第320話「世界の秘密-5」
「先程も言ったように、妖魔は私の魔力を生命体化させたものだ。そして、生命化の際には私の魔力だけでなく、周囲の環境から各種情報を集めている。この情報によって実際に生まれる妖魔の種類や性格、性質が決定されるわけだ」
「へぇ、それは知らなかったわね」
先述の私についての話をすると言う言葉を裏切って、『秘匿』は妖魔の成り立ちについて語る。
その情報自体は私にとっても重要な物であるから構わない。
後、この情報が正しいのであれば、トーコやシェルナーシュのような人妖は、妖魔の種族を決定するのに必要な情報のほかに、ヒトの情報も多量に取り入れているのではないかと思う。
そこから、今後は普通の妖魔よりも人妖の方が生まれやすくなり、場合によってはヒトの妖魔そのものが生まれるのではないかと言う予測も立てられるが……まあ、今は気にしなくていいだろう。
「このシステムの素晴らしい点は、生まれる妖魔の多様性がとにかく多岐に渡ると言う点だ。そのおかげで、妖魔に対して絶対的に有効な対策と言うものを立てる事は不可能になっている。どうだ、素晴らしいだろう」
「そうね。素晴らしいと思うわ」
まだ私の話に移る気配はない。
まあ、『秘匿』だから仕方がないか。
それにしても多様性……か、サブカのあの異常な精神性は多様性の枠に留めてもいいのだろうか。
『秘匿』の話を聞いている今になって見返してみたからこそ言えることだが、サブカのアレは妖魔としては絶対にあってはいけない精神性だと思う。
それがあると言う事は……『秘匿』が誇る妖魔を生み出すシステムの何処かに、何か重大なバグが潜んでいるのではないだろうか。
有ったとしても私にはどうにもできないが。
「うむ、そこで貴様の話に移ろう。単刀直入に言おう。土蛇のソフィア、お前には不純物が混ざっている」
「不純物?」
さて、いよいよ私の話であるらしい。
「そうだ。貴様がこの世に生れ出る時、私の力と同質の、けれど私以外を源とする力が貴様の構成要素として紛れ込んだ。その結果として、貴様は普通の妖魔とは一線を画す存在と化した」
『秘匿』の力と同質、けれど『秘匿』以外を源とする力……か。
さっき力を分割した時に人格を分割したと言っていたはずだから、その『秘匿』の分割した人格とやらを源とした力なのだろう。
ただ、量は『秘匿』の力の総量からすれば微量であるようだし、『秘匿』の分割した人格が持つ力をさらに分散させたようなものではないかと思う。
「具体的に言えば、貴様は他の世界と繋がる穴と化した。トリスクーミに私が張っている他の神々の干渉を退ける為の仕掛けを無視して、外の世界の情報の一部を得られるようになってしまったわけだな」
と言うわけで、『秘匿』が私の『蛇は骸より再び生まれ出る』などの特別な魔法についての話をしている中、私はイズミに視線を向ける。
外の世界で『秘匿』の言う不純物が撒き散らされるような事件があったのかと言う想いを込めて。
「ん……」
「……」
イズミは小さく、けれど確かに頷く。
どうやらそう言う事件は実際に有ったらしい。
うん、『秘匿』の勘違いとかは流石に無かったか。
ならこの先は……
「この事態は非常に拙い物だと言っていい。なにせ……」
「要するに、私を介して外の世界の神々がトリスクーミに攻め込んでくる可能性があるから、私に大人しくしていろ。もしくは死ねと言いたいのね」
私が生き残るためにも、こちらが主導権を握った方がいい。
「え、あ、いや……」
「はっきりしろ」
「わ、私に貴様を殺すのは無理だ!と言うか、不純物が混ざっている貴様がこの世界で死んだら、何が起きるか分かったものでは無いぞ!あの力はとにかく根性が捻じ曲がっているクソみたいな力だからな!」
「へぇ……」
と言うわけで、これまでのやり取りから『秘匿』が自分の方が上だと思っている事や、何千年と一人で過ごしていたせいで交渉事がとにかく下手な事、挙動や言葉、視線などから『秘匿』の精神性を考察し、あらゆる手段を用いて引き出せるだけ情報を引き出す事にする。
と、思っていたら即座に殺せないと言わせてしまった。
偽情報の可能性は当然考慮するが。
「殺せないの……」
「こ、殺せなくても捕える事は……」
「あら、そんなに底意地の悪い力なら、捕えただけでも何かをしでかすかもしれないわよ」
「ぬ、ぬぐっ……」
イズミの私に向ける視線が何処か非難めいたものになっている気もするが、無視する。
今はこの流れのままに押し切ってしまう方が優先である。
「じゃあ、私をこの屋敷に招いてどうするつもりだったのかしら?殺す事も捕える事も出来ないのなら、何か別に用事があったと言う事よね。それとも、まさか話がしたかっただけなんて言わないわよねぇ」
「も、もちろん別に用事は有ったとも」
「具体的には?」
「貴様をトリスクーミの管理者にしてやる。ヒトを滅ぼしさえしなければ、好きなだけヒトを増やして食っていいぞ」
『秘匿』がどうだと言わんばかりの顔で言ってくる。
なので私は……
「馬鹿かアンタは」
断ると同時に、着火の魔法で沸騰する程度に加熱したハーブティーを『秘匿』に向けて投げつけた。
「あっつあああぁぁぁ!?」
そして、沸騰したハーブティーを浴びた『秘匿』は叫び声を上げた。
熱々の茶はぶっかけるもの