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28話 護符が欲しいの

 アドラー領内での支店準備がもうすぐ整うと連絡が来た。モーリス様はマメな人で、支店準備の進行状況や私への近況報告やご機嫌伺いで頻繁に手紙をやりとりしている。手紙の随所にアドラーの魅力が散りばめられ、どうしても一度行ってみたくなる。


「はぁ……支店できたらアドラーに行きたいなぁ」


 呟く私にリアン様が申し訳なさそうな顔をして諭すように言う。


「アリスは王都にいるから安全なのですよ。赤い目はしばらく出ないと思いますが、魔物を寄せやすいことに変わりはないのです。他領に出るなんて、余程強力な護符でも持たないと無理ですよ」


 だよねぇ……

 あ、強力な護符なら王様に頼み込めば出来るんじゃない?

 セレス様に言ったら絶対却下だから、内緒で誰かに頼めないかなぁ。

 王妃様経由でどうかな。うん、私にしてはいいアイディアだ。こっそり動かなきゃ。

 直球がダメならカーブで攻めろ!

 早速クロエさんから王妃様宛ての面会予約を申請してみた。


「こんにちは王妃様。なかなかお話しできる機会がなくて……」

「こんにちはアリスさん。そんな気遣いは要らないわ。あなたが来てからセレス様もアルも良い方向に変わったわ、ありがとうございます」


 フィリップ王子も似たようなこと言ってたけど、そんなに影響あったかしら?

 私は今が楽しいからいいけどね。

 王妃様はアニー様ととてもよく似た方だった。もちろん見た目ではなくてね、話し方とか雰囲気かな、安心する感じ。

 ……フィリップ王子はマザコンだったか、なんてね。


「それで、あなたがこちらにいらした下心はなぁに?」

「うっ……」


 ……バレてた。さすがファーストレディを長年やってる人は違うなぁ。

 素直に、私がやってるお店の支店をアドラー領内へ出店することや、私の体質、王都から出かけられない現状を訴えた。


「私、拾われた村と王都しか知らないんです。この国には王都の他に九つも領地があるじゃないですか。私の記憶と領地の特徴が合致すれば、もっと国が発展すると思うのです!」

「そうねぇ、私は王都に縛り付ける様なことは可哀想だと思ってるのよ。問題はあなたの体質を護るだけの護符が作れるかなのよね。幸か不幸か、最近赤い目の魔物の魔石がたくさん手元に来た、とバクスターちゃんが言ってたから、できるか頼んでみるわ」

「……バクスターちゃ……ん?」

「ええ、バクスターちゃんは幼馴染だからね、私もおねだりしてみるわ。多少の無理は聞いてくれると思うわよ」


 呆気にとられる私に向かって、王妃様がお茶目な顔をしながらウィンクした。

 王妃様、意外とやるね、この人。

 バクスター様へ連絡をとってもらって、どう言った方向に動くか、具体的な話しが決まったらまた連絡をいただけることになった。



 ご機嫌で鼻歌交じりに歩いていると、アルが向こうから歩いてくるのが見えた。

「ア〜ル〜」と声を出して手を振ると気づいたようで、ちょっと顔をしかめながらやってきた。


「おい、合図するのはいいが、何だってそんなに大声だしたり手をブンブン振り回すんだ。レディならしゃんとしろ、自分はレディですって言ってたろ?」

「だって気づいてくれなかったら嫌だし」


 口を尖らせるとアルはため息をついて、私の肩に手を置き、


「お前を矯正する方がかえって疲れるってことがよくわかった。そのままでいろ。山や森はそのままが一番いい状態で描かれるからな」


 じゃあ、と軽く手をあげ挨拶するアルに向かって、慌ててお願いがあることを伝えた。


「アル、今度アドラー領にうちのお店の支店を出せることになったの。アドラー領の特産品とか観光とか解説してる本があったら貸して欲しいんだけど」

「アドラーに出店? クロランダじゃなく?」

「うん、モーリス様はすごくダンディなおじ様でね、出資もしてくれるんだって。私達お手紙のやりとりもしてるの。出店準備で困らないように、こちらも少し勉強しなきゃと思って」


 アルはアゴを軽くなでながら話しを聞いていたが、本を探してくれるらしく「夕方過ぎに部屋に来い」と言われた。これから勉強時間なんだそうだ。「頑張って」と声をかけたら、恨めしそうな顔をしてこちらをみる。

「算盤が……数字が……」と聞こえるが無視無視。

 ニッコリ笑顔で手を振ってあげた。


 夕方、アルから本を受け取り、部屋で読むことにした。これでモーリス様からのお手紙にも勉強してるよって書ける。次のお手紙が楽しみだなぁ。



 数日後、王妃様から連絡が入り、直接バクスター様へ話しを聞きにいってくれ、とのことだった。使う当人が話しを聞いて理解した方が良いということらしい。

 ちょうどよかった、バクスター様にはヴォルフのこともお礼しなきゃと思ってたんだよね。面会予約を申請したら、すぐにでも大丈夫と返ってきた。あらあら、なら遠慮なく。


「いらっしゃい、君がアリスちゃんだね。面と向かって話すのは初めてかな、僕がバクスターです」

「アリスと申します。この度はヴォルフのために貴重な魔石をたくさん使っていただいてありがとうございます」

「堅苦しいのは抜きでいいよ、ユーリちゃん、あ、ユーリ妃か、から言われてる。護符が欲しいんだよね」


 バクスター様ってずいぶんフランクな人なのね。拍子抜けしちゃった。

 護符の件は赤い目達の魔石があれば私の魔物を寄せる匂いをかなり抑えるものが作れるらしい。ただ、勝手に魔石を使う訳にいかないので、ユーリ妃から王様にお願いしてくれるとのことだ。バクスター様が言うには、すぐに許可がおりるはず、だそうで。


 護符ができたら王都から出かけられるのだが、その際にいろいろとやっておかなければならないことがあるらしい。

 まず、出かける時の服に必ず護符を縫い付けること。今身に付けているペンダントには、王都から出る直前にもう一度魔力を込め直してもらうこと。ペンダントの他にブレスレットとアンクレットの形をした護りのアクセサリーを作るので、必ず身に付けること。


 ……何か聞いてると、私って呪いのお化けちゃんみたいよね。ジャラジャラしちゃって、おでこに紙貼らないだけいいか。


 最後に、とバクスター様が人差し指を立ててこう言った。


「必ず直系王族と一緒に行動すること。僕も直系なんだけど、外出ると溶けちゃうかも知れないし〜。旅先だったら僕より使える人達がまだいるからね、遠慮しとくよ」


 おーい、それってただの出不精だろうが。

 まあ、どう考えても、セレス様かアルを拝み倒すしかないってことだよね。一番大変な作業じゃないのよ。

 でも、ここさえクリアすればアドラーは目の前ってことよね、ひとつ頑張ってみますか!


 護符のお話しがひと通り終わって、お茶をいただきながら、ふと疑問に思ったことをバクスター様に聞いてみた。


「あの、ヴォルフに癒しの魔石を大量に使ってくれたと聞いたんですが、貴重な魔石だったんじゃないですか?」

「もちろん貴重さ。でも、心話ができるくらい知性の高い魔物だよ? 助けないわけないじゃない」


 知性の高い魔物なんてそうそういるものでは無いらしい。現に今の王族と心話で会話したのはヴォルフのみらしい。

 魔物の生態系や行動を知る上でも、もう少し詳しくヴォルフと話しをしたいんだそうだ。


 癒しの魔石の製作は、ある程度修行した神官や巫女のみに限定されるのと、神殿地下の泉の側で作業しなければ完成しないらしい。


 その魔石を大量に使ってでもヴォルフを生かす方を優先する考えに、どれだけヴォルフが貴重な存在なのかを改めて感じた。


 ああ、早くヴォルフに会いたい。ヴォルフのいない生活なんて考えたこともなかったから。不意に心細くなって、自分で自分の腕を抱きしめる。

 以前、お披露目パーティーにでた時にセレス様から渡された、ヴォルフの毛束のお守りをぎゅっと握りしめ、落ち着くために深呼吸をひとつした。


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