14話 『ライトミール』オープン
「ん〜。ヴォルフってば、やっぱり気持ちいい〜」
言葉の最後にハートがつくくらいにヴォルフと戯れながらゴロゴロさせてもらっている。
場所はセレス様の郊外のお屋敷。時刻はお昼過ぎ。
昨日のパーティーではクロランダ を丸め込んだ後にエイキム領主とゴードン領主との面談を無難にこなし、出店に快く賛同をもらえた。
今は出店に向けて、店用の土地購入と器材購入の手続き、ギルドへの登録と店員の手配などを話すべく、会議に出席する面々を待っているところだ。会議は夕方、食事を兼ねて行うことになっている。
「ルーク〜。ちょっとお昼寝したいから一緒に寝て〜」
「馬鹿! お前は一応お客様の扱いだ。俺がお前をもてなす側になっていることを忘れるな! しかも妙齢の女性が添い寝なんて、はしたないことを言ってると怒られるぞ!」
「は〜い」
……妙齢って……
ちょっとの間にルークってば紳士っぽい立ち居振る舞いや言動を身に付けちゃったし。
執事のランドルフさんに心酔してるみたく、色々教えてもらってるらしい。
元々何でもすぐ吸収するタイプだからね。
やっぱ、うちのルークってば最高!
久しぶりにルークの怒鳴り声を嬉しく聴き、少しの時間横になることにした。
昨日、というか今朝までの疲れを払うため、ルークに頭を撫でてもらいながら、肩をトントン。ヴォルフを抱っこして寝れば瞬く間に夢の中に引き込まれた。
「あー……寝過ぎたかぁ」
呼び鈴を鳴らし、侍女さんにお手伝いをお願いして着替えを済ませ、皆さんが集まってるであろう食堂へと向かう。
「すみません。遅れましたか?」
「いや、問題ない。初めてのパーティーだったから疲れもかなり溜まっていただろう」
セレス様のフォローに軽くお礼を言って席に着く。
相談役となるのはいつもの三人、セレス様、リアン様、アルだ。一応ルークを管理人として相談役に加えてもらえるようにお願いする予定だ。
ルークの同席を求めたが、給仕の仕事があるから、と断わられた。
ちょっと複雑な気分だが、一緒に食堂にいるから管理人の提案もしやすいよね。
食事が始まり、早速出店の話しを、と思ったが、リアン様に突っ込む話しから始める。
「リアン様、今回参加した若い女性の中でセレス様に見合ったお嬢様はいらっしゃいましたか?」
「残念ながら、セレス様の婚約者としては今ひとつな女性ばかりでしたので、次回に持ち越しかと」
「そうですか。私はイヴァン領ロッテ様がお似合……」
「彼女はダメです。彼女以外で探しましょう」
話しをカットインされた……
あんぐりと口を開けた私をみて、セレス様とアルが笑いを堪えてる。
澄ました顔をしてロッテ様をガッチリ守ってる辺り、リアン様の本気度が伺える。
全く、ほんの二、三日だよ?
そんな短期間でよく彼女をモノにできたね。リアン様は「セレス様が独り身である限り私も」みたいな考えだと思ってたからとっても意外。行動の素早さにも関心だわ。
まぁ、私も他人の春は応援したいので、これ以上の追求はしないことにした。
パーティーでクロランダに貴族相手の店を出店する話しになったことをまず報告して、具体的な内容を詰めることにした。
店舗はセレス様が適当なところを押さえてくれた。目の届く範囲にしたいからセレス様の家の近くだって……適当にも程があるっ!
私はカフェみたいな感じで開こうと思ったのだが、馴染みのない店に貴族達が通うことは無いだろうという結論に達し、やむなく断念。
最初は宅配専門にして、顧客が付いてきたら事業展開する方向でまとまった。確かに、店員さんや料理人が全くいない状態だもんね。
商品はパーティーで出した三種類からのスタート。店舗の一階にオーブンを入れて私がレシピや調理方法を教えながら従業員を育てることにした。
そして嬉しいことに、二階を居住用にして、ルークとヴォルフと私の三人で生活できるように手配してもらえるようになった。
護りのペンダントを身に付けて、ヴォルフが一緒であれば、神殿で生活しなくても良いだろうとのゼフュール王の見解だそうだ。
王様、ありがとう。
私が嬉しそうにしていたら、神妙な顔をしたルークが後ろの方から「お願いがあります」と声をかけてきた。
セレス様が発言を促すと、
「私はセレスティアル様のお屋敷で引き続き仕事をこなしたいと思っています。執事のランドルフさんの様に一流の人間になりたいのです」
え……
ルーク、私を独りにするの?
呆然と話しを聞いていると重ねてこう言った。
「店舗は近くですし、ヴォルフが一緒ならアリスのことも任せられます。私も成人近いので、生活にも、ある程度の節度が必要かと」
言われてちょっと納得した。確かに兄妹だけど大きくなったから一緒に寝ることもできないしね。
少し拗ねてルークをみたら、優しく頭を撫でてくれた。我慢するよ。
次の日からは従業員探しだ。
商人ギルドへ登録して従業員探しを相談したら、職人ギルドから派遣してもらう方法があるという。すぐに職人ギルドに行って、オーブンの使用経験者を紹介してもらうことにした。
ポーターはとりあえずルークにお願いして、大変になったら人数増やそう。
ギルドに行った次の日、紹介状を持ってデールさんという人がやってきた。
王宮の料理人を引退した人なので、ほぼお任せでオーブン料理をお願いできそうだ。
うん、採用。
「この度はありがとうございます。この年になると、なかなか仕事に就けなくて。助かりました。それから娘の店にも通っていただき、重ね重ねお礼を申し上げます」
「娘さん? 私の知り合いかな?」
「はい、娘はジューススタンドのミラです。アリスさんが通ってくれたおかげで、良縁にも恵まれて。本当にありがとうございます」
何とミラお姉さんのお父さんだと。しかも、私が通っていた時に護衛として同行してくれていた、アルの側近カミュさんと急接近し、近々おめでたい話しになりそうとのこと。
何でも、ガラの悪い男達に絡まれていたミラさんをカミュさんが助けてくれたそうだ。
ピンチを救ってくれる王子様に娘さんは皆フラフラと靡くもんだよ。
しかし何故タイミングよく? と不思議に思ってたら、毎日私やアルの動向をミラさんに報告しに行ってたらしい。そんなん、どうでもいいことやないかい!
完全にダシにされたわい!
ふう〜ん、私の周りは幸せラッシュなのね。
その幸せ、私にもこないのかしら?
あ、その前にセレス様にね。
デールさんにレシピを教え、商品にできるまで技術を高めてもらう。その間に宅配のための容れ物やアレンジを調整し、開店を待つだけになった。
クロランダの娘クローゼに連絡をとり、注文があれば納品可能な旨を伝える。
財力と新し物好きを充分に満たしてもらって流行の発信元になって貰おう。
ヤツをうちの店の宣伝部長に任命すると密かに決める。さぁ、働け。
まずは挨拶がてら私が直接納品に行き、周りのお嬢さん方の反応を確認しよう。彼女らにも営業して拡散してもらわねば。
「アリス、お前悪い顔してるぞ?」
「あら、そんなことございませんわよ、おほほほ」
様子を見にきたアルが自分の腕をさすりながら「ろくなこと無さそうだ」と呟いている。近くにいたルークもアルを見ながら真顔でコクコクと頷いていた。
心外だわ、全く。
「この度は、私共のお店『ライトミール』をご用命いただき、ありがとうございます。今後の新商品も『一番に』お持ち致しますので、クローゼお嬢様には品評をお願いできれば嬉しく思います」
「そうね、私が一番なら何でもいいわ。ゴードン領のアニー様よりもね」
アニー様とはフィリップ第一王子の婚約者。将来的には女性第一位になる方よりも優位につけたいようだ。
アホらしい。たかが食べるタイミングが先か後かの問題だが、ここが重要なんだそうだ。
このお嬢さんは自分の虚栄心を満足させないと生きられないもんなのかね。所詮小物の考えそうな行動だ。適当によいしょしときましょ。
同席していたお嬢さん達にもバッチリ営業して、手応え充分な感じでお店に戻った。
世の常として、若い女性が新しいモノに反応し、それに振り回される親、彼氏、配偶者などがお金を落とす。たぶんこの構図は変わらないだろう。
ならばターゲットは決定、お菓子の他にスキンケアや可愛い小物は受けるはず。
まずは富裕層に定着させて、街や地方にも広がることを目指す。
それを当面の目標にしてみよう。
頑張れ、私。




