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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第2章:三竦みの妖魔
42/322

第42話「マダレム・シーヤ-3」

「すんませんでしたー!」

 男たちの反応は劇的な物だった。


「俺たち調子に乗ってましたー!」

「酒で頭いってましたー!」

 私に声をかけて来ていた男たちは一人残らず顔を青くすると、その場で土下座しつつ弁明の叫び声を上げる。


「酔い覚まして来まっす!」

「ご迷惑をおかけして、本当にすんませんでしたー!!」

「あらあら」

 そして、私が何かを言う前に、全員揃って店の外へと全力で駆け出していく。

 うんまあ、怪我人一人出さずに終わったわけだし、別に追ったり問い詰めたりはしなくていいか。


「なるほど。あの武器は飾りじゃないって事か」

「まあね」

 と言うわけで、私は酒樽を壊す際に零れてしまうワインの中身を出来る限り集める為に用意しておいた盆を両手で持つと、私のハルバードへと目を向けているマスターが居るカウンターへと移動する。


「ゴクゴクゴクッ、プハー」

「で、酒にも桁違いに強いと。そりゃあ女の身でも傭兵をやっていられるわけだ」

「ははははは」

 で、盆の中身を全て飲み干すと、私は改めてカウンター席に着く。

 なお、残念な事に酒樽の中身のうち、盆に入ったのは全体の三分の一程である。

 うん、勿体無い。

 見た目のインパクトを持たせるために中身入りのまま酒樽を押し潰したが、本当に勿体無いし、色々な方に対して申し訳ない気持ちになる。


「で、さっきの押し潰しはどうやったんだ?力任せにやって潰せるほど酒樽ってのは柔じゃないぞ?」

「秘密よ。秘密。飯のタネをバラす程私の口は軽くないわ」

「なるほど。その辺りもきちんと弁えている。と」

 マスターの質問に対してはそう答えておく。

 ちなみに酒樽を押し潰した方法だが、力を加えるべき点を見極めた後については、純粋な腕力によるものである。

 なので、これを教えると私が妖魔だとばれる事になるため、教えたくても教えられないのである。


「さてそれじゃあ……」

「ああそう言えば名乗ってなかったわね。私の名前はソフィアよ」

「ソフィア……ね」

 と、ここで私はマスターに改めて自分の名前を名乗る。

 うん、考えてみれば、ずっと名乗るのを忘れていた。


「それじゃあソフィア。改めて質問だ。この街に来た理由は?」

「傭兵としての仕事を求めてよ。ヒト相手でも妖魔相手でも構わないし、討伐でも護衛でも見張り番でも構わないわ。ただまあ、その日の食費と宿代を稼げるのなら、女給の真似事ぐらいならやっても構わないけどね。ああ、娼婦の真似事はお断りよ」

「なるほどね」

「ただ、そうやって仕事をする前に幾つか確かめておきたい事が有るのよね」

「と」

 さて、名前も名乗ったところで、私はマスターにどういう目的を持ってマダレム・シーヤにやって来たかを語る。

 が、次の話が切り出される前に、私はマスターに銀貨を一枚渡す。


「何の金だ?」

「教えて欲しい事が有るのよ。だからその代金」

「教えて欲しい事ねぇ。こんな街の片隅にある様な酒場の店主じゃ、大した情報は持っていないぞ」

「その大したことが無い情報が欲しいのよ。情報の質が良くないと思うなら、量で補ってくれればいいわ」

「なるほどね」

 マスターの私を品定めするような視線が鋭さを増す。

 でも実際問題として、傭兵として仕事をする前に確認しておくべき事が有るのだ。


「何を聞きたい?」

「この辺りの情勢……特にマダレム・エーネミとマダレム・セントールについて」

 それはこの辺りの現状について。

 特にマダレム・エーネミとマダレム・セントールと言う、他の都市国家や村に対して高圧的だと聞いている二つの都市国家についてはよく知っておかなければならない。

 何時何処でその二つの都市国家の動向に、私の活動が影響されるか分かった物ではないからだ。


「聞いてどうする?」

「聞いてから考えるわ。それが飯のタネになりそうならさせてもらうし、飯のタネにはならなくても、知っておいて損になる事はないもの」

「ふぅ……お前さん、傭兵じゃなくて商人辺りになった方がいいんじゃないか?」

「元手が無いから無理よ。それに商売よりも戦いの方が楽しいだろうし」

「そうかい」

 と言うわけで、私はマスターの言葉を流しつつ、マスターがカウンターの上に複数枚のコインを並べていくのを見る。

 ふむ。どうやらコインは三種類あるらしい。

 どれも見た事が無い柄だ。


「それでマダレム・エーネミとマダレム・セントールについてだったな」

「ええそうよ」

「それじゃあ、まずは位置からだ。このコインのある場所がマダレム・シーヤだという事にしよう」

 そう言うと、マスターはカウンターの上に置いてあるコインの一枚を指さす。

 もしかしなくても、マスターが今指さしている銀貨はマダレム・シーヤで作っているコインなのかもしれない。


「で、俺が居る側がアムプルの山々だ」

「なるほど。前提は分かったわ」

 で、マスターの居る側を北にすると。

 うん、やっぱりこのお店は当たりだと思う。

 ちゃんと私が何も知らない事を前提に話をしてくれている。


「それでお前さんが言った二つの街だが……マダレム・エーネミはシーヤの北に。マダレム・セントールはシーヤの東南東に有るな。ああ、残りのコインは他の村や街だ」

「ああなるほど。これはマダレム・シーヤが狙われる訳ね」

 そしてマスターが新たに二つのコインを指さし……私はマダレム・シーヤが狙われる理由を理解した。

 マダレム・エーネミとマダレム・セントールを表した二つのコイン。

 その二つのコインを繋げた直線の直ぐ近くにはマダレム・シーヤの位置を表したコインが有ったのだから。

03/19誤字訂正

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