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甘いだけじゃないシリーズ

甘いだけより苦みもある方が味わい深いものですの【4】

作者: 陽向楽
掲載日:2016/11/02

甘いだけじゃないシリーズ4


公式で使われる豪華絢爛な謁見の間より落ち着いた、私的に使われる王宮の一室。



「さて、此度の騒動を説明する、とのことだったかな?セシリアーナ嬢?」


「ええ、お忙しい国王陛下、公爵閣下のお時間を頂戴できること、心より感謝いたしますわ。国を支える臣下の一端として、さらに努めていく所存です」


予定されていた通り、国王陛下の護衛騎士の一人のみを残し全ての騎士が部屋の外へ出て、国王陛下、筆頭公爵閣下、私、ランバート侯爵の話が始まった。


公式の場では長い挨拶が必要だけれど、非公式でなら無礼にならない程度に簡略化する方が喜ばれるという国王陛下と筆頭公爵閣下に限っての注意点。


長々と挨拶をしているランバート侯爵の前で、筆頭公爵閣下が顔を背けて溜め息を吐いているのがその証拠だろう。

頭を下げたまま喋るランバート侯爵は私が簡略化した挨拶を失点として、自分の貴族としての礼儀と対比させたいのだ。少しでも有利にことが運ぶように。



「時間に限りがあるのでランバート侯爵の挨拶はその辺で結構。セシリアーナ嬢、私も国王陛下も君から届けられた騒動の状況や顛末は全て読んだ。後程ランバート侯爵にも聞くつもりだが、他の貴族から聞き取った話と内容に相違ない、という結果が出ている。君がランバート侯爵家に求める賠償とはなんだ?」


「マクストウェルザー公爵!この小娘の言い分を私の話を聞く前に認めるとおっしゃるのか!?」


頭を下げ続けるランバート侯爵をバッサリと言い捨て、私の要求を聞く筆頭公爵閣下にランバート侯爵は顔を真っ赤にしながら叫んだ。

ある程度は調べられていると思い端的に説明をするつもりで来たものの、国王陛下と筆頭公爵閣下がすぐに望みを聞いてくださるほど詳細に確認がとられているとは思わなかった。

それ以上にランバート侯爵の叫びに驚いたけれど。

国王陛下の腹心だという自負からか、私を小娘呼ばわりで最高位貴族の筆頭公爵閣下の私への問いを遮るとは。

国王陛下も驚いたように目を大きく見開き、それから力なく首を振った。


「私が聞いたのはセシリアーナ嬢であり、貴方ではない。ナクタリアージュ侯爵家直系の令嬢を小娘とは、ランバート侯爵の考え方が知れますな」


やれやれ、と言うように筆頭公爵閣下は国王陛下へ視線を向けた。国王陛下も一度頷き、何やら覚悟を決められたようだった。


散々格下として扱ってきたナクタリアージュ侯爵家を、その娘である私を、国王陛下の前でも今さら同格扱いはできないだろう。

そう考えて、挑発的になる寸前の内容を手紙にした。怒りで理性を無くしていれば、また失態を晒してくれるだろうと思ったから。

理性的な相手には逆手に取られてしまう手段だけれど、格式や歴史ある侯爵家、という誇りのあるランバート侯爵はそこに気付かなかったようで、想像よりも遥かにハッキリとナクタリアージュ侯爵家に対する見下した対応をしてくれた。


「改めて問おう。セシリアーナ・エル・ナクタリアージュ。そなたがランバート侯爵家に望む賠償はなんだ?」



国王陛下の問いに、社交用の笑顔で一礼する。

頭を下げた数秒で深呼吸。


さあ、正念場だ。まずはこの騒動の賠償で私の望む全ての要求に許可を得ること。



「はい、国王陛下。わたくしが費やしたランバート侯爵家第五子息との婚約期間の賠償金を要求いたしますわ。第五子息の起こした悪評、ランバート侯爵家のわたくしやナクタリアージュ侯爵家への杜撰な対応を考慮して相応と判断していただければ、過去にあった婚約破棄の賠償金額に準じたものでかまいません」


「そして、我がナクタリアージュ侯爵家に関するもの全てにランバート侯爵家の関与の禁止を望みます。民を苦しめるつもりはありませんので、ある程度の流通は現状を維持しますがランバート侯爵家に直接卸していた我が領の物は全て契約を破棄させていただきます」


「最後に、ナクタリアージュ侯爵家にもう一度被害があった場合、ランバート侯爵家に対し武力・流通遮断による排除の許可を国王陛下から頂きたく思います」



これで目標の半分、というところを国王陛下の前で願うことができた。

ここまでは報告した内容で十分に叶えられる内容だと判断している。



「ふむ…賠償金については将来性の高い侯爵家令嬢であることも考えれば過去最高額となる可能性もありますな」


「ランバート侯爵家への要求を王として認めよう」


「なっ!?国王陛下までこの小娘の要求を聞くとおっしゃるのですか?仮に賠償金を払うとしても、我がランバート侯爵家への流通制限や陛下の許可を得た排除権はどう考えても異常ですぞ!」



筆頭公爵閣下と国王陛下の認可が出るとランバート侯爵が顔色を変えて抗議した。

認める、と宣言された内容に異議を示すのは側近中の側近や国王陛下に連なる王家、筆頭公爵閣下や正妃殿下のような立場でなければ無礼だけれど、ランバート侯爵はそれが許される地位だったろうか。


「貴方と貴方の息子がセシリアーナ嬢にした対応を考えれば相等のことだ、と陛下が判断なされたのだ。加害者とされる貴方が口を挟めるものと思うな」


「加害者とは言いがかりのようなものですぞ!不運にもその小娘よりも質の悪い女にひっかかった息子は愚かですが、我がランバート侯爵家はナクタリアージュの家に相応の対応をした!」



段々と外面が剥がれるランバート侯爵は筆頭公爵閣下の言葉に応戦し出した。そんなにナクタリアージュ侯爵家が憎かったのか、と逆に感心してしまう。



「双方の話を聞くのが公平であろう、と思いそなたらを呼んだが、己の見る目の無さに今更ながら落胆している」


喚くランバート侯爵も冷笑を浮かべる筆頭公爵閣下も、もちろん私も、国王陛下の声に姿勢を正す。

どこか憂いを含む国王陛下は深い溜め息を吐き出し、切り出された。



「ランバート侯爵、そなたを腹心として扱ってきたのは王たる私だ。新たに爵位を上げたナクタリアージュ侯爵家が我が国で発展し、国を導く存在になるように、他国に掠め取られないように、とそなたの息子との婚約を薦めた。しかし、ナクタリアージュ侯爵家を格下と扱い、唯一の直系のセシリアーナ嬢を軽んじる言動を許した覚えはない」


ナクタリアージュ侯爵家に首輪と鎖を着けるこの婚約は国王陛下が思い描いた構図だと思っていたが、ランバート侯爵の先走りと行き過ぎだった可能性が出てきた。

国王陛下は施政者として、無益であっても無害な者を生かす方だ。有害な貴族は切り捨てて、有能な平民に地位や名誉を与えることもあった。

ナクタリアージュ侯爵家を有能だが有害と判断した、と思っていたけれど、これなら目的を達する事ができるかもしれない。



「陛下!御身を守るために行ったことでございます!ナクタリアージュの小娘は母親と同じく、男を立てることをせず国を混乱に導くでしょう!あの女はなるべくして命を散らしたのです!有能な高位貴族は男がしっかりとしていてこそ!国も同じことですぞ!」



打算的に考えていた頭が真っ赤に染め上がっていくように感じた。


あの母を、私を慈しみ育てた母を、父が偲びながらも忘れ形見である私や侯爵家を守ると誓いを立てる母を。


殺されて当然だったと?



「黙れ!亡きナクタリアージュ侯爵夫人へそのような言い様は王として許さぬ!ランバート侯爵、そなたの思考は国を繁栄させる女性に対しあまりにも異常なものだ!近日中に爵位を嫡男に譲り、この国の中枢から立ち去れ!もはや腹心などとは呼べぬ!」



「ランバート侯爵、夫人や淑女を蔑む貴方は我が祖母をも認めないのでしょうな。貴方が貴族としていれる最後の栄華の時間をしっかりとその記憶に刻みつけるといい。…連れ出せ!」



怒りで叫ばないように口を引き締めているうちに、ランバート侯爵は部屋の外で待機していた騎士に連れ出された。


それでも手を握り締め自分の爪の痛みで怒りを抑えていなければ、ランバート侯爵を罵り失態を晒したかもしれない。




奇妙な沈黙の後、国王陛下と筆頭公爵のは視線を合わせて頷かれたような気がした。




「すまなかった、セシリアーナ嬢。あの者があそこまで女性軽視でナクタリアージュ侯爵家を乗っ取ろうとしていたと知らなかった。ランバート侯爵家との婚約を薦めた私の落ち度だ」


「国王陛下…」


戦争の出陣や国への功労者へ褒美を与えるときしか公で立ち上がらない、とされる国王陛下が立ち上がって深々と頭を下げられた。


あまりのことに呆然としていると苦笑混じりの筆頭公爵閣下が私の前で膝を着いて、国王陛下と同じように頭を下げられる。


「私も申し訳なかった。ランバート侯爵家とナクタリアージュ侯爵家を繋げることは良くない、と祖母が言っていたのに、強大になっていくナクタリアージュ侯爵家を国に留める為には必要なことだと軽く考えていた」


冷静に、と考えるものの、想定していた状況と異なる現状に上手く言葉が紡げない。


「国王陛下も筆頭公爵閣下もどうかお顔を上げてくださいませ!あの、もうひとつ、わたくしが条件を満たせたとき、果たしていただきたいお約束がございますの!」


悲鳴に近い私の声に素早く姿勢を戻したお二方は柔らかく、しかし苦しそうな表情になっていた。







「罵倒されても甘んじて受ける覚悟はしていたのだがな…」


騒動の当事者達が去った部屋で国王と筆頭公爵は苦いものを吐き出すように、深い溜め息をついた。


「おそらく、セシリアーナ嬢はナクタリアージュ侯爵夫人の才や隠されていたことも知っているでしょう。祖母があれほど手塩にかけて育てたのです。知らせていない筈がない」


「あの歳でランバート侯爵を退ける力を持っているのだ。仮に知らないとしても、数年も経たずに知るだろう。先の約束が成され、ナクタリアージュ侯爵家の次代は彼女が支えるのだろうな」





歴史上には残らないはずの出来事だったのだろう。隠し扉の奥にあった当時の国王の日記のようなものに、才気溢れる淑女が老獪な侯爵をやり込め、次代の先端であると認識した、との記載が見つかった。

名前は記されておらず、また私的な話も王宮の記録には残らないため、才気溢れる淑女が後の女侯爵、セシリアーナ・エル・ナクタリアージュであったかは想像の域を出ない。



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