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25話 赤い目

 孤児院の塾が始まった。


 最初のうちは子供達が興味のある勉強から始めさせることにした。文字が好きな子は読み書き。数字や算盤に興味がある子にはやり方を教える。


 塾に来た子は首からカードをぶら下げて出席のハンコをもらう。こやれが貯まったらお菓子ゲットだ、そう感じるくらいみんなの目が違う。


 お菓子はミラさんのジューススタンドにカードを出せば交換できるシステムにした。

 最近ミラさんのお店にクッキーを置いて、街の人にも販売するようにしてみたのだ。


 時期が来たら、デールさんには独立してもらって、ミラさんと一緒に商売を成功させて欲しいな、とか考えている。


 アニー様のお茶会で算盤を披露して、少しずつ貴族にも興味を持ってもらえるようになった。みんなで勉強会を開いて、使えるようになったら、塾に来て教えてくれるお嬢様もいるらしい。


 アニー様や塾の先生には前もって算盤を勉強してもらったので、私以外でも教えられるようになった。ここから将来の大商人や文官がでるのも面白いよね。


 お店の方は、クローゼ嬢のお茶会でこれでどうだっていうくらいアピールして、新作のタルトと美容液の注文をとってきた。美容液は順次生産で販売するようにしてタルトはいろいろなお嬢様主催のお茶会に出てくるだろう。


 エイキム主催の夜会には出席させてもらったが、毎回飲み物にお酒が入っていないことを確かめてから飲むようにしたし、軽く挨拶とダンスをして、夜が更ける前に帰ってきた。


 私の社交はこれで山場を越えた感じらしい。

 あとは目立たず、ニッコリ笑顔でのらりくらりと過ごすように、とリアン様が目で脅してきた。

 大丈夫ですって、静かにしてますから。


 社交の季節も終わりに近づき、領主もそれぞれが自分の領地に戻り始める。


 お嬢様方も帰る人帰らない人がいた。帰る人にはたっぷり営業して次回の予約を取り付けた。これからは地方発送や支店計画を練ってもいいわね。


 帰らない人の多くは学院に通う若者で、三年間在学して簡単な学問と社交を身につけるそうだ。アルも通うって言ってるし、学院の営業はアルに任せようか。


 そして白藤の花が輝き始めた。


 今年の護衛は王様のすぐ下の弟君、ベルナルド様が隊長を務める。普段は刑務大臣の仕事を担当している武官で、この間の王家のパーティーで初めて見た。私のお披露目の時は警護してたんだって。


 ちなみにさらにすぐ下には、もう一人弟君がいて、魔石管理の仕事をしているバクスター様という方だ。やっぱりお披露目の時には、私のペンダント作成や護符の調整とかやってたと聞いた。

 お二人ともご苦労様でした。


 ベルナルド様をみんなで見送って、何日かしてからだった。


 お店でみんなと仕事をしていると、ドクンっと心臓が跳ねるような感じがして、思わず食器を取り落としてしまった。


 ヴォルフはピクッとと耳をそばだてて、周囲の警戒を始める。軽く威嚇の唸り声がもれているのもそのせいなのだろう。ゾクゾクするような感覚に、胸を押さえてヴォルフに助けを求める。

 震える足を必死に動かしてヴォルフに縋り付き、やっとの思いで自分の部屋へ戻った。


 そうしているうちにアルが飛び込むようにやってきた。


「アリス、大丈夫かっ。父上宛てにヴォルフ殿から心話が飛んできたらしい。西側の森辺りに異変があるのでヴォルフ殿が確認しに行くからアリスの身辺を護れ、と。セレス叔父上は直接森に向かった」


 アルがヴォルフに向かって「代わります。あとはよろしくお願いします」と言いながら私を支えてくれる。ヴォルフはすぐに飛び出していった。


「アル……恐いっ。一番最初に見た赤い目の熊の時みたいなの。あの赤い目がいっぱい私を見てるようで恐いっ」

「大丈夫だ。今は俺がある程度の魔除けになってるはずだからな、安心しろ。しかし赤い目か……」


 アルが何やら思案顔をしている。


 通常の魔物であれば王族の護りの力を使ってある程度追い払うことができるのだが、赤い目をした魔物は別なのだという。

 赤い目をした魔物は魔力の暴走によって発生し、そうなった魔物は攻撃対象に見境いがなくなり、自分が傷つくまで攻撃の手を緩めない。


 魔力の暴走とは、強い魔物が弱い魔物を捕食し続けることで、体内魔力が蓄積し、それが許容範囲を超えると起きる現象だ。


 魔力暴走が起きた場合、暴走した魔物相手に少しずつ攻撃して魔物の体外から魔力を放出させるか、一気に倒すかのどちらかしか方法がない。


「お前が赤い目を感知しているということは、セレス叔父上が心配だな。ベルナルド叔父上がいないこの時期にこの様なことが起きるなんて」


 苛立った声をさせながら、カミュさんを呼び、王宮から森への警備の増員とバクスター様への連絡をするように伝えている。

 他にも店の従業員達には各自の家へ戻るように指示している。そんなアルを見ていると頼もしさを覚え、ちょっと安心した。


 ふぅっと息を吐いてアルに笑顔を見せた。


「アル、ありがとう。だいぶ落ち着いたみたい。少し震えも収まってきたよ」


 両手のひらを見せて、大丈夫なことを伝える。と、その時、通りの方から悲鳴がいくつも聞こえてきた。


 何事かと窓から覗くと、赤い目をした狼が何頭も通りを移動していた。

「ひっ」と小さく叫んで窓から離れようとした一瞬、その中の一匹と目が合った。

 慌ててしゃがんでもう一度窓から覗く。また目が合った。完全にロックオンされたみたい。


 狼は仲間を呼びよせるように遠吠えを始めた。

 どうしよう……狙いは私かも。


 アルも窓から覗いて、苦い顔で唸ってる。


「カミュが戻る時に異変に気付いて対応してくれるはずだ。家から出なければ大丈夫。俺が外に撃って出る訳にいかないし、街の住人が心配だ」

「ごめん、私がここにいるばかりに。街の人に被害が及んだら、どうすればいいのかな」


 不安のあまり涙目になってアルに訴えると、左手で私の両手を包み込むように握って、反対側の手で優しく頭を撫でて諭すように話してくれる。


「お前が悪いことをしてる訳じゃないだろ。堂々としてればいいさ」


 通りがまた騒がしくなり、カミュさんが魔物退治の指揮をとっているのが見えた。弓で弱らせて一頭ずつ倒していく。かなり強いらしく、戦闘は夕暮れ近くまで続いた。


 最後の一頭が処分されて、街が元通りの静けさを取り戻した。

 カミュさんが店に入ってきて、状況をアルに報告している。私は緊張が続いていたので、もうフラフラだ。


 店の前に馬車を回してもらって王宮に移動することにした。ここにいるよりも王族の集まる王宮の方が安全という判断らしい。

 今回の騒動の原因がわかるまでは、しばらくの間、王宮暮らしを余儀なくされることとなった。


 王宮に着いたら、森の方もとりあえず落ち着いたような話しが漏れ聞こえてきた。お部屋でお茶を飲んでゆっくりしていると、セレス様がやって来た。


「アリス、君に報告がある。森の戦闘でヴォルフ殿が深手を負った。癒すために、しばらく東の森で過ごさなければいけないらしい。

 アリスの護りは頼むと伝言があった」

「深手って何ですかっ!何で連れてきてくれないんです。私の家族なんですよっ!」


 掴みかからんばかりにセレス様へ食ってかかり、詳しい説明を求めた。


 最初にセレス様が森へ行った時には既に赤い目の熊が数頭いたらしい。熊を退治しているうちに狼も発生し、かなりの異常事態になったようだ。


 そのうちにヴォルフがやって来て、森の中に置かれている魔石の塊を取り除いて神殿の地下の泉に持って行けば事態が収まると言われたそうだ。

 セレス様が熊を引きつけて、リアン様が魔石を運ぶ方法をとったのだが、その最中にリアン様を庇って負傷したとのことだった。


「済まない。私もヴォルフ殿を守れなかった。責められて当たり前だ」

「リアン様を庇うなんてヴォルフらしいです。でも何で私のところに来ないんですか?」

「癒すのに大量の魔力が必要となるらしく、君の魔物を引き寄せる匂いが邪魔なのだそうだ」


 呆然とした。私が邪魔だと。

 これまで自分がヴォルフの負担になるなど考えにも及ばなかった。

 しかし、ヴォルフの判断は絶対だ。これは今までの経験から知っている。


 何もできない自分に歯噛みしながら、ヴォルフの無事を祈るしかなかった。

次回、26話は閑話になりますが、食事中にはよろしくない表現がありますので時間帯注意してご覧下さいませ〜

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