23話 社交の季節、始まる
さて、社交の季節を間近に控え、今日は早めに王都に来たというアニー様と初対面となりました。
フィリップ王子の執務室が面会場所となり、今緊張の瞬間を迎えている。
「あなたがアリスさんね。孤児院の問題に協力してくれてありがとうございます。私にも出来ることがあるかしら?」
「はい、出来るだけ孤児院にお顔を出して子供達に声をかけて下さい。貴族から声がかかるというだけで光栄に感じる子供達も多いのですよ」
とても話しやすい人で、あっという間に仲良くなった。
算盤にも興味を持ってくれた。
使い方をデモンストレーションしたら、あとで職人さんに一つ注文してみたいと言っている。これはかなり乗り気ではないかい?
アニー様主催のお茶会でも、お話しをしてもらえる約束をした。やはりボランティアに意欲的なお嬢様が何人かいるようで、その方々にも塾開設やら算盤の使い方やらを説明してくれるらしい。
貴族の理解があるのと無いのでは、やりやすさが全然違うからね、助かります。
地方にも算盤や帳簿を広げていくと、領地管理も楽になるだろう。少しずつ理解を深めて、浸透させていきたいと感じた。
ひと通り塾の話しを終えると、ひと息つきながらお茶を飲んで雑談を楽しんだ。
「セレス様が元気を取り戻してると聞いて、最初耳を疑いました。私もフィリップも、どんなに頑張って元気づけようとしても、あの遠くを見る様な哀しそうな表情を崩すことができなかったのですから。あなたのおかげね」
私のおかげっていうけど、何をどうした訳ではないぞ?むしろ私は、元々あった魔王パワーを被り続ける被害者だ。んー、納得いかない。
腕を組んで、首を捻っていると、アニー様がクスクス笑ってお茶を飲む。
「あなた、ちょっとだけエミリアに似ているの。容姿とかじゃなくてね、雰囲気というか纏っている空気っていうか。だからセレス様もあなたに目を向けるのでしょうね」
空気? 匂いか? 思わずくんくんと自分の腕の匂いを嗅いでしまった。それを見たアニー様が、声を出して笑ってる。
何か違ったかな?
「ずいぶんと楽しそうだね、孤児院の話しは済んだのかい?」
フィリップ王子がそういいながら入室して来た。セレス様も一緒だった。
「アリス、その間抜けな顔は止めなさい。淑女としてあり得ない」
セレス様が渋い顔で私を注意してるのを見たフィリップ王子は大爆笑、アニー様は口元を押さえて笑ってる。
「アニー様にはご理解いただけました。お茶会でも孤児院での塾開設や算盤のお話しをしてくださるようにお願いしてます。あと、私は間抜け顔はしてません。いたって真面目な顔してますからね!」
口を尖らせて抗議すると「この口も止めなさい」とむにっと摘まれた。意外に痛いんだから。
アニー様達と別れて、ドレスの最終調整を済ませ、リアン様から参加するパーティーとお茶会の詳細が言い渡された。
王家のパーティーでは、他の領主やお嬢様方からセレス様の身辺について探りが入ると思うが、知らぬ存ぜぬを貫くこと。
クロランダのクローゼ嬢からは早い時期にお茶会の招待があるらしく、その時に新商品を持っていくように、とのこと。
今回の最重要点はこの二つらしいので、これをクリアしたら営業しても構わないということだった。
よし、店長としてその才能を遺憾なく発揮してこよう。来年の収入と借金返済に関わるからね、頑張らねば。
そして、王家のパーティーで社交の季節が始まった。
前回と同じように王様にご挨拶したらダンスが始まり、セレス様とのダンス。今日も魔王の笑顔を貼り付けてバッチリ決まってるね。髪をまとめてる赤い紐が微かに揺れて、周りのお嬢さん連が放っとかないはずだわ。
私はクローゼ嬢のとこにいって新商品のインフォメしなくっちゃ。と、向こうはまだダンスしてるじゃないか、しょうがない。アニー様でもいないかなぁ。
ん? 何だ、さっきから視界にチラチラと映る若造くんは?
とりあえずニッコリしとこ。あ、こっち来るのか。あの子と話しでもしてる間にクローゼ嬢のダンス終わるかな?
「は、初めまして。サルーク領のリュシオンと申します。ダダ、ダンス、ダンスをい、一曲、おお、おお願いてましょう」
「ん? ダンスを踊ればいいんですか?」
「お願いひましゅ」
あ、噛んでる。必死なのは解るからさ、踊ってあげればいいんだよね?
リュシオンくん、手汗すごいんですけど。ここは我慢我慢。
顔には出さないように笑いを堪えてひと通り踊って挨拶したら、なぜだろう、ダンスの申し込みが来るわ来るわ。あーん、どうしよう、助けて〜。
次踊ったらたぶん転ぶ、と思ったところでセレス様に助け舟を出してもらった。持ってきてくれた飲み物を受け取ってようやく椅子に座れた。
「た、助かりました……あんなに踊らないといけないなんて、考えてもいなくって」
「前回から私としか踊ってないから、周りは遠慮していたのだろう。君にはこれから見合いの釣り書きがバンバン送られてくるぞ。楽しみだな」
はい? ダンスしたらお見合いって、何だよそれ。
「だってリュシオンくんが噛み噛みでダンスダンスって頑張ってるから気の毒になっちゃって……」
「我々貴族の間では、決まった相手が特にいない場合、恋人候補としてどうですか、という意味合いも含んでいる。迂闊にダンスをするとあとで大変な目にあうのだよ」
「そんな話し聞いてないですって。前もって教えてくださいよ!」
「前回急場凌ぎで覚えたダンスではないか。まさか、私以外と踊るとは思ってなかったので、教える必要も感じなかった。年若いご令嬢は年配の方や顔見知りとだけ踊っているだろう。あれは、自分の方から婿選びをするために相手を限定してるのだよ」
さらっと何でもないように話さないでよ。どうやったらダンスの申し込みをお断りできるのかわからないもの。あとでリアン様に相談だわ。
これ以上のダンスは危険と判断して、営業に重点を置いてまわることにした。あまり目立つ様な行動はとるなと言われたし、派手に動くと、またダンスする羽目になりそう。ここは一つ、ダンスフロアから離れて、おしゃべりしている人達の中に潜り込まねば。
あれれ? セレス様と別れた途端に先ほど踊ったダンサーの皆さんに囲まれるのはなぜ?
これじゃ身動きとれないじゃないか!
何とかしないと、何とか……
「先ほどは皆様とご一緒できて楽しかったです。私、今日はクローゼ様にお話しがありまして、どなたかクローゼ様へお取り次ぎしていただけませんか?」
ダンサーズの一人が案内してくれるらしい。よし、抜け出せる。あ、ついでに営業しとくかな。
「私、ライトミールというお店を開いておりまして、よろしければうちの商品を、お知り合いのお嬢様にご案内いただければ嬉しく思います。こちらはクローゼ様にも出資のご協力をしていただいておりますの。そうそう、孤児院の塾開設にも私携わっておりますのよ。こちらにもお顔出しいただければ嬉しいですわ。フィリップ王子もアニー様も喜びますよ」
さあ、これだけ厚かましく営業したら、結構引くだろう。私のバックボーンはそうそうたるメンバーさ。それでもグイグイ来るなら受けて立とう。わらわらと纏わりつく若造くん達を自分の手でバッサバッサと振り払うんだ!
切り捨て御免の最終面接まで勝ち残るのは、どこのおぼっちゃまかしらね。
「クローゼ様、お久しぶりです。クローゼ様が領地にお戻りになられてからは、王都は火が消えてしまったように思いましたわ〜」
軽く持ち上げから入り、出資のお礼、新作タルトをお茶会に出す手筈、美容液を作った話しまでした。
近くの誰かから飲み物を受け取って、二人で乾杯。タルトもさる事ながら、美容液への食いつきが半端ないわ。やっぱり女性ならお肌の手入れは欠かせないものね。
よし完璧だ。お茶会に参加することを告げてさようなら。
今日の私の仕事はだいたい終わった。
あれれ、気が抜けたせいかな?
何かふわふわしてきたっぽい。疲れがでたんだろうな、だいぶ踊ったし。足元が微妙にヤバい……
クローゼ嬢のところまで案内してくれたダンサーズの一人が私を支えて何ごとか言っている。おい君、その笑顔が胡散臭いんだけど。
音が遠くで鳴っているようで聞こえ辛いのよ……ああ、ダメだ、意識が遠のきそうだ……
思った瞬間にぐいっと身体が引き上げられ、そのまま眠りに引き込まれた。




