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15話 街の子供達

 貴族社会というものは不思議なもので、権力のあるものが良いと言えば、たちまち流行となってしまうのだろうか?


 クロランダのお茶会に商品を出してから、我も我もと注文が入り、デールさんとオーブン一台では対処仕切れるかどうか、という状態が続いている。

 明日には追加のオーブンを入れてもらう予定なので、少しは楽になるかしら。



「砂糖の花をお届けに来ました」

「はーい、ちょっと待っててね〜」


 背中に小ちゃい赤ちゃんを背負った五、六歳くらいの女の子。ん? 一輪少ない?


「ねぇ、頼んだのは五輪、ここにあるのは四輪。さて、残りの一輪はどこに行ったかな?」

「……ぁ」

「詳しく聞かせてくれるかな?」


 途端に泣きそうな顔をするが、ダメなものはダメだ。業者が出し忘れたわけでもなさそうだし。


 店の中に入れ、椅子に座らせて向かい合って座る。ホットミルクを出したら、少しためらった後、すごい勢いで飲み干した。そして、


「ごめんなさい!」


 両手をきつく握りしめ、目をギュッと瞑って謝ってきた。

 あまりにお腹が減って、ちょっとずつかじっていたら一輪分なくなってしまったらしい。


 聞くところによると、病気で亡くなった両親の代わりにお兄さんが生計を立てていたそうだ。三ヶ月前に魔石取りに行ったまま帰ってこないという。

 魔石取りの報酬はかなり多いのだが、その分危険も伴う。ひと月の予定が三ヶ月となると、生存の可能性も危ぶまれる。

 背中の赤ちゃんの食べ物は、と聞くと、水を飲ませているだけだと。慌てて降ろさせて、赤ちゃんにもミルクを飲ませ、ため息をつく。


 どうしたものか。


 この街の孤児院を紹介して終わりにしてもいいのだが、仕事に就けない子供達の生活環境が悪過ぎることを思いだした。

 ひとまず、赤ちゃんの為にも孤児院に世話になるよう勧めて女の子を帰した。



 セレス様に面会予約を取り付けたら、帰宅後に夕食を兼ねて話しを聞くと言われた。


 気軽に相談できるのはいいのだけれど、だんだん私の扱いが雑になってきてるのは気のせいですよね?


「孤児院の管理者と現在の状況?」

「はい、就業前の子供達の環境も知りたいです。親が働いている間はどのようにして過ごしているのかと」

「今の君の生活に関わることなのか?」

「関わってもいいのかな、と。子供達の何人かを料理人に育てるでも、ポーターとして雇うでも。将来的にイートインスペースを開く場合には、ウェイターなどにも使えます」

「雇うならば職人ギルドから雇えるであろう。何も子供を使うこともない」


 セレス様は子供達を仕事に就かせることに難色を示す。しかし、学校にも行かないのだ。その分時間が余っているはずだ。

 本来教育に時間をあてがうべきだろうが、生きる為にはまずは稼ぐことから始めるのが良い。


 お金があると精神的にも余裕が生まれてくるので、勉強し易い環境に変わってくるだろう。教育を施すと庶民からも頭の切れる者は出てくるだろうし、貴族だけが私服を肥やすことも少なくなるだろう。

 セレス様に私の持論を展開し、説得に熱がはいる。


 眉間に親指を当ててグリグリとするいつものポーズでしばらく考え込んだ後、ため息をつきながら話し始めた。


「孤児院の管理者は第一王子のフィリップ様だ。ひと月に一度、アニー様と視察をしているので、任せておけば大丈夫だ。そもそもアニー様は孤児院へのボランティアに熱心で、フィリップ様に見初められたのもそこだからな」

「なるほど。体制はしっかりしてますね。普段孤児院の子達は何をしているのですか?」

「奥の森で狩りや敷地内に畑があるので農作物を育てているな。基本的には食糧は自給自足できるはずだ。一定の年齢に達した男女は職人ギルドへ登録して職人になるものが大半だと聞いたぞ」


 あら、孤児院、意外とやるわね。将来有望な若者を育てるためにも是非続けて欲しいわ。


 なら問題は親がいる子供達への対処だな。

 ただ群れてるわけではないだろうから、リーダーとなる人との話し合いが必要だね。


 そう言ったら、いきなり行くのではなく、信用できる人を通して面会を依頼しなさいと言われた。

 場所は孤児院が妥当、ヴォルフを見えない位置に配置すること、アルとカミュさんを連れて行くことが条件となった。


 何か物々しいよ。そんな危険な相手なの?


 私が連絡つきそうな相手なんてほとんどいない。とりあえず孤児院を紹介したあの女の子を頼ろうかな。




 孤児院に顔を出し、例の女の子を探した。顔色がだいぶ良くなっている、よかった。

 私を見つけて駆けてきてくれた。


「お姉さん、孤児院に来てよかった。弟の面倒も見てもらえるんだよ。私もお手伝いたくさんするんだ!」


 頷きながら頭を撫でてあげた。あの死にそうな目は見たくない。まるで村でマーサ達を失った時の自分がそこにいるような気分になっていたから。


「大丈夫か?」


 アルが心配そうに声を掛けてきた。振り返って笑いながら「大丈夫だよ」と返した。

 アルってば、私が出歩くことを聞きつけて慌てて付き合ってくれたのだ。何か過保護。

 うん、気持ちは落ち着いているよ。


 気分を切り替えて、女の子に街のリーダーになっている子の話しを聞いた。

 リーダーはリックという子らしい。孤児院の大きな子が知り合いらしいので、明後日のお昼ちょうどの鐘で連絡を取ってもらう事にした。



「あんたかい、俺に用があるってのは」


 リックが手下の子供を三人ほど付けて話し合いにきた。

 私はアルとカミュさんに後ろで待つようにお願いして、一人で前に出た。


「ちょっとだけお話しが聴きたくて。わざわざ都合つけてくれてありがと。私はアリス、今は貴族相手の『ライトミール』というお店を開いているわ」

「知ってる。なかなか羽振りが良さそうだな。そのアリスさんが俺に何の用がある?」

「単刀直入に言うと、あなた達の空いてる時間、うちで使わないかってこと」

「どういう意味だ?」


 リックが眉をひそめ私を見る。

 私からの提案を詳しく説明した。


 時間が空いている子供達の中で、見込みがありそうな人を料理人として育てたいということ。ただし親の職業を継がなくてもいい人に限られること。

 親の職を継ぐなどで料理人教育を受けない人には、ポーターとして貴族の家に商品を届ける仕事や、ラッピングアレンジなどの簡単な作業をお願いしたいこと。


「お仕事をお願いする以上、賃金は支払うわ。ただし、きちんとしたい身なりにしてもらうこと、あと仕事を誤魔化すことはダメです」

「どうせ小遣い稼ぎだ。遊びたくなったら適当に抜けるヤツもいるだろ」

「これは契約ですから、働いた分だけ自分にお金が入りますが単発は認めません。期間を決めて、きっちり働いた人だけに報酬を払います」


 そして、一番重要なことをリックに伝えた。


「誰をどの仕事に就けるかは、リック、あなたが考えて下さい。あなたの紹介ということで人を雇います。だから、紹介された人が中途半端な仕事をする人だった場合、リックに損害のお金を要求します。いかがかしら?」

「ふぅん、俺が別にしなくても良さそうだな」

「ごめんなさい、忘れてたわ。あなたには一人紹介してもらう毎に一定額お支払いします。仲介手数料ですから」


 リックは顎に手を当ててしばらく考え込んだ。

 どうだ、胴元の仕事は美味しいだろう。

 しかも教育はこっち持ちだし、楽だと思うよ。さあ、手を組もうよ。


「ふむ、適当なヤツだと俺が損するシステムか、考えたな。わかった。いつから始めるんだ?」

「そうですね。こちらも準備があるので、整い次第また連絡します。あと、紹介してもらう人も最初は試用期間として私も仕事の向き不向きを確認します。いいですか?」

「構わない。こっちは抜けて遊ぶようなヤツを出さなきゃいいだけだからな」


 確かにそうだよね。

 なら、これからよろしくお願いしますね、リックさん。

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