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26話(閑話)闇の計画 〜読人注意〜

「襲撃は失敗か。まあ、あの狼に深手を負わせたのが成果と言えば成果だな」


 薄暗い部屋で口元を隠し独りごちる。


 あの文献に書かれていた魔石は本当にあった。実際に赤い目の魔物ができるとは思わなかったが。


 王族でも生粋の武官であるベルナルドがいない王都ならば、魔物が襲えばかなりの打撃を受けると思った。

 しかも、討伐の陣頭指揮はあの忌々しいセレスティアルめになるはずだから、森での討伐で魔物から襲われても何ら不思議ではない、と考えての今回の計画だ。


 複数の赤い目に囲まれれば、いかにセレスティアルでもひとたまりもないと思ったのに……

 あの狼が余計な指示を出さなければこの襲撃は成功していた!


 そこまで考えた私は怒りのあまり、ワインの入ったグラスをテーブルに「ダンッ」と荒々しく置いた。


 今回の騒動で王都の護りが一層強化されるはずだ。絶好のチャンスを無駄にしてしまった悔しさで辺りをウロウロと動きまわる。


 そもそも隣の領地の娘を手に入れ損ねてから何もかもが上手くいかない。

 あと一歩であの娘の体を堪能できると確信していたのに、金の工面ができたと言って父親が娘を差し出してこなかったのだ。あの時の鼻を明かしたかのような顔を思い出す度に腹わたが煮えくりかえる。

 あの一件にも奴が絡んでいるのは間違いないだろう。でなければあれ以降奴の副官が娘の回りをうろつくはずがない。おかげで娘に近づくことさえできなくなった。


 文官に算盤とかいう道具を持たせて税金の管理を始めたのも奴だ。

 せっかく近くの村長達や他領からの便宜料としてもらっていた私の金を、返還するか国に納めるようになどと言いおって!


 あれは私の金だ。私に従う者達をアゴで使うための金だ。

 私が頭を使って馬鹿な奴らから出させたのだ。馬鹿は金を使う資格がない。

 だから私がその金で奴らを動かしているのだし、その対価をもらっているのだ。おかしいことなど何もないではないか。

 それが無くなったら誰が私に金をくれる?

 国が出してくれる訳でもなかろうに。


 セレスティアルさえいなくなれば、文官達も元通りの簡単な確認だけで仕事を終えるはずなのだ。

 そう、何もかもが元通りになる……



 セレスティアルめを王都からおびき出してこちらの領内で消すのが良いか?

 奴の弱点は何だ?


「いるか?」

「はっ、ここに」


 黒い影が気配も感じさせずに側にくる。

 あまりの見事さに瞬間ビクつく。が、そんなことを悟らせないように少し身じろぎしながらも面と向かう。

 相変わらず気味の悪い……

 こ奴らに奴の寝込みを襲わせるのはどうか?

 いや、奴も王族だ。寝ている時こそわずかな殺気を感知するだろう。それならば起きている時間がいいのだが、何をどうすれば……


「王弟セレスティアルの弱点は何だと思う。何か思いつくことがあるか?」

「王弟セレスティアル殿でございますか……」


 影の男がしばし考えるそぶりをみせる。

 やがてふっと思いついたように話し出した。


「殿下の被後見人となっている少女が一人おります。あの少女が窮地に立てば、いかにセレスティアル殿とて普段の余裕を失くすのではないでしょうか」

「ふむ、お前にしてはいい考えを出したな」


 そう言いながら男に向かって金貨を放った。


「更にいい考えがあればその棚の金貨もくれてやろう。具体的な案を思いついたら報告に来い」

「御意。セレスティアル殿の身辺も探って参ります」


 そう言って男が消えた。視界から一瞬で消える様は、今までそこに男が居たのかさえ疑ってしまう程だ。


 あの少女か。確かに心を砕いているようだったな。なるほど、あの娘を使ってこちらに呼び寄せる方法を探すか。


 再びテーブルにつき、ワインを飲みながら考えを巡らす。


 王都の森ではもともと熊もあまり魔力が強くなかったのかもしれない。『王族の護り』に抵抗する力を削がれて魔物自体が弱かったのか?

 だから魔力を溢れさせても、充分な強さに到らなかったのではないか?

 だとしたら、最初から強い魔力が備わっている魔物の巣に魔石を放り込めばどうだろう。王都から離れれば離れるだけ魔物も強くなる。それの魔力を暴走させるとなると一頭でも厄介なはずだ。

 大量の赤い目に為すすべもなく倒れる奴を見るのはどんなに愉快だろうか。


 もう一度クロモント山にある赤い魔石を削ってこなければ……

 私が直接行かなくても採りにいかせれば良いか。こいつら影は金をチラつかせれば、喜んで採りにいく連中ばかりだ。


 昏い笑みを浮かべ満足しながらグラスを傾ける。ああ、酒が美味い。


 そうだ、セレスティアル本人を魔物の中に放るよりもあの娘を放り込んだ方がより効果が高いか。

 昔エイキムの娘が死んだ時、奴は生きる屍となっていた。あのまま朽ちてくれたらどんなに楽だったろう。しかも身代わりの娘もまた死んだとなると、今度こそ自らの命も断とうとするやも知れん。


 娘の死に様を見せつけるのも良いか?

 娘が逃げ惑い恐怖のあまり泣き叫びながら四肢を引きちぎられるさまを。

 無数の赤い目と若い娘の血にまみれた姿、それを見て嗤いながら飲む酒はどれほど美味いのだろう。


 もはやセレスティアルなどどうでもいい。あの娘が死の恐怖に怯えながら悲鳴をあげる方が面白そうだ。


 あの娘を手に入れるにはどうするか。確か王都から出られないと言っていたな。

 拉致するか? いや、徹底的に探されて足がつくからそれはだめだ。娘自らがこちらに出向くエサをチラつかせなければ……


 娘の経営している店を観光地に出さないかと相談してみようか。あの娘も商人だ、金の動きには敏感に反応するはずだ。

 こちらが出資すると言えば食いつくだろう。

 最初は甘い顔で誘うのだ。何でも言うことを聞いて商売を成功させて私を信用させる。

 信用した相手なら視察の名目で誘えば簡単についてくるだろうな。


 そうだ、国に納める分だけ出資したとでも言えばセレスティアルも文句が言えんな。

 適当に上前をはねておけばいいだけの話しだ。初期投資だけで私の腹もあまり痛まない。


 私が出資して娘が店を出す。

 視察に誘い王都からこちらへ出向かせる。

 ユフローネの入り口までの登山をすすめる。

 影に娘をさらわせて山奥まで連れていく。

 魔石を投じて赤い目に喰わせる。


 どうだ、この私の計画は!

 さらわれた娘を慌てて探す周りの者達を心配顔を装いながら眺めるのだ。これは楽しめる。

 魔物に喰わせる前に私がその体を堪能するのも悪くないな。

 あの歳の娘の肌なら吸い付くような甘さがあるだろう、想像するだけで快感が駆け抜ける。


 さあ、闇の饗宴の始まりだ。

 馬鹿な奴らは私のために躍り狂え!


 下卑た嗤いと共に一気にワインをあおる。

 嗤いすぎて口元からワインが滴り落ちるが、それがまたあの娘の血を思わせて最高の味をかもし出す。

 私は手の甲で口元を拭いながら、その雫を味わった。


 ピチャピチャ……

 昏い部屋にその音が響くだけとなり、夜は一層闇を濃くしていく。


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