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16話 人件費問題

 えっと……アルの方を振り返ったら、物凄い渋い顔してるよ。おずおずと見上げると、


「全く……お前は何で叔父上に相談もなしに話しをどんどん決めていくのだ? あいつらに話した手前、確実に形にしないといけなくなっただろ? 大丈夫なのか?」

「んー。何となく構想は話してるから、それでいってみようかと。へへへ」

「ヘヘヘ、じゃないだろう。しょうがないよな」

「ごめんなさい」


 素直に謝ったら、本当にしょうがないって顔をしながら軽く首を振って私に問いかけてきた。


「で、俺は何をすればいいんだ?」

「私と一緒にセレス様に報告しに行って!」



 できれば怒られたくないので、アルの陰から顔出そう。

 セレス様に報告をするべく、王宮で面会予約をした。お昼過ぎ二回目の鐘だそうだ。

 その時間にアルと落ち合う約束をした。

 待ち時間の間、厨房にちょっと顔を出す。


「おう、嬢ちゃん、久しぶりじゃないか。パーティーの時はあのお菓子が偉い評判だったらしいじゃないか。こっちも追加追加の作業でてんやわんやだったぞ」

「あれからクロランダ様のクローゼお嬢様に気に入ってもらえて、貴族相手のお店を出すことになったんです。準備やら、開店の対応でご挨拶が今になってしまいました。ご協力ありがとうございました」


 料理長に感謝を伝えて、店の料理人は王宮を引退したデールさんだと説明した。

 知り合いだったらいいな、と思って聞いてみたのだ。

 やはり知り合いだったらしく、デールさんは元副料理長まで務めた人だったが、奥さんの体調不良と小さい娘の面倒をみるために引退したのだと教えてもらった。


 小さい娘さんってミラさんのことだよね、たぶん。ということは、今のミラさんの歳から逆算するとずいぶん前に家族のために引退したってことになるかな。


 あら、デールさん、お店に勤め始めてから奥さんの面倒、きちんとみれてたのかな。あとで確認しよ。


 今のデールさんの近況を話したら、嬉しそうに、近々連絡をとって酒でも飲んでくるようなことを言っていた。


 厨房を後にしたら、ちょうどいい時間になったので、セレス様のお部屋ヘ向かう。

 入室を許可されて入ったら、すでにアルがいた。

セレス様が眉間に皺を寄せて腕組みし、リアン様が苦笑している様子を見ると、アルからの報告は済んでいるようだ。

 とりあえずニッコリ笑っておこう。


「ひとつ君に言っておこう。『ライトミール』の店舗と初期費用に関しては国からの君の保護費でまかなった。そして、その保護費は現在あまり残高がない」

「つまりこのままだと赤字ということですか?」


 セレス様がコクリと頷いた。

 んー、参った。考えてみたら稼ぎ始めたのもつい最近だし、セレス様に言えば揃えてくれてたから、何の心配もしてなかったんだよねぇ。

 ……あ、いいこと思いついた!

 私は「ぽん」と手を打ち、目を輝かせながら言った。


「ヴォルフと一緒に魔石狩りに行ってきます!」

「何故そうなる!」


 驚愕の表情をするセレス様他二名。

 私にはみんながなぜその表情をするのかがわからない。


「えー? だって魔石買い取りしてくれるじゃないですか。当面の資金調達には持ってこいですよ」


「「「却下」」」


 何故か三人の声が完全に揃ってた。

 わお、ビンゴ!


「いいか、君は何のために王都に来た。魔物から身を守るためであろう。ヴォルフ殿と一緒にいることと、王都の護りの中だからこその今の安全だ。王都からでたら危険が増すに決まっているだろう?」


 あ、そうだった。魔石狩り行けないのかぁ。て言うか、私、観光も出来ないの?

 行動を制限されるのって窮屈だなぁ。

 何かショックだしちょっと寂しいな。

 でも魔物を呼び込んで周りに被害を出すよりいいか。

しょうがないね、全く。受け入れるしかないか。


「わかりました。おとなしくしてます。だったらセレス様、私にお金を貸してもらえませんか。お店が軌道にのって安定するまでの間、人件費を肩代わりしてもらいたいのですが?」


 セレス様は少し考えて、渋い顔をしながら私に言った。


「向こう半年はおとなしくしていること。それが条件だ。社交の季節が始まるまでだが、できるか?」


 なぁんだ。結構簡単な条件じゃないの。私は安心して、


「わかりました。そのくらいの期間、それ以上でも平気ですよ」

「アリス、無理するな。お前が半年以上静かになるなんて誰も期待していない」


 アルが疲れたように呟くと、リアン様まで似たようなことを言う。


「そうですよ、アリス。あなたが楽観的に考えれば考えるほど、周りは調整に大変なのですから」


 がーん……

 私そんなに面倒な奴だったんかい。しかも、問題児のアルからもそんな言われ方をするなんて。

 決めた。絶対半年静かにしてやるもん!



 リックと連絡を取り合って、派遣されて来た子達は全部で六人。料理人向きの大きい男の子が二人、ちょっと小さな女の子だけれども、どうしても料理人になりたいと言ってる子が一人、あとの三人はポーター用に来てもらった。


 事前に知らされていたので、制服の白衣は準備していたのだが、仕事をする以前で問題が発生した。

 臭いのだ。入浴など身体をきれいにする習慣がない子供達は汚れ放題だ。

 慌ててセレス様の家に行き、執事のランドルフさんにお願いして盥と裏庭を借りて、男の子達の行水大会を開始した。

 ついでにルーク用の普段着を三着譲ってもらって着替えてもらう。丈の合わないのはご愛嬌だ。

 女の子はうちのお風呂を利用してもらって身綺麗にしたら、私の普段着をきてもらう。


 ほっとひと息ついて、交代で着ていた服を洗濯するようにした。みんな嫌がったが、給料のうちです、と強引に洗濯させた。

 清潔になった六人を並べて、改めて店と仕事の説明をした。


 朝、仕事始まりの鐘までに店に入る。帰りは仕事終わりの鐘まで。

 店に着いたら、まず顔と手を洗う。

 仕事をする時は白衣を着る。一日の最後に白衣を洗ってから帰る。

 料理人見習いの男の子二人、名前はルイ君とライ君。もう一人の女の子、名前はリンダちゃん、はデールさんについて、料理の基本を習う。

 ポーターの子達は挨拶やドアの開け閉めなど、基本動作の練習と商品を入れる籠やアレンジも練習する。


 ここまで説明をして今日は終了にした。

 子供達を身綺麗にするだけで疲れ果ててしまったし、臭いが私にも残ってそうで、とても仕事をする気にならない。


 リックにお願いして、事前に身綺麗にするのも条件に盛り込むかな。要検討ってところで。


 幸い今日と明日の注文は受けていないので、デールさんにも早めに帰宅してもらうことにした。


 一週間の試用期間で私が継続的に雇用するかどうか決め、二週間に一回、給料を払うことにした。

 ただし、二ヶ月続けられないようならリックからペナルティーを支払ってもらうことに決めた。

 当然リックも慎重に選んでくるはず。

 今はこの六人を使えるように仕込むことが優先だね。

 ルイライのコンビが火を上手く使えるようになったらお料理の幅も広がるし、リンダちゃんにはトッピングを教えてもいいかも。

 この先の展開を考えるととっても楽しくなってきた。


 ほら、私だっておとなしくできるもん。


 後日、セレス様が王宮に出勤する前にうちに寄った。何事かと思って出迎えたら、目の前に一枚の紙を突き出された。

 紙を受け取り、よく読んでみるとルークの普段着代の請求書だった。

 冷めた目で私を見つめ「また借金が増えたな」だそうだ。


 うるさい、余計なお世話よ!

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