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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第6章:蛇に足を書けども竜にはならず
321/322

第321話「世界の秘密-6」

「き、貴様!いきなり何をするか!」

「アンタが私の事を理解していれば、絶対に出してこないような条件を出したからでしょうが」

 涙目になっている『秘匿』を見下しつつ、私は淡々と口を開く。


「と言うか、今のハーブティーが避けられなかった辺りからして、アンタ、碌な戦闘経験もないでしょ」

「な、何故それを!?」

「ついでに腹芸の心得も無いみたいね」

「は、腹芸?」

「と言うか根本的に経験不足ね。私、そんなに非一般的な言葉は使っていないわよ」

 内心で呆れつつも、その事実を隠して私は『秘匿』の観察をする。

 『秘匿』は沸騰したハーブティーを頭から被ったが、火傷などはしていない。

 どうやら、戦闘経験はなくとも、生来の強さのおかげであの程度では怪我などはしないらしい。


「こ、この……私の事を馬鹿にするのも大概に……」

 『秘匿』の発する魔力が強くなっていく。

 まあ、戦いになれば私に勝ち目はないだろう。

 技術ではどうやっても埋められない程度には地力に差があるし。


「私を殺したらどうなるか分かった物ではない。そう言ったのは貴女でしょう。リコリス=H=インサニティ」

「ぬぐっ!?だが……」

「捕えても何かが起きる」

「ぐ……」

「傷つけるなら私だって全力で抗うわよ。それこそ自分の命を天秤に乗せるレベルで、外の世界の神々の目にも留まるように」

「うぐぐ……」

 と言うわけで、一切の恐れを隠しつつ、『秘匿』自身の言葉と『秘匿』でも理解できるぐらいに当たり前の事柄を使って、手を出せないようにすることで戦いを回避する。


「で、話を戻すけれど、トリスクーミの管理者になる対価に、ヒトを好きに出来る権利を貰っても意味なんてないわ。だって、今のトリスクーミではヒトも妖魔も好き勝手にやっているもの」

「えっ……」

「それぐらい知っておきなさいよ。ついでに言うと私は量よりも質派なの。それこそ一回の食事の為に国一つ作って滅ぼす程度にはね。と言うわけで、貴方の出した条件じゃ私は釣れないの」

「ぬぐう……」

 で、こうして会話をしていて分かったが、どうやら『秘匿』はトリスクーミの現状すら理解できていないらしい。

 と言うか、サブカと言う『秘匿』視点としては放置厳禁の妖魔を放置している時点で、色々と駄目だろう。

 この分だと、地脈から妖魔を生み出すシステムも別の誰かが造ったと考えた方が適当かもしれない。


「そんなわけだから、私をトリスクーミの管理者にしたいのであれば、私の出す条件を呑む事ね」

「条件だと?」

 『秘匿』は私の言葉に対してあからさまに身構える。

 流石にいじめ過ぎたらしい。


「ええ、色々とあるわよ」

 だがトリスクーミの管理者になる代わりに、色々と『秘匿』に対して物を言えるこの機会は十全に生かすべきものである。

 と言うわけで絞り出せるだけ絞り出させてもらおう。

 具体的に言えばだ。


・『秘匿』が居なくなってからでもヒト、妖魔、英雄のシステムが維持されるようにするための改修

・ヤテンガイを利用した世界各地から情報を集めるシステムの構築

・フローライト、ペリドット、それにセレニテスに関しての情報開示

・その他異常事態への備え

・私の使う特別な魔法の使用制限の基準制定

・『秘匿』自身の教育


 等々である。

 なお、ヤテンガイの樹を利用したシステムには、私が以前に回収したヤテンガイの木の実から種を取りだし、それを水色髪の侍女が急速成長させ、そこから大量生産した種を世界中に撒く事で構築することにしたのだが、生育には『蛇は罪を授ける(サマエル)』も利用したので、今後のヤテンガイは今までのヤテンガイとはほぼ別種と言ってもいい代物である。


「うう……どうして私が貴様に教育されなければならないのだ……」

「アンタが人間社会の事をまるで理解していないからでしょうが。本当に人間に戻るかの検討もしておきなさい。でないと碌な目に合わないわよ」

 それと、『秘匿』の教育についても『蛇は罪を授ける』は活用させてもらう。

 どうにも人間時代とやらが幸せすぎたようであるし、人間に戻っても幸せになれるとは限らないと言う点だけはしっかりと教えておかねばならない。


「これから大変そうだね」

「そうね。ただまあ、なんとかするわよ」

 さて、こうして一応の話がまとまり、事が動き出した頃だった。

 イズミが私に話しかけてくる。


「で、どうしてそこまでするの?」

「……。私が妖魔らしく生きる為よ」

「イズミがこの世界を調べた限り、ソフィアの生き方は妖魔らしくないと思うんだけど?」

「そうかもしれないわね。でも、こうでもしないと、私の愛した相手が生きたこの世界は破綻することになる。それを見過ごすのは何かが違うと思ったのよ」

 実際、もしも今のシステムのままだたっら、遠い未来のことではあるが、『秘匿』が力を使い果たすと同時に、トリスクーミは崩壊するだろう。

 なにせ『秘匿』が力を使い果たすと言う事は、妖魔も英雄も生まれなくなるだけでなく、魔法そのものが失われる事に繋がりかねないのだから。


「だから管理者になって、維持を図る?」

「だから管理者になって、致命的な破綻だけは避けるのよ」

「ん?」

「ヒトがヒトらしく、想いのままに生きてこそ、妖魔も妖魔らしく生きれると言う事よ」

「ふうん……」

「ーーーーーーー!」

「ま、分かってもらえなくても構わないわ。じゃっ、私は『秘匿』が癇癪を起したみたいだし、そっちに行くわ」

 そうして私は『秘匿』の下でしばらく過ごして、やるべき事を一通りやり遂げると、現地で色々と動くために『秘匿』の下を旅立ったのだった。

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