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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第1章:妖魔ソフィア
34/322

第34話「『冬峠祭り』-4」

「さて……と」

 ネリーを食べた私は妖魔本来の衣服を身に着け、ハルバードと荷物を持つと、『サーチアの宿』に火を放ってから宿の外に出る。

 久しぶりに袖を通した衣装だが……うん、いつの間にかフード部分に髪止めと同じ黄金色の蛇の環が付けられていて、しかも環からはネリーの気配に似た力を感じる。

 うん、やっぱりこの環は肌身離さず持っているべき代物であるらしい。


「何か有ったのかしら?」

 激しく燃え上がり始める宿の外で、朝日を浴びながら待っていたのは?


「ああ、多少面倒な事になっている」

「へぇ、そうなの」

 ギルタブリルのサブカだ。

 ただ、こちらも最後に別れた時のままの姿では無く、衛視や傭兵が使っていたと思しき剣が四本、鞘に納められた状態で腰に提げられている。

 それなりに使った気配がする辺り、どうやら今回の襲撃中に奪い取り、使っていたのだろう。


「何処へ行く気だ?」

「何処へって……目的を果たした以上、もう私がマダレム・ダーイに留まる理由なんてないと思うけど?」

 さて、サブカ曰く面倒事が起きているらしいが……正直、ネリーを無事に食べる事が出来た以上、私がマダレム・ダーイに留まる理由も意味もない。

 むしろ、事が終わってなおマダレム・ダーイに留まっていても、私にとっては不利益しかない。


「いいや、今起きている面倒事を解決すると言う理由はあるはずだ」

 と言うわけで、私としてはとっとと新しい都市国家を目指して移動を始めたかったのだが……どうやら、サブカには私のそんな行動を許す気はないらしい。

 しょうがない、話だけでも聞いてみるか。

 それでどうでもいい内容だったら、無視して逃げよう。


「分かったわよ。で、何が起きているの?」

「生き残りのヒトが魔法と廃材で南門を簡易の砦化、囮として立て籠もっている」

「はぁ?そんなの無視……出来ないか」

「ああ、普通の妖魔が大量に突っ込んで返り討ちに遭ったおかげで今は睨み合いになっているが、それでも砦の連中を無視して南に逃げたヒトを追うという考えは持てないらしい」

「これだから本能に抗えない連中は……」

 サブカの話に私は少々の痛みを頭に覚える。

 周囲に転がっている死体の大半が私の目論み通り、身体の一部だけが欠けた死体ばかりだったので、一通り食べ終わった後は南に行くと良いと言う私の言葉にも従ってくれていると思っていたが……そこまで上手くはいかなかったらしい。

 ああいや、これは南門でヒトが立て籠もる事を予想できなかった私のミスであり、南門を魔法で簡易の砦にすると言う発想をあの場で思いついたそのヒトの手腕を褒めるべきところか。

 いずれにしてもこれは確かに良くない。


「どうせお前の事だ。南に向かわせる連中には全滅してもらう予定だったんだろう。お前が何処かの都市に着くまでの時間を稼ぐために」

「ああ、やっぱりサブカは気付いていたのね。ええ、その通りよ」

 当初の私の予定では、私以外の妖魔にはこのまま南下してもらい、別の都市国家を襲ってもらう予定だった。

 私がマダレム・ダーイとは関係のない別の都市国家に潜伏するまでの時間を稼ぐためにも。

 その襲撃の結果で都市国家側が滅びようが、妖魔の側が皆殺しにされようが私には関係なかった。

 私はもう、その妖魔の集団には居ないのだから。


「でも、その点についてはどうでもいいわ」

「どうでもいい……ね」

 ただまあ、妖魔の集団の末路についてはこの際どうでもよかった。

 サブカは不服そうだったが、私にとってはどうでもよかった。

 問題はこの状況で組織だって抵抗して見せるヒトが居るという点だ。


「問題は他の妖魔たちとは違う理由でもって、私はその砦に立てこもっているヒトを放置するわけにはいかないという点よ」

「ふむ?」

 そう、彼らを放置しておくわけには行かない。

 何故ならば……


「そのヒトはどういう順序で今回の襲撃が行われているかを正確に知っている可能性が高いわ。それが他のヒトに伝わってしまえば、もう今回と同じ手は使えなくなる」

「それは確かに拙いな」

「加えて、妖魔が持久戦に向かないと言う事実も知られかねない」

「まあ、ヒトが居ないこの場じゃあ、三日もすれば大抵の妖魔は餓死するだろうな」

「で、そんな情報の数々は、やがて完全武装の状態でやってくる他の都市国家のヒトに渡されることになる」

「そうなれば、今後は何かと厳しくなる……と」

「そう言う事よ」

 彼らを放置した場合、今後今回と同じような手法は用いたくても用いれないようになる可能性が高いからだ。

 それどころか、私がヒトの集団に入り込む事が出来なくなる可能性だってある。

 具体的には、ヒトの姿によく似た妖魔が居るという情報と、どの程度で妖魔が餓死をするのかという情報が漏れた場合、見知らぬ旅人は一定期間常時監視して、妖魔かどうかを見極めるなんて言う方策が取られかねない。

 うん、そうなったら余裕で死ねる。


「しょうがない」

 勿論、これは最悪の場合を予想したものだ。

 私が妖魔であることがバレている可能性は低いし、妖魔たちが餓死する前にヒトが押し寄せてくる可能性もある。


「サブカ、案内して」

「分かった」

 が、その最悪を考えた場合、絶対に放置しておくわけには行かない問題だった。

やっぱり想定外が起きたよ

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― 新着の感想 ―
[一言] えっちな気持ちは抜きにしても、嬲り続けるシーン見てみたかった!折れ続けて目を背けるところをまた無理に引き戻したり!(瞳孔が開ききった目)
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