24話 寒中デート?
気がついたら朝だった。頭がガンガンする。
起きようとして断念、再びベッドの住人となる。よく見ると王宮のいつもの部屋だった。いつここまで来たんだろう、記憶ないぞ〜。
ボーっとしてたら、クロエさんがお水を飲ませてくれた。ベッドの上でゴロゴロしながら頭の痛みがとれるのを待ち、少し時間を空けて、ゆっくりと身支度をするため起き上がった。
クロエさんは私の様子を見ながらも心配そうにお手伝いをしてくれた。時間をかけて支度しているうちにようやくパーティーで潰れたのを思い出した。
「昨日はお酒を召し上がられたんですね。気を失ってセレスティアル様に抱えられていらっしゃいました」
……頭から血が引く音がする……
ヤバい、絶対怒られる。あまり余計な行動はとらないようにって言われてたのに。
今までお酒は手渡されたことなんてなかったから、飲み物とかはノーマークだった。
そう考えたところで、セレス様とリアン様がお部屋に入ってきた。
「もう平気か? 具合が悪いようならもう少し寝ていなさい。今日の予定は全てキャンセルの手配をしたらから、慌てる必要はない」
おろろ? セレス様が優しい。不思議だ。何か変なものでも食べたんじゃない?
潰れたのは私がうっかりお酒を口にしたせいだし、重いやらそこまで飲むなやら、絶対お小言になるはずでしょ?
何とも言えない顔で、昨日の失態の詫びと介抱のお礼を済ませた。
「ふむ」と言いながら私のおでこと頰を軽く触り、頭を撫でながらひと息つくと、
「リアン、私は執務室に戻る。これ以降のアリスの予定の説明を頼む。あと、夜会はエイキムのものだけにして他を全て取りやめるように連絡して欲しい」
「承知しました、万事滞りなく」
セレス様が退室して、リアン様からは明日以降のお茶会についての説明がされる。
クローゼ嬢主催とアニー様主催のお茶会に出れば、夜会の方を断ったとしても体面が保たれるだろうとのことで、時間を調整してお茶会に参加することにした。日にちはまだあるので、体調も戻ると思う。
「昨日は大変でしたよ。あのような慌てぶりのセレス様を見たのは久しぶりでした。身近な女性が急に倒れてエミリア様を思い出されてしまったのでしょうかね。ずいぶん青い顔をされて」
「亡くなったエミリア様? 私、そんなに心配させてしまったのですか?」
昔の私なら、お酒は当たり前のように飲んでたし、飲む機会なんて死ぬほどあったからなぁ、急性アルコール中毒って初めて体験したわ。下手したら死ぬことだってあるんだから。でも考えてみれば、今の私って思いっきり未成年だよね。本当に誰だよ、私にお酒飲ませた奴は。
「エミリア様はセレス様の腕の中で意識を失ってから長い闘病生活に入られたのです。ですからあなたをベッドに運んでからも、心配なご様子で、しばらくその場を離れませんでしたよ」
あちゃ……
それって半端なく心配してたってことだよね。悪かったなぁ、もうお酒を口にするのは止めよう。私は大丈夫だよって安心させてあげなきゃね。
後で『元気っ子』をアピールしにいかなきゃ。
今はガッツリ寝て、お酒を抜こう。頑張れ私の肝臓!
「セレス様、昨日はご心配をおかけしました。今日は体調万全ですっ。だからピクニック行きましょう!」
次の日、セレス様の執務室に押し掛けて私が勢いよく話しかけたら、軽く眉を顰めて「馬鹿者」と怒られた。
「この寒い時期に外に長時間いるなんて考えるのは君くらいなものだ。普通は音楽や刺繍や読書など、屋内で遊戯を楽しむものだぞ」
「なら、ちょっとだけ出ましょ? あの丘の所行きたいんです。馬さんに乗るのも大丈夫ですから、連れて行って下さい!」
「聞こえなかったのか? 必要最低限のためにしか普通は出かけないものなのだが?」
ため息をつかれ、呆れ顔をされても必死に頼み込む私を見て、リアン様はもう必死に笑いを堪えて「あとのことはお任せ下さい」と言ってセレス様を送りだそうとする。
セレス様はセレス様で既に諦めたのか「しっかりと着込むように」と言って付き合ってくれるようだ。
私は急いで支度を整えてもらいにお部屋に戻った。
モリーさんが「まあ、風邪を引かないようにしないと」と言いながらもニコニコして髪のセットやらコートやらを手配してくれた。
「行ってきます!」
たっぷりと着込んで手を振りながらお部屋を出たが、はた、と足を止めてしまった。外に出られないのだ。いつもバタバタと連れてこられてるので、どこが出口かもわかってなかった。
もう、私のバカっ!
焦って周りをみたら、こちらにセレス様が迎えに来てくれた。
「馬小屋など知らないだろうと思ってな」
よかった〜。
照れ笑いをしながら、廊下を歩き、馬小屋へ到着。……おぅ、風が冷たい。
馬が走っている途中も話しかけたらいいかも、と思ったが舌を噛みそうだったので無言を貫いた。
「着いた〜。ありがとうございます。私も馬の乗り方がだいぶ解ってきたみたいです。暖かくなったら一人でも乗れるように練習してみようかな?」
「君の場合、知識として吸収するのは速いが技術が伴わないと思うぞ。一人で乗れるなど、調教師も巻き込んで相当時間がかかりそうだな。ダンスの練習がいい例だ」
鼻で笑われてちょっとムッとするが、ここは我慢我慢。今日はおもてなしして元気になってもらうように来たのだから。
確かに否定はしないよ。ダンスも体に流れが染み込むくらいに練習したからね。
「セレス様、目を閉じて口を開けてもらえます?」
「それは断ることはできないのか?」
しかめ面で嫌そうに言いながらも、しぶしぶ口を開けてくれる。私は持ってきた籠の中から、一口大に切ったマドレーヌをそっと入れた。
「先日のお礼です。まだお店の人にも作り方を教えていない私専用の食べ物ですからね」
口を動かしながらしばらく味を堪能して「悪くないな」と言うセレス様、ちょっとは元気になってくれるかな?
見晴らし台の上に乗って、大きく伸びをしてくるりと振り返り、はっきり宣言する。
「私は頑丈ですよ。病気になんかなりませんからね。それに一回死んでるんですもの、そんなにすぐに迎えに来るなんて面倒なこと、死神様はしませんよ。まぁ、たぶんだけど」
最後の方はごにょごにょになっちゃったけど、とりあえず言い切ったぞ。
顎を反らせてドヤ顔をしながら言ったもんだから、セレス様はぽかんとしてる。
それから徐々に苦笑に変わり「ああ、そうだな」と短く答えてくれた。
へへっと笑って満足したら、急に寒さが堪えてきて、盛大なくしゃみをした。
「もう帰るか? これだけ寒いのだ、早めに戻る」
「はい、むしろ早く帰りたいです」
とほほな心境で返事をし、馬に乗せてもらう。さっきは後ろにしがみついてたのが、今度は前に乗せられた。おや、と思ったら、マントでコートの上から更に覆われたようだった。あら、結構あったかいわ。
やっぱり馬さんは揺りかごさんだった。
うとうとし始めた頃に王宮に着いたのだが、お部屋に戻った途端にまたくしゃみ。
差し出されたホットミルクを飲んでるうちに体がふわふわとし始める。
周りで侍女さん達がくるくる……いや、ぐるぐる、ぐ〜るぐ〜る……
ヤバい、なんかボーっとする……
それからすぐに熱が出て、結局またベッドの住人になってしまった。
おかしい、風邪を引く予定は組み込んでなかったはずなのに……
寝込んだと知らせを受けたセレス様がやってきて「言ったそばからこれか?」と渋い顔で呟く。
あーん、本当にごめんなさい。




