12話 いざパーティーへ
三人との話し合いの結果、まずは会合で試食会を開き、その後パーティーでも出すのが領主達にも受けがいいのではないか、とのことだった。
レシピ公開はクッキーのみ、あとは商品として販売する方が期待度も高まり出店し易いだろう。
王宮のコック達もレシピの問い合わせに対応できないと思うし、困らせる訳にはいかない。
ダンスもセレス様だけではなく、リアン様やアルとも練習を重ねたので、本番を待つだけだ。
貴族のパーティーなんて滅多に出席できるもんじゃない。楽しみだなぁ、遠足の前ってこんな気持ちになるのかな、初体験だよ。
さて、領主会合当日になりました。
……楽しみなんて言ったのは撤回します。朝から戦闘状態に突入しております。クロエさん達の目が血走ってる、怖いよぉ……
今こそ呪文を唱えよう。私はお人形、私はお人形……
出来上がった私は本当に自分かと疑う程の美少女に変身していた。
ドレープがたっぷりととられたローズピンクのドレスに白い小花が可愛いらしく散りばめられ、装飾品にも小花がほどよく使われているので、可憐な感じに仕上がっている。
あぁ、写真撮っておければどんなにいいか。
クルリと一回りして満足したら、リアン様のお迎えを待つ。その間に軽食を、と思ったら胴を締められて入らなかった。くっ……
「アリス、準備は整いましたか?」
「どうぞ、お入りくださいませ」
クロエさんがリアン様に入室を促す。
「ありがとう。セレス様は領主達との話し……」
リアン様が固まった。え? 何か変だった?
ちょっと焦った顔をして肩とかお腹とかを触ってみる。ソフィアさんが「ぎゃあっ」といいながらドレスの皺を伸ばす。あ、ごめん。触っちゃいかんな。
「……あまりの変貌ぶりに見惚れてしまいました。素敵なレディに仕上がりましたね。とてもお美しいですよ」
「お褒めいただきありがとうございます。ご満足いただける結果を出せたでしょうか?」
優雅にお辞儀をしてニッコリ笑った。
リアン様は目を細めて微笑みながら頷いた。
セレス様とは大広間前の控えのお部屋で合流予定だ。
リアン先生の合格も勝ち取った。あとは領主にプレゼンして完全勝利するのみ!
アリス、行きまーす!
「さぁ、扉の向こうは戦場ですよ? 準備はよろしいですか?」
セレス様が冗談混じりに私に話しかけてくる。緊張でガチガチになってる私に小さな布の包みをくれた。何かと思って開けてみると、獣毛を小さく束ねたものだった。
「ヴォルフ殿とルークからです。ちょっとしたお守り代わりですよ」
「まぁ、ありがとうございます。持ってるだけで安心します。私も今度セレス様の為に恋愛成就のお守りを作って差し上げますよ」
「いや、気持ちだけで結構」
何故か顔をヒクつかせて辞退するセレス様。人の好意は快く受け取るべきよね。
しかし、このお守りのおかげでなんとなく緊張が和らいだ。
二人の気遣いのお守りをドレスのポケットに忍ばせて、手直ししてから、深呼吸。よし、いける。
「王弟殿下セレスティアル様、アリス嬢」
遠くから名前を呼びあげられ入場口にたった。
ざわざわとした空気が一瞬で静まり返る。
そして会場にいる大半の目がこちらに向けられた。
「げっ」
「ずいぶんと多いな……」
二人同時に小さく呟いた。
おっと、ヤバい、忘れてた。笑顔笑顔。
セレス様をチラ見するとびっくりするくらい煌びやかな笑顔を貼り付けていた。吹き出しそうになるのを堪え、エスコートされる。
入場を済ませ、近くのお貴族様に軽くご挨拶していると王夫妻の入場が始まる。
一斉にひざまづくのを横目でみて思った。
うん、童話の世界にやってきたぞー。お貴族様だー。凄いぞー。
ひと通りの挨拶を済ませたら王様からのパーティー開始の合図をもらい、ダンスが始まる。
お約束のセレス様とのダンスをこなす為フロアにでると、周りのお嬢さんやらおじさんやらからの視線が痛いです。
私の背中に婚約者じゃありません、と貼り紙でもしたくなるような、そんな状況です、はい。
「セレス様、大変な人気者だったんですね」
「貴女にはかないませんよ」
お互いに笑顔で踊りながら小声で会話する。
私に向けられてるのは威嚇の視線だっつーの!
曲が終わったので、とりあえずフロアから離れることにした。まずは課題ひとつクリアだ。
セレス様が飲み物を取りに行ってくれた。
すかさず私に近づいてきたおじさんは、クロランダ領主とその娘だった。
「神殿のお客人はずいぶんとご活躍されているようですな。会合で試食した『クッキー』でしたか、あれを庶民相手に売り付けるとか」
「お召し上がりいただけましたか。クッキーはレシピ公開しておりますので、作り方と材料があればどなたでもお口にできるように考えました。ただ、街の方々は材料や器具が揃わないと思われますので、少量を提供する方法を考えたまでです」
「ふん、貴族は適当にあしらって庶民には至れり尽くせりか。あまり感心した商売では無さそうだな」
何か上から目線なんですけど。
カチンときたが、素振りも見せずに応対しよう。
「このパーティーではその他に『生キャラメル』と『フライドポテト』をご用意いたしましたので、是非ご試食ください」
「ほう、それはまた新しいものか。大したものだな、後ほどいただこう」
「私は先ほどいただきましたわ。生キャラメルは口の中でトロリと蕩けるようでした。あのレシピは公開なさらないの?」
お嬢様が催促するが、ここはひとつ、上得意様になってもらうべく営業せねば。
「ご希望に添えず大変申し訳ございません。ですが、貴族の皆様には貴族様専用の店を改めて出店する予定です。そちらでご注文いただきましたならば、指定の期日にご自宅にお届けできるように手配致します。準備まで今しばらくお待ち下さいませ」
「まぁ、お父様。お店ができたら一番に注文して下さいませ。誰かの後なんて我慢できませんから」
「クローゼの為ならそれくらいわけないぞ。君、一番に報告に来るようにな。頼むよ」
お? 娘に弱いんだな。ずいぶん態度が軟化したぞ。それなら崩しやすい。
「承知致しました。クロランダ領主様には、出店の為にも是非お口添えいただきたいのですが。新商品が出来ました際はお嬢様に『常に一番に』納品が可能かと。領主様の公認となれば、周りの貴族様方にもたくさんのご賛同をいただけると信じております」
「まあ、お父様、一番ですって。素敵だわ」
「ふむ、わかった。力になれることがあるならいつでも来なさい」
「お父様ったら優しいのね。私も期待しているわ。よろしくね」
クローゼのおねだりに機嫌を良くしたクロランダがニヤニヤしながら去っていった。ふぅ……疲れた。
緊張をほぐすべく、少し窓際に歩いて行くとセレス様がようやく合流してくれた。
全く肝心な時にいないなんて、がっかりよ!
「遅いですっ。クロランダ領主とクローゼ嬢の攻撃かわすの大変でしたよっ」
「それはそれは。私も色々な方からの貴女への質問を処理するのが大変でした」
よくみるとセレス様も心なしかグッタリしている様子。
なんでも、どこのお嬢さんか、婚約はいつか、果てはお菓子の話しまで質問が絶え間なかったようだ。リアン様と分担して応対しながら隙をみて逃げてきたらしい。
……お二人とも頑張ってくれてたのね。ちょっとキレてごめんなさい。
私からもクロランダとの話しで、貴族専用の店を出店する予定になってしまったと報告する。途端に親指を眉間に当ててグリグリしながらため息をつかれた。
「何故そうなった?」
「成り行きです」
「そうか、成り行きか。ほう……君は成り行きで一大事業展開する気か!」
「クロランダ領主には言ってしまったし、ご機嫌とるためにはしょうがなかったんです。協力してください」
「全く……君は無鉄砲なのか大胆なのか。本当にしょうがない。街より貴族が先だな。明日から出店計画を練るぞ」
「ありがとうございます!」
私がキラキラした笑顔を向けてあげたのに、なんでウンザリしたような顔をするのかしら?
新しいこと考えるの、楽しいよね!




