18話 目指せ明朗会計!
木の職人さんってさすがだと思います。
私が描いた、小学生もびっくりの下手な絵から、本格的な算盤を仕上げてもらえました。
もうっ、職人さんってば、リスペクトよ!
「いいですか?下の四つが一の珠、上の一つが五の珠です」
算盤の仕組みを簡単に教えて一桁の足し算から練習だ。生徒はセレス様、リアン様、アル、カミュさんの四人。みんな目が真剣だ。
「おお、これは面白いな。慣れるまで少し練習が必要だが、使いこなせれば計算書の数字の間違いも少なくなりそうだ」
満足気なセレス様と対照的なのがアルだ。もう涙目になって、誰かにすがりつきたいっていう感じの顔をしてる。
「俺は計算が苦手なのに、何でこんなにたくさん計算しないといけないんだ。もう数字見たくない。叔父上、助けてください」
「何を言っているんだ、アルフレッド。これを習得すれば計算書など、掃いて捨てるほど楽になる。我々が習得した後は、文官どもに習得させれば、お前が成人して財務管理する頃には、書類がずいぶんと見やすくなっているはずだぞ」
うんざりした表情だったアルの顔が俄然輝きだす。パチパチと練習しだす現金さに私は呆れて呟いた。
「みんなが習得するまでに、検算したり問題作ったり、計算する機会が目茶苦茶増えると思うんだけど。まぁ、頑張ってね」
珠を弾く手がぴたりと止まり、また泣きそうな表情に戻ってしまった。セレス様が「何事も修行だ」とアルに容赦ない一言を浴びせる。言われた当人は「くぁっ」と言ってパタリとうつ伏せてしまった。
うん、やっぱり魔王健在だったね。
「そう言えばセレス様、店の帳簿と借金返済の計画書が出来たんで、目を通してくださいね」
「ああ、部屋に戻ったらやっておく」
ほんの少し眉根を寄せた嫌そうな表情を覗かせて引き受けてくれた。やっぱりセレス様も書類は苦手なのかしらね、ふふ。
王宮から戻ってヴォルフをブラッシングしていたら、びっくりするくらいの勢いでセレス様達がやってきた。
「こ、この帳簿の整理……」
「セレス様、リアン様、こんばんは。慌ててヴォルフを踏まないで下さいね。で、帳簿がどうかしましたか?」
「帳簿の整理の仕方を教えてくれ」
んー。やっぱり帳簿もあまりきちんと整理されてなかったのか。
はっきりとは見たことないけれど、セレス様の机の上の書類、大きさから書き方まで、揃っているのなかったようだったもんね……
あれで計算とかやってるとしたら、かなりのツワモノだよ。
まずは書類の書式統一だよね。
あとは、複式簿記の基本をざっくりと伝えればいいのかな。
もう少し真面目に簿記の勉強しておけば良かったかぁ。突っ込まれたら説明できないかも。
「私も専門家ではないので、簡単にしか教えられませんけど」
「構わない。それでも今よりは格段に管理が楽になるはずだからな」
「わかりました。明日また王宮にお伺いするので良いですか?」
「いや、私が途中で君のところに寄ってから王宮に向かう。準備をしておいてくれ」
言うだけ言ってセレス様は店から出ていく。後から付いて歩くリアン様に「大変ですね」と声をかけたら、苦笑しながら手を振って帰っていった。
あっという間だったわねぇ。まぁ、なる様になるさ。
ヴォルフのブラッシングを念入りにしながら、夜は更けていった。
次の日、セレス様にピックアップされて王宮へと向かった。途中、帳簿の内容について、桁を揃えた書式や日付け順になっている見やすさなどを滔々と語られた。
いや、自分知ってるし……
私はげんなり、リアン様は笑いを堪える、セレス様は饒舌に語る、がしばらく続き、馬車は王宮へと到着した。
「ですから、これが売掛金となってこちらに表示されます。 あ、これらは商品を売るために必要なものだから、経費ってことなんです」
「ふむ、この『仕訳』という作業をきちんとしないとだめだな」
「そうですね。最初は文官さん達も一緒に仕訳の練習するといいですよ」
「ふむ、現物があった方が頭に入りやすい。君の店の、この帳簿をしばらく貸してくれないか。写し取って皆の練習材料にしたい」
「構いません。それと、仕訳伝票の他に、注文書や報告書の書式を整理しましょう。決まった形があると、意外に整理しやすいのですよ」
「確かに不便と思っていたが、変えることはなかったからな。これを機にやってみることにしよう」
王宮の予算や支出の管理はずいぶんと、どんぶり勘定だったようだ。使い込みしてても気づかないよね、これじゃ。
王宮に勤めてる人達はしばらくの間、算盤と仕訳の仕方を練習することになるだろう。
ものにするかどうかは本人次第だからね。
明瞭会計目指して、皆さんの努力に期待しましょ。
セレス様を筆頭に王宮方面は忙しそうなので、しばらく近寄らないことにした。
『病院の院長先生のご回診〜』風な感じで算盤振りながら廊下を歩くセレス様を想像して、吹き出しそうになったのは内緒のお話し。
お店で新しく作れる商品でも考えようとしてた時、リックから連絡が欲しいと伝えられた。
孤児院を面会場所に指定して、話し合いに出向いた。
「よう、悪いな。商売が忙しい時間に」
「いやいや、リックから紹介された子達が優秀過ぎて、既にお任せで切り盛りしてもらってるからね。本当に助かったわよ、ありがとう」
「その紹介についてちょっと相談したいんだが」
リックから紹介された六人の待遇の良さを他の子達が聞きつけたらしい。彼らを羨ましがって、今、紹介待ちが後を絶たないそうだ。
何でも、身綺麗にしてニコニコしながら一日楽してお金がもらえるっていうイメージらしい。
身綺麗にしてるのは貴族相手の商売の都合だし、ニコニコするのは、その方がいいアイディアや意欲が湧くからだ。
二週間ごとの査定もあるし、仕事に前向きでないなら辞めてもらうことになっている。側から見るよりも彼らは相当努力をしているはず。
だからこそ、お任せ経営をお願する、という信頼関係もできているのだ。
表面だけみて言っている人達はお断りだ。
「ならば、面接をします。面接に合格した子は試用期間の働きをみて採用するか判断しましょう。何人採用するかは、本人の努力次第ですね」
「わかった。いつ何処に連れて行けばいい?」
「安息日の次の日、仕事始まりの鐘までうちの店に来るように伝えてください。一日五人が限度です。それ以上なら、次の日へずらして面接を続けますよ。
中には真剣な子もいるはずだ。きちんと見出してあげようと決めた。
今回は計算や書取りができそうな子を同時に探そうと思うのだ。
もちろんキッチリ教えるわ。
最初は読み書きと簡単な計算。頭の回転が速い子なら、すぐ算盤使えるようになるはず。
二人で分担作業させて、売掛と買掛で半々に。
いやぁ、野望は広がるねぇ。別に私が楽するために育てるわけじゃないよ!
みんなが助かる方法を模索してるだけだからね!
明朗会計で風通しの良い会社って素晴らしい。貴族にも推薦できるレベルとかにするには、やはりきちんとした教育が必要かも。
ふと思いついてリックに相談してみた。
「ねぇリック、仕事がない子供たちは普段、どうやって一日を過ごしているの?」
「どうやってって……適当に時間潰して遊んでるぜ。街の様子をブラブラしながら見たりな」
「ふうん、結構暇を持て余してるっぽいわね。例えば、リックが声をかけたら、暇な子達って集まってくるかな」
「それは簡単さ。ただ内容にもよるかな」
うーん、ムチを使うにはアメが必要ってことね。何か考えないと。
とりあえず、フィリップ王子に相談して、孤児院で簡単な塾を開けないか聞いてみようかな。
アニー様もボランティアに熱心な方ならば、子供たちの教育にも協力してくれそうな感じだよね?
塾でお勉強して、ポイント貯めたら、特典がつくとか考えようはいくらでもあるからね。
早速面会予約を取って、三日後に王子の執務室に行くことになった。




