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2話 学院へ行こう

「セレス様、どうです、似合います?」

「制服に似合うも似合わないもないだろう。早く準備しなさい」


 もうっ、せっかく可愛い制服なのに褒めてくれてもいいじゃない。不満気に口を尖らせる。クロエさん達は「お似合いですよ」と言ってくれたので、満足して笑った。



 今日から私は王立学院に通う生徒です!


 私ぐらいの年頃と言えば、見習いとして仕事につくか学院に通うのが当たり前ということで、入学のための手続きをすすめてもらうことにしたのだ。


 アドラーでの事件以来、なるべく一人にならない環境を、ということもありヴォルフが帰ってくるまではセレス様宅で生活することにしていた。当初はヴォルフが帰ってくるまで、という間借り生活を学院に通う間は続けるように話し合い、向こう三年間はセレス様宅の居候となることに決めたのだ。


 身の回りのお世話をクロエさんが申し出てくれて、今は王宮からレンタルさせていただいている。


 目的を持って勉強するなど経験がなかった私だったので、久しぶりの学生生活になんだかちょっとどきどきする。


 どの学生も基本、社交関係の繋がりを作るために入学する。

 ダンスやマナー、音楽を共通で学び、領地経営、文官教育、護衛隊を専門課程として学ぶ二段階学習になっている。

 もう一つ特徴的なのが魔石研究で、入学当初に全員が魔力扱いの適性検査を受けて、適性のあるものは研究科に在籍することになっている。


 前に一度、バクスター様との雑談で「すんごい人の魔法って手から火とか水が飛び出すんですか?」って聞いたら、腹抱えて笑われたわ。だって村のおばあさんは知らないうちに火の魔石にしてたんだもん。それっぽく見えるわよ。


 貴族から富豪、商人、街の子供達まで入学可能で、成績が優秀であれば一般人であっても領主や宰相、護衛隊長になれる門戸は開かれている。

 ただ、親が職人などの場合、生活費を稼ぐために学院には通わないのが一般的なので、比較的裕福な家庭の子供のみが通っているのが現状だ。


 お店を経営するために、貴族や富豪の皆様とお友達になっておくのが目的で学院に入学することになった私なのだが、真の目的は別にある。


 ファンタジーなこの国に生きている今、ぜひとも魔力を扱えるようになりたいではないか。


 前人生ではありえない、魔法とか魔力の世界を実体験できるなんて最高じゃない!

 私は期待を胸に学院の門をくぐった。


 ……結果、魔力適性なしと判断され普通に領地経営コースを選択した。

 ああん、私の『ファイアボール』……

 そんなことだろうと思ったけどねっ!



 学生生活初日、学院長の長々しい挨拶があり、おごそかに式典が進んでいく。

 どこの世界も型にはまった式というのは退屈なもので、神妙な顔をしながら、寝ないようにとひたすら睡魔と戦う時間のみが過ぎていく。

 隣の女の子も涙目になりながら必死に戦っているようだ。


「まだ終わんないのかしら、長いですよね」


 と小声で話しかけると、向こうも微かに笑いながら、


「本当に。退屈で死にそうですわ」


 と返してくれる。お互いに周りに気づかれないように笑いあって、ちょっとした眠気覚ましになった。


 説法のような式辞がようやく終わり、これから教えていただく教師陣が紹介された。

 その中に何とバクスター様がいるではないか!

 衝撃のあまり、あんぐりと口を開けて固まってしまった。

 向こうは私を見つけると、嬉しそうに小さく手を振ってくれたのだが、その瞬間に生徒達の「キャー」とか「誰?」とか言うざわつきが大きくなり、他の教師が生徒らを静かにさせる注意が飛び交う。


 私は要らない妬みを買うことのないように、知らない振りをしながらうつむいていた。


 教室に戻り、学院生活のシステムや授業内容など、細かい説明がされ、最後に個別の選択コースについて説明があった。


 私に渡された書類をよく見ると、魔石研究のコースに分類されている。確かに領地経営コース選んだはずだよね?


「すみません、渡された書類で私、魔石研究コースになっているのですが? 領地経営コースの間違いだと思いますよ?」

「ああ、あなたはアリスさんですね? バクスター先生から、アリスさんには魔石研究コースに移ってもらうように言われております。詳しい話しは後でバクスター先生のお部屋で伺ってください」


 うげっ。バクスター様の指名って何よ。

 途端にざわつく教室、妬みと興味の眼差しを一身に受けて、居たたまれないまま終業時間まで耐え抜いた。



「失礼します、アリスです」

「いらっしゃい。さっき手を振ったのわかった? 振り返してくれると思ったのに無視なんだもん、がっかりだったよ」


 ……周りの目が痛いんだよ。

 だいたいバクスター様は独身貴族の有望株だし、王族というバックボーンまでついている。しかもイケメン枠に入っているであろうその容姿。

 肉食女子の憧れに指名されたりしたら後が怖いのは当たり前だろう。


「ところで何で魔力適性なしの私が魔石研究科にまわされるんですか? 実習とかできませんよ?」

「そのことなんだけどね」


 話しによると、私の体質と魔石の関係を、研究材料として詳しく調べてみたいということらしい。魔物を呼び寄せる匂いや血液など、興味深い研究材料になるようだ。

 本当はヴォルフも一緒にいろいろ調べたかったらしいが、それはまた別の機会に、だそうだ。


 具体的には、魔石の特徴とかの講義を受けて、魔石を理解しておくのが私自身のためにもなるだろうということだ。知ることが身を護ることにもなるのだという。

 実習とテストは魔力がないので免除だって。ありがたいのか、それって。


「セレスからも頼まれているんだよね、君は目を離すと大変だそうだ。その他いろいろ注意して欲しいこと言われたよ〜。愛されてるねぇ」

「愛されてるって何ですか。そもそもセレス様は私の後見人として私を面倒みることになってるんですから、愛されてるより面倒くさがられてるっていう方が正解です」

「ふうん、二人揃ってわかってないんだねぇ、まあいいや。僕は僕で楽しませてもらおうかな」


 バクスター様は曖昧な表情をしてから話題を切り替えるように話しを続けた。

 それによると、アドラーの事件の調査で判明したことがいくつかあるらしい。


 赤い魔石が原因で赤い目が発生する、これは推測から確定に変わったとのこと。


 赤い魔石はモーリス様がクロモント山付近の村人へ依頼して採りに行かせたらしいこと。

 これにより、クロモント山への入山規制が国によって近々制定されるようだ。


 私よりもモーリス様に赤い目が向かっていったのは、おそらく私の血液を大量に浴びていたせいではないか、とのこと。


 あの時のモーリス様の目と、彼に血を舐められたことを思い出し、両腕を抱えて身震いした。

「大丈夫?」と尋ねるバクスター様に問題ないことを伝え、制服のしわをパンッと伸ばす。うん、もう終わったことだ。大丈夫。


 おもむろにバクスター様が立ち上がり、私の両方の肩に手を載せたかと思うと、


「僕には君が必要なんだ。この学院にいる間だけでもいい。どうか僕のために協力してくれないか?」


 ああん? なぜ求婚まがいな言い方をする。

 素直に研究したいから協力しろと言えばいいじゃないか。

 私に何かの演技をしろと?


 そう考えた時、扉の向こうから「キャー」や「何でー」その他もろもろの悲鳴が起きた。

 くっ……こいつ、これが目的かっ、ワザと茶化しやがったな。


 慌てて外に出て、彼女達の誤解を取り除きたかったが、時すでに遅し。皆様逃げ足がものすごく速いのか、その場に誰も残っていなかった。明日からの言い訳が大変になりそう。



 全く、私は楽しい学生生活を謳歌したかったのに!


 バクスター様の横ヤリであらぬ噂になりそうな予感がして、とてつもなく不安だ。

 この先の学院生活に影響がないか、暗雲立ち込める展開となった。

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