてもらう時間よりもずいぶん早いようですが?」


 何? 契約時間があったのか? 聞いてないんですけど!

 驚いてセレス様の方を見ると、しれっとした顔をしてる。


「君が私にかけた迷惑料だと思いなさい。そう考えると多少の時間外労働など苦にもならんだろう」

「むきーーーっ!」


 う、訴えてやるっ! 絶対に、確実に、渾身の力を込めて訴えてやるっ!


 鼻息も荒く不満をもらしていると、リアン様が側までやってきて「元気になってよかった」と言いながら頭を撫でてくれた。嬉しくなってニッコリ笑う。さっきまでの不満は霧散した。

 さあ、今日もお仕事頑張るぞ!


 少し仕事をしていて気がついた。何だかリアン様の機嫌がとてもいい。書類仕事をこなしている時にも、とにかく笑顔なのだ。

 おかしい、普段のリアン様は鉄面皮なはず。

 セレス様の側近だけあって表情を隠すのが上手いはず。なのに薄っすら笑顔とは。


 早速リアン様に「ご機嫌ですね?」と聞いてみた。途端に片手で口元を覆い、コホンと咳払いをひとつ。

 怪しい、絶対に何かあるだろう?

 じっとリアン様を見つめると、あろうことか、目が泳ぎだした。


 やっぱり。何か隠してるわね。

 私は刑事ドラマの熟練刑事さながらに、リアン様を正面に見据えて問い詰めた。


「隠してるとろくなことになりませんよ? 早く言った方がリアン様もすっきりするでしょ?」


 私の顔をしばらく見てため息をついたかと思うと「実は昨日とおとといの二日間、ロッテとデートしてたんです」と暴露した。


 ほう、私に内緒でそんな楽しい時間をね。目を細めてリアン様を見ながらニンマリと笑った。


「アリス、獲物をみつけた捕食動物みたいだぞ、まるでパーティーにいるご令嬢連中のようだ」

「え、そんな顔してます?」

「ああ、それを見ると寒気がしてくる」


 セレス様、そこまでディスらなくてもいいじゃない……

 リアン様をチラ見するとコクコクとうなずいている。君も同じ考えか。


「それで、ロッテ様とはどんな感じの進展具合なんですか?」

「え、そんなことはアリスに関係ないじゃないですか」

「何言ってるんですか、最近の若者のデート市場調査と商品展開につながるんです。さあ、早く教えてください」


 決して近所の噂好きのおばちゃんじゃないからね! 市場調査よ、調査!

 粘り勝ちでリアン様からデートのお話しを入手した。遠い目をしてるのは見ないふり。


 ロッテ様は少し前からじゃがいもの納品と商品精算のために王都を訪れていたそうだ。私の体調不良もあって、デートは無理だろうと思ってたのが、意外に早く復帰してくれたことと、セレス様から休暇を取るように言われたので、二日間休ませてもらったとのことだった。


 私は知らなかったのだが、王都から半日離れたところに小さな街があるらしく、二日間楽しみました、とのことだった。

 私が鼻息荒くして、お泊まりデートですかって聞いたら、しぶしぶうなずいて認めた。

 一泊二日のお泊まりデートしたんですって。

 お泊まりデートですよ、奥さん!


「まあ」と目を輝かせれば「そのくらいにしてあげなさい」というセレス様。

 今度は私がしぶしぶうなずいて、続きはまた今度、と言って仕事に戻る。リアン様がほっとした顔をしながら、同じく仕事に戻る。

 その日からしばらく、リアン様に避けられてるように感じたのは気のせいではないはずだ。



 魔石研究科の合宿が終わり、私もセレス様の小間使いから解放され、通常授業に戻っていった。

 バクスター先生から呼び出しを受けて、夕方近く、部屋に顔を出した。


「セレスのとこから予算もらえた?」

「あ」


 すっかり忘れてた。あまりの人使いの荒さに、そんなことも言われたっけ、と今思い出したくらいだ。


「すみません、記憶の彼方に飛んでいってました」

「もう、ご機嫌とりでアリスちゃんを送り込んだのに意味ないじゃないの〜」


 ご機嫌とり、というのが理解できないが、確かに予算の「よ」の字も出さなかったのは悪かった。


「家に帰った時にでもお願いしておきますよ、とにかく王宮の仕事がハード過ぎて、帰っても寝るだけでしたから」

「ふーん、進展なしかぁ、まあ時間はあと少しあるしね、また何か考えようっと」


 何かって……私とセレス様に期待されても、後見人と被後見人の関係以外は無理ですって。進展はリアン様の方だから、そっちのカップルで楽しんで欲しいものだ。


 その後、バクスター先生と他愛ない話しを少しして家に戻った。


 家のお部屋で、久しぶりにお茶を飲んで本を開く時間があることに、自由時間がたくさんある学生さんって気楽でいいかも、と思った。

 単にこき使われ過ぎて感覚がマヒしてるだけなんだと思いなおしたのはベッドに入ってからだったけどね。



 合宿が終わったあとはしばらく大きなイベントはなく、学生生活を満喫する日を過ごしている。


 お店は襲撃されてからすぐに元通りに戻ったし、売り上げにも影響はほとんどないとの報告だった。


 ミラさんのジューススタンドは私が買い取り、リンダに店を任せている。

 実はリンダのお兄さんが領地経営の学科を卒業して一年間見習いで地方にいたので、就職先と交渉してこちらに来てもらうことにしたのだ。

 スタンドの運営をお兄さんにお願いして、販売はリンダが担当。もう少し経営に慣れてもらったら、念願の、街でのイートインを始めるつもりだ。


 今年の新商品はクレープとくず餅にしようと考えている。くず餅用の葛はじゃがいものでんぷん粉でまかなうし、きな粉も流通ルートを確保した。クレープ用のクリームの確保がちょっと手間だったが、とりあえずひと揃えできそうだ。


 ロッテ様にお願いして、じゃがいもの他に牛の育成に力を入れてもらうようにしよう。

 確か、北海道の寒さが厳しいところで、人間より牛の数が多い村があったと思ったな。似たような環境のイヴァンなら、牛の育成も失敗しないだろうと考えている。

 牛が確保できれば乳製品はかなりの収入になるはず。イヴァンも潤うだろう。


 将来はリアン様と結婚でもしてくれたら、身内価格で原材料が浮くかしら?

 おっと、他人の幸せを自分の都合に合わせちゃいかんかったな。反省反省。

 でも、早いとこ結婚してもらったら、私ってイヴァンに遊びに行けるじゃん!

 あ、また利用すること考えちゃった。

 

 新商品は社交の季節までお預けだし、何か大きなイベントでもあると目標ができて楽しいんだが……

 待ってるだけじゃダメよね、自分でイベント開催とかできないかしら?

 セレス様に明日でも相談してみようっと。


 楽しくなって軽く鼻歌交じりになりながら、ベッドに入っていろいろと考えてみたつもりだが、眠気に負けてすぐに考えを放棄したのはご愛嬌。おやすみなさい。

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