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13話(閑話)イヴァン領主の嘆き

今日は別視点のお話しです。

 ……また領民が減った……


 私が管理するイヴァン領は王都の北東に位置している。

 この国の北側全体には巨大なユフローネ山脈が横たわっているので、王都より北にはあまり住人がいない。

 しかし、幾ばくかの人がいる以上、治める領地と領主が必要なので北東部は私が管理することになっているのだ。

 イヴァン領は北側が山脈の急斜面に直結しいるので、南側にしか人が住めない。人が住んでいる所も土地がやせているので、育てる作物もあまりない。

 無い無い尽くしのこの土地に魅力など何もなく、領民はどんどん他領へと移住していく。税金をまかなうのにも大変な有り様だ。


 北西部を管理するアドラー領主に境遇の大変さを嘆いていたら、私の娘のロッテの輿入れを条件に資金援助して貰えることになった。

 領主の妾として迎えてくれるということだ。

 娘は十八、花の盛りだがイヴァン領を救うために涙を飲んでもらうしかない。


 向こうは山脈への入り口がなだらかなので、ピクニックや避暑などの観光と酪農で収入が安定しているのだという。

 今の貧乏生活よりもずいぶんと贅沢な暮らしができるはず。例え妾でも、充分な生活をさせてやりたいのが親心というものだ。


「ロッテ、すまないね。私の娘に生まれついたばかりに苦労をかける」

「こればかりはね。国に税金が払えないのは良くないですし。アドラー様には継続的に資金援助してもらえるのですよね?」

「いや、継続的とは言っていなかった……」


 ロッテはため息をつきながら、


「いいですか? 今回は税金をまかなえたとして来年からどうするのですか。継続的な援助でなければ娘は嫁がせられない、と言ってください。私は何人もいる訳では無いのですよ?」

「ああ、わかった。アドラーに交渉しよう」


 ロッテの勢いに押されながら気弱に言葉を返した。


「それと、次の領主会合で王に領地を返還して直轄で治めていただけないかとお願いしてくださいませ。仮に了承されても、うやむやに何年も領主の仕事を続けることになるかもしれないので、資金援助は必要不可欠なのです。私はこれ以上の税負担を領民にかけたくないのですよ」

「ふう……お前が領主だったらもっと早くに建て直せたろうに」

「私でも無理ですね。何しろ売り物がないのですから。むしろお父様がここまで耐えたことの方が凄いと思いますよ」


 なぐさめの言葉を聞いて涙が滲む。

 ああ、この娘が居てくれたから今まで頑張れたのだ。それをアドラーにくれてやったら、何を生き甲斐に暮らせばいいのだろうか?


 なす術もなく項垂れていると、執事が王都からの手紙を持ってきた。領主会合の知らせだろう。

 封を切ると、会合の案内と共に適齢期の女性をパーティーになるべく参加させて欲しい旨が通知されている。不思議に思ってロッテに相談しようとしたら、ロッテは別に渡された一通の手紙を穴のあくほど見ていた。


「ロッテ?」

「お父様!」


 お互いの声が交差して、その剣幕にびっくりして問いかける。


「な、何事だ?」

「見てください! 王弟付き側近のリアン様から、『じゃがいも』の大量注文をしたいと」

「何で側近がじゃがいも?」

「会合のパーティーで記憶持ちの少女がふるまう軽食にじゃがいもを使用したいそうです」

「でも、じゃがいもは家畜の餌ではないか……リアン殿、いやその少女か。何を考えて餌の注文などと」


 戸惑う私に、娘が掴みかからんとする勢いで話す。


「そんなことはどうでも良いのです。お金が入ってくるのですよ! 物が売れたのです! 売り物がない我が領地から売り物が出たのですよ!」


 ハッとしてロッテの顔をみた。ロッテも私を見て頷く。

 これで娘をアドラーの妾に差し出さなくても生きていけるようになったということなのだ。

 私は嬉しくなってロッテの手を取りその場で飛び跳ねた。

 ロッテも涙をながして笑う。

 他領からも『神から見捨てられた土地』と馬鹿にされるイヴァン領だが、ようやく救いの手が伸びてきた。少女は神の遣いなのだろうか?

 二人で泣きながらもう一度手紙を読む。何事かとやってきた執事に説明したら、執事も涙を流して喜んでくれた。皆で大泣きして半刻を過ごした。


 落ち着きを取り戻し、早速じゃがいもの手配に取り掛かった。

 じゃがいもはへこんでいるところから白いものが出てる物は使えないと言う。暖かいのもダメらしいので、荷車に氷の魔石で冷たい空間を作り、その中に入れることにした。

 私は水の魔石でいいと言ったのだが、ロッテがここはお金をかけて勝負するところだと言い張った。氷の魔石は水の魔石の二倍はするのだ、もう貯金の底が見えてきたよ……


 なけなしのお金で領地にある村々からじゃがいもを買い取り、会合に出席する為に出掛ける準備を始めた。


 今回はロッテも一緒に王都に向かう。適齢期女性の参加を促す通知もあったし、じゃがいもの今後の販売見通しと値段交渉があるからだ。

 商売は娘の方が向いている。私は領主のサインをするだけだ。


「お父様、交渉は最初が肝心なのです。舐められてはいけません」


 ロッテが鼻息も荒く、商談への意欲を示す。パーティーには、くたびれた一張羅を着て二人で臨む覚悟できている。どのようにじゃがいもが使われるのか、この目で確かめなければならない。



 王都に着いて、セレスティアル殿、リアン殿、記憶持ちの少女ーー名前はアリス嬢だそうだーーとの対面を済ませ、早速商談が始まった。

 じゃがいもは『フライドポテト』という物になるらしく、試食したら非常に美味いものだった。表面に塩を使っているので、薄っすら藤色に光っているようにも見える。こんな使われ方があるなんて思いもよらず、目を見張ってしまった。家畜の餌しか用途がないと思っていたのに、大変身だ。他にも様々な食べ方があるそうだ。


 しかもこれから継続的に取り引きしてくれることになったので、領民の減少にも歯止めがかかるだろう。領地が少しずつ息を吹き返せるとの見通しも立った。


 詳しい値段交渉の場はリアン殿とロッテに任せ、私とセレスティアル殿、アリス嬢はお茶席に移動した。


「お嬢様はとても綺麗な方ですね。ご結婚されてますの?」


 アリス嬢が問いかけてきたので、未婚だがアドラー領主の妾になりかけたこと、商売や領地に夢中で男っ気が全くないこと、貧乏な為に縁談もほとんどこないことを話した。


「まぁ、それはお気の毒に……」


 言葉とは裏腹に、ニヤニヤしながらセレスティアル殿の脇腹を肘で小突いている。ずいぶん大胆な少女だ。

 隣のセレスティアル殿は眉間に皺を寄せてアリス嬢を眺めてる。


「もしもお嬢様に縁談話が舞い込んだら、お嫁に行かせても大丈夫でしょうかね?」

「頼り甲斐があって将来有望な若者であればいつでも嫁がせる覚悟はしておりますよ。領地がうるおうまではまだまだ好条件には恵まれないでしょうがね」


 苦笑混じりに答えると、ロッテの方も交渉が終わったようで、帰り仕度のため立ち上がった。

 丁寧に挨拶を済ませ、その場を後にした。


 ロッテを見ると、呆然とした表情だ。首を捻り声をかけると、ハッとして結果を報告をしてきた。あまりの好展開に呆然とするのは私も一緒だ。



 次の日の会合の合間、アドラーに資金繰りの目処が付いたので、妾の話しは無かったことにしてもらう。向こうは残念そうな顔をしてるが、誰が大事な娘をくれてやるものか。この好色親父め!


 爽快な気分のまま、パーティーに臨むためにイヴァン領に充てがわれている部屋へ戻る。


 すると、ロッテが新品の流行りのドレスを身に纏っていた。びっくりしてどうしたことかと尋ねると、リアン殿から贈られた、という。パーティーの話しになり、ドレスの見すぼらしさをつい愚痴ってしまったようで「それならば自分が贈りましょう」と申し出てくれたらしい。

 今まで男性からの贈り物など皆無だった娘だ。田舎者のうちの娘など、あっという間に惚れてしまうに決まっている。これだから都会の男は……


 うっとりとドレスを見ながら鼻歌を歌って軽くステップを踏んでいる。最初の鼻息の荒さはどうした!

『舐められる』どころか、『喰われそう』になっているロッテを心配するが、当の本人はどこ吹く風だ。


 リアン殿、頼むからうちの領地から持っていくのはじゃがいもだけにしてくれ。

 うちの娘は売り物ではない!

 娘まで持っていくのは聞いていないぞ!

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