プロローグ
この世界で生まれてくるものにはみな神の祝福が与えられまた、稀に聖痕を身体の一部に宿し生まれてくる者もいた。
聖痕を宿しものは、みな特別な力を授かり産まれてくるのだ。
そんな世界の南東に位置する上弦島に大英雄が建国したメリィケン王国で生まれ育ち、聖痕を″宿していない″のに特別な目で見られる者がいた
「みなのお陰で息子のガトラスももう11歳になり、また今年も宴を開くことができて嬉しく思う!みな今日は存分に楽しんでくれ」
王の祝辞が終わると城の大広間には呼び寄せた、音楽家の演奏が流れはめ各々がこのパーティを楽しみはじめた。
しかし、そんな中広間の隅で一人浮かない顔をした少年がいた。
「はぁ……早く終わらねーかなぁ」
「ガト兄そんなこと言ったら王様が可哀想だよー」
ゴツン
「痛っ」
「リナルドの癖に生意気だぞっ」
俺の名はガトラスでこの生意気にも意見したのがリナルド、俺の3つ下のだ。
正確には弟じゃないんだが親父のお陰で俺と一緒に学ぶようになりすぐに仲良くなった。
まだ8歳の癖にもう俺よりも、うんと賢く神童なんて呼ばれてやがる自慢の弟だ。
でも、何で寂しくやってたかって?それは…
「それにここにいる奴らの大半は、俺の事を無能王子だと見下してる連中ばかりだしな」
「そんな事……」
リナルドは言葉に詰まり何かを言いかけたが、呑み込み、悲しそうな顔をして俯いた。
「だってそうだろ?大英雄の血を引く者は300年もみな聖痕を宿し産まれてきたのに、俺は宿せなかった」
話を遮るようにリナルドが
「でも少なくとも僕はガト兄の事が大好きだよ!それにおめでとう」
「ありがと!大体俺は、お前や親父達が祝ってくれるだけで十分嬉しいよ」
いつの間にか今までの暗い雰囲気が吹き飛びハニカミながらリナルドの頭を撫でていた。
「そういえば、新しい魔法の先生が来るらしいぞ」
「え?」
この世界では、みな魔力をもって産まれてくるし魔法はそんなに珍しいものじゃないが、扱うには才能によるところが大きいらしい
そして俺はこっちの才能もなかったのだ。
だが、魔法より組手や剣の方が俺には合ってる気がするしコッチは気にしていないんだ。
「何でもお前の為にわざわざ親父が連れてきたらしいし良かったな」
「ティヒヒヒ…僕さっそくお礼を伝えてくるよ!」
「おう!」
テトテト走っていく弟を見送り…あ、こけた…ホント運動音痴とあの笑い方さえ治ればなぁ…はぁ…小さくため息をついた。
………
……
…
そして3年の月日が経ったある日
「おーーい!リナルド城下町に行くぞー!早くしないと置いてくぞー!!」
既に初級魔法は会得し終わりより高度な中級魔法の習得に夢中なアイツに向けて魔法図書館の外から大きな声で呼んだ。
「ガト兄!ちょっと待ってくれよー!すぐ、すぐ行くからぁ!」
テトテトと足が遅いなりに、急いで駆け寄ってくる。
あ、こけた…そして、はぁはぁと、息をきらせながらようやくたどり着いてきた。
「それにしても本当にお前は勉強熱心だよな?でも本当の所は、あのモーティシア先生ともっと一緒に居たいからだっりしてなー」
よっぽど急いできたのか下を向き、ゆっくり肩で呼吸を整えてから
「ティヒヒヒ、そんな事ないよ!僕はガト兄の事が大好きだし!」
「おい!それはそれで何かまずいだろ」
そうツッコミを入れると、目を合わせ二人で大笑いしくだらない話をしながら俺達は城下町へ遊びにでかけた。
この頃からだ… 俺が鍛錬もせず、勉強もせず、かといって何か成す訳でもなく、何か頑張っても人並み以上には出来ても全てが中の上止まり、そんな自分に嫌気がさし歩みを止めたのは……
………
……
…
更に7年の月日が経ったある日
『ドーーーーーーーーーーーーーーーーン』
「ふぁ〜〜ぁ、よく寝たなぁ…もう昼か…差し込む日差しが二日酔いの身体に染みるぜぇ」
ふと隣の女に目をやると………
居なかった…21にもなったが相変わらず恋人もいない
まぁそりゃそうか!こんな無能な王子じゃどこの姫さんも相手にしてくれないよな……親父すまん!孫は諦めてくれ!!
寝癖を直し鏡を見ながらなぜモテナイのかを朝っぱらから考える
身長そこそこ、髪は茶髪のウルフヘアーで顔立ちは……これもそこそこ……だよな?
(まぁいっか!それより今日は何しよっかな!)
鼻歌を歌いながらルンルン気分で扉を開けるといつも居る近衛兵達がみな昏睡し倒れていた。
バシャン
慌てて扉を閉め部屋に戻り一度大きく深呼吸をし冷静になり
もう一度扉を開け確認する。
バシャン
すぐさま締め直し
「 いやいやいやいやいやいやいや、ないから本当にこういうのないから!」
俺は盛大にパニくり声をあげた
そうこうしていると、トントンと優しくノックする音が聞こえ、余りにこの状況に似つかわしくないくらい自然なノックについ、反応してしまい諦めたように剣を抜き震えた手を震えた手で抑え構えながら返事をする。
「誰だ?」
「良かったぁー!ガト兄まだここにいたんだね」
久しぶりに声を聞いたが、聞き間違うはずがない!リナルドだ!扉越しだが安心し、抜いた剣を鞘に収め一気に力が抜け落ちた。
「驚かすなよ…中に入ってまずは何があったか教えてくれ」
「分かりました」
『キュルーーーーッ バシャン』
扉を軋ませながらゆっくりと開いた先には、なんと幼い頃から親父に仕えている忠臣のヘルメス将軍をはじめ、重要な役職の家臣達をゾロゾロと引き連れリナルドが部屋に入ってきた 。
俺は状況が飲み込めずにいると、リナルドが一言
「ティヒヒヒ、あとはガト兄だけだよ」
俺は頭が真っ白になり、リナルドは何か続けて言っていたが全く耳にはいってこなかった。
ひたすら考えた。何故だ?何故だ?何故だ?だが、その答えより先に1つの不安が頭をよぎる、それは親父のことだ。
親父は俺が無能であるにも関わらず俺を必死に守ってくれた。
母は俺を産んですぐに亡くなり、周りは再婚かせめて非公式に側室でもと頼んだらしいが親父は、もし子供が出来て聖痕があったらガトラスが可哀想だろ!
たったそれだけのことで「分かった」とはいわなかったらしい
それなのに俺は…
だからこそ、どうしても聞かずにはいられなかった。
「親父はどうした?」
「ティヒヒヒ、今頃どこかで懐かしい再会でもしてるんじゃないかな?」
「リナルド貴様ぁぁぁぁ!!」
一気に頭まで血が上り、身体に力が戻り、剣を抜き、力の限り踏み込んで、今できる最高の一撃をリナルドに向け叩きこんだ
『カキィィン』
剣と剣が強くぶつかり合い火花が激しく散った!そこには遮るように将軍の姿があったのだ…
「将軍!!何故だ!!?」
『カキィンッカキィンッカキィィィン』
何度も激しく打ち合う音が響くだけで、
問いかけには何も答えてはくれなかった。
そして修練をサボって遊び回ってばかりの俺に勝てるはずもなく、虚しくも剣を弾き飛ばされ落ち鈍く重い鉄の音だけが部屋に響いた。
「ティヒヒヒ、じゃぁ最後は僕が」
ゆっくりとリナルドが将軍の剣を借り、近づいくる…
俺は死への恐怖よりもただ、ただ、後悔した
もし、もし、7年前のあの日に行けるのなら昔の自分をぶん殴ってでも修練させただろう
だか、もしをいっても今は変わらない、だからこそ、ただ、ただ自分の無能振りが悔しかった。
「クソッ…」
「ティヒヒ、さよならガト兄」
そしてリナルドの剣が振り下ろされたその時
俺は、ただ、ただ、強請った、そう、心の底から強い力を、今を変えれるくらい強い力を…そして、その瞬間余りにも眩い光がさし、目をつぶりゆっくりと意識が遠ざかる。
「………てね」
薄れゆく意識の中でら最後に微かに何かが聞こえたきがした。