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3話 花護衛って?

 身支度を整えて食堂へ行くと、もうすぐ晩御飯が始まるところだった。慌ててお手伝いしながら席に着く。


 こちらの世界の食事にもだいぶ慣れたかな。ほぼ毎日が衝撃の連続で、私の食に対する刷り込まれた常識はことごとく覆された。


 野菜の色は微妙に違うし、肉は家畜もあるが、魔物も食べる。ツノウサギやのように魔石をだすのもいる。石の大きさは強さに比例するらしい。


 味覚に違いはないのだが、見た目が違うと複雑な気分になる。


 そして不思議材料の一つとして幾つかの調味料も挙げられる。

 ゼフュール国には塩、胡椒、そして砂糖の花が咲いているのだ。

 国の計らいにより、毎年国民にどれかを一輪ずつではあるが、配られるようになっている。

 なんでも昔の偉い人がこの国のために自分の魔力で三種類の花畑を造ってくれたそうだ。

 胡椒の代わりはないが、塩は岩塩、砂糖は蜂蜜、と代用品はある。しかし花に比べると格段にうま味や精度が落ちる。やはりいいものはいい。

 使って良し、商人に売って換金するも良しとのこと。最低限の生活保障がされてる感じ。有難いことだよね。




「そろそろ花護衛隊が村に寄る時期になってきたぞ。アリスは護衛隊見るの初めてだな。すごくかっこいいんだぜ〜」


 食事を終えた後にルークが話し始めた。ちょっと興奮しているのか、目がキラキラしている。


「花護衛隊? 何? 特別なことなの?」


 そう言えばゼフュール国の名前も別名、花護衛の国って言われてるわね。


「花護衛ってのはな、親花を護りながら花畑まで採取しにいく騎士のことだ。王都の中でも最強の三人がそれぞれの隊長になるんだ。俺達にとっては雲の上の人を見られるんだから、興奮しないわけないじゃないか」

「親花とかって何?」

「何って……親花は神殿から花護衛が持ってくる花だよ」



 ……うぅん……ダメだ、こりゃ。興奮し過ぎて話しがよく見えん……


 戸惑うような表情の私をみて、マーサがニコリとしながら説明してくれた。


「調味料が花の形をしてるのは知ってるよね?」

「うん、さっきも台所で見かけたよ」


 今、家にあるのは砂糖の花だ。

 私は砂糖の花を思い浮かべながら頷いた。

「あの砂糖の花、というか調味料の花は東、南、西に花畑があって、それを採取するために騎士様の部隊が動くんだよ」

「へぇ……ずいぶんと大掛かりなんだねぇ」


 ものものしい様子を想像してちょっと顔がヒクつく。


 マーサは、カタリと椅子を引きながら私の隣へ座ってお茶を出してくれた。

 私は話しの続きを聞きながら出されたお茶をゆっくりと飲む。

 暗がりからのっそりと近づいてきたヴォルフが足元に丸くなる。


「調味料の花畑に咲いてある花を普通に摘んだのでは調味料にならなくてね。『親花』と呼ばれる一輪から魔力をもらうことでそれらに変化するんだ」

「へえ。親花が調味料のカギを握っているわけか。大事な親花を護るための騎士様達が花護衛ってことね。それにしても魔力を含んでる花ねぇ」

「親花は三つあってね、東の花畑には白藤色の塩の花、南の花畑には萌黄色の胡椒の花、西の花畑には薄紅色の砂糖の花が届くことになっているのさ」


 ……さすが魔法の世界。不思議力満載なのね〜


「護衛がつくくらい貴重な花ってことは、万が一トラブルにでもあったら大変だね」


 何の気なしに言った一言にマーサが顔を青くする。


「縁起悪いことを言っちゃダメだ。良くないことを口にすると悪運を呼ぶって言うからね」

「はあい、ごめんなさい」


 ペロッと舌を出し首を竦めてマーサに謝る。

 ヴォルフがピクリと耳をたてて顔を上げる。が、すぐにまた顔を伏せて丸くなる。


「それだけじゃないんだぜ。『親花』に魔力が篭っている間は、その花を狙って寄ってくる魔物が結構いるんだ。だから護衛隊は魔物を追い払える力のある騎士が揃ってるし、その中でも一番強い人が隊長になるのさ」


 ガタンと椅子に座り、身を乗り出しながら、ルークが熱く語る。


 ……いや、キミが自慢するとこじゃないから


 私が顔を引きつらせながらルークを見遣ると、マーサが苦笑しながらまた話し出した。


「親花には魔力の篭る時期があってね。白藤の花は雪が融けてだんだん暖かくなってきた頃、萌黄の花は日中のお日様の光が強くなり初めた頃、薄紅の花はお日様の光が和らいで涼しくなってきた頃に魔力がだんだん強くなってきて輝き始めるらしいよ。それが始まったら花畑まで行って魔力を放出してくるってことなんだと」


 この移動がひと月からふた月くらいかかることから護衛隊は三つ作られたということだ。


 ちなみに、六日働いて七日目が安息日で一週間、四週でひと月だから、数えやすい。


 季節は親花の色に合わせて、春夏秋冬あるらしく、春に当たる季節は白藤の季節、夏は萌黄、秋は薄紅、冬は社交の季節というのだそうだ。


「採取された調味料の花は、社交の季節の間王都に一旦保管されるんだ。で、社交の季節が終わった後に、領主様から村長へ、村長から我々へと、一輪ずつ花を配ってもらえるんだよ」


 そうか、集荷して分配の作業は王都の役人さんとかがやってくれてるのね。

 国民の生活のために動いてくれてるお偉いさん、ちょっとリスペクトだわ。


 護衛隊のみなさんには頑張ってお仕事してもらわないと。私もみなさんが来たら盛大に歓迎するよ。


「配ってもらう調味料で足りない時はどうなるの?」

「蜂蜜や岩塩を使うってのもあるけど、王都からの行商がくるから、その時に買い足すんだよ」

「お金……ある?」

「田舎の村だと、大半は魔石と交換するんだよ。買い取りもしてくれるしね。王都じゃ魔石は高く売れるらしい。だから魔石を貯めておけば安心さ」


 不安そうにしている私の頭を撫でながら、マーサが優しく教えてくれた。


「じゃあ、私、いっぱい魔石探してくるからね!」

「ははは、無理してけがしない程度で頑張っとくれ」


 よし!

 この家の家計のためにも、せっせと魔石を貯めることにしよう!

 ……お風呂分の魔石は使わせてね……



「護衛隊が来る日はお祭りになるのさ。大人も子供もそりゃ楽しみにしてるんだぜ」

「一年に一回、護衛隊さん達を労う意味もあるのさ。向こうも嫁さん探しも兼ねて旅してるってのもあるんだろうよ」

「去年はオレが通ってる棟梁のとこの娘さんが騎士様に見初められてさ。あっという間に嫁に行っちまったよ。棟梁ってば泣く暇も貰えなかったってぶつくさ言ってたぜ」


 ルークとマーサの話しを聞きながら、私は思わず笑ってしまった。

 道理で年頃のお嬢さん達が近頃お肌のお手入れに気合いが入ってる訳だ。


「オレも彼女とか探せるかなぁ」

「何言ってるんだい。色気より食い気のクセして」


 マーサが呆れながら呟くとルークはニカッと笑って逃げていく。


「さあ、アリスもそろそろベッドに行きな。明日からはお祭りに備えてに少しずつ仕込みを始めるからね」

「はあい、おやすみなさい。また明日ね」


 ヴォルフが立ち上がるのと同時にお茶を片付けて寝室に入る。


 お祭りかあ……

 そんなイベント、小さい頃に何度かあったきりだわ。金魚すくいにヨーヨー釣り、わたあめ食べて盆踊り。楽しそうだねって遠巻きにみたことしかなかったなあ……

 家族との繋がりも希薄だったからね。

 お出かけイベントの記憶がイメージできないよぉ……


 あ、昔の私の感覚か、これ。

 いかんいかん。今度の人生は全部楽しまなきゃ。

 そう考えると、何かワクワクしてきたよ。

 ベッドに潜り込みながら、ずっと考えていると、ヴォルフの尻尾でベシッと叩かれた。

 はい、早く寝ます。

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