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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第2章:三竦みの妖魔
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第58話「三竦み-14」

「『闇の刃』と言うと……昨日の連中か」

「あー、あのあんまり美味しくなかった連中」

 私の言葉に、二人は相手の顔を思い浮かべる事は出来ても、どうしてそんな事をするのかという点については納得がいっていないようだった。

 と言うわけで、彼らについても、どうして潰すのかについても、しっかりと説明をする事にしよう。


「ええそうよ。昨日襲ってきた連中。連中は『闇の刃』と言う名前の流派の魔法使いで、所属はマダレム・エーネミ。いえ、所属と言うよりはマダレム・エーネミを裏側から牛耳っていると言った方が正しいかしらね」

「牛耳っている?」

「その話はとりあえず置いておくわ。先に言った方が良い話もあるから」

「ふむ、分かった」

 よし、とりあえずシェルナーシュは食いついてきた。

 が、まずは出すべき情報を出してしまうとしよう。

 その方が確実に釣れる。 


「で、彼ら『闇の刃』が使う魔法だけど、独自に発見した魔法だけでなく、他の魔法使いの流派から盗み取ったり、共同開発したりしたものも含めて、かなりの種類の魔法を使うらしいわ。で、その中でも特に有名なのが暗視(ナイトサイト)灯り喰い(グロウイーター)の魔法ね。聞くところによれば、『闇の刃』では暗視の魔法が使えて、初めて一人前と認められるらしいわ」

「ほう……」

 うん、もうシェルナーシュは大丈夫だ。

 さっきの魔法について語っていた時のように、何かのスイッチが入っている。


「それでその暗視の魔法だけど……これは個人的な意見になるけど、私は暗視の魔法は非常に危険な物だと考えているわ」

「どういう事?」

 よし、トーコも疑問を持つ形だけど、食い付いて来た。


「暗視の魔法は夜の闇の中でも、昼の光の中と同じように活動できるようにする魔法よ。だから当然、暗視の魔法を使う者たちは夜の闇の中でも別に灯りを用意する必要が無い」

「ふむふむ?」

「考えてみなさい。夜の闇の中で灯りをつけているヒトと灯りをつけていないヒト。どちらの方が見つけやすいかを。そして襲うにあたって、どちらの方が簡単に仕留められるかを」

「あー、そう言う事かぁ……確かに拙いね」

 うん、トーコもこれで完全に乗ってきた。

 これなら、後は私がきちんと説明すれば大丈夫だろう。


「そう、ヒトの使う灯りは、夜の闇の中で獣を遠ざけると同時に、私たち妖魔にとっては非常に都合のいい目印になってくれるもの。そして、ヒトを襲う時、真っ先に灯りを潰す事が出来れば、後はマトモに視界が利かないヒトだけが残り……容易く潰す事が出来る様になる」

「だが、ヒトが暗視の魔法を使っていれば、その優位性は覆される。いや、それどころか灯りが無くなった時点で油断した奴は返り討ちに遭う……か」

「そう言えば、昨日のアイツ等はソフィアんとシエルんにあっさりと殺されてたね」

 さて、それで何故暗視の魔法が危険かだが……簡単に言ってしまえば夜の闇が私たちの独壇場でなくなってしまうからだ。

 そして、自分の独壇場だと思っていたのに、実際は対等な立場だった。

 そうなった時に、油断した側が受ける被害は昨日の『闇の刃』の連中が証明してくれていると言える。


「だがそれで何故『闇の刃』を潰す事に繋がる?奴らが持っていると小生たちが分かっているのなら、何の問題も無いだろう?」

「そうね。問題は無かったわ。暗視の魔法が私たちの能力のように、他のヒトが使えない力ならね」

「?」

 だが本当に拙いのは此処からだ。


「言ったでしょう。『闇の刃』で一人前だと認められるのは暗視の魔法が使えるようになってから。つまり、きちんと修練を積めば、他のヒトにも使えると言う事であり、時が経てば経つほど、より多くのヒトが暗視の魔法を使えるようになっていくと言う事でもあるのよ」

「……」

「おまけに暗視の魔法の使い方そのものはただの知識でしかないのに、『闇の刃』は様々な方面から怨みを買っている。正直、何時『闇の刃』の外に漏れるかなんて分かったものじゃないわ」

「うわぁ……」

 しかもその有用性は言わずもがなの次元。

 妖魔の事を抜きにしても、使えるヒトを増やさない手はない。


「これで分かったでしょう。『闇の刃』を潰したいと言った理由が」

「先々の事を考えてという事か」

「確かにこのまま放置しておくと拙そうだねー」

 シェルナーシュとトーコは既に『闇の刃』は潰さなければならないと考えている顔をしている。

 うん、どうやら無事に理解を得る事が出来たらしい。


「そう言う事よ。まあ、潰すついでに二人のやりたい事もやれるしね」

 が、実を言えば二人にはちょっと謝っておくべき事が有る。

 実を言えば、『闇の刃』を潰したところで、暗視の魔法そのものがこの世から無くなるわけでは無いのだ。

 さっきも言ったように暗視の魔法そのものはただの知識だ。

 知識である以上は、仮にその知識が完全に失われても、同じような知識が再発見される可能性は十分にある。

 暗視の魔法程の有用性を有するものなら、尚更だろう。

 が、それでも『闇の刃』は潰しておくべきだろう。


「それに、暗視の魔法の事が無くても『闇の刃』に対しては何かしらの手を打っておいた方がいいと思うわよ」

「ん?」

「あー……」

 私は窓の外へと指を向ける。

 その先に居るのは、私たちの居るこの部屋の様子を窺っている二人組の男。


「どうにもまだ連中は私とシェルナーシュの魔法を狙っているみたいだから」

 つまりは『闇の刃』の仲間と思しきヒトだった。

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