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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第6章:蛇に足を書けども竜にはならず
316/322

第316話「世界の秘密-1」

 レーヴォル王国滅亡から一か月。

 私はセントレヴォルから真っ直ぐ南に行った場所にあるマダレム・シニドノで今回の為に調達した船に乗り込んでいた。

 目指すは南、三つの大陸の中心部、例の神が居ると思しき場所である。


「水、食料、魔石、土、どれも問題はないわね」

 必要な物資は既に十分な量を詰み込んである。

 それこそマダレム・シニドノから出航し、南下し続け、フロッシュ大陸のカエノタンに辿り着けるだけの量をだ。

 操船は全て使役魔法で行う予定なので、船員の反乱や私の正体がバレる可能性を危惧する必要もない。


「よし、バレない内に出航してしまいましょう」

 と言うわけで、後は出航までの間に、妙な事態に陥らないようにするだけである。

 なので、私は誰かに怪しまれないように、土を一時的にヒトの形にして操ると、静かに出航した。



-----------



「さて、今のところは順調ね」

 マダレム・シニドノから出航して三日。

 既に水平線に陸の影は無く、他の船の影もなかった。

 まあ、これは当然と言えば当然である。


「『不帰の海』……ね。まあ、例の神が何かしているんでしょうね」

 なにせ私がこれから向かう海域はヘニトグロ地方南部沿岸の漁師や商人から『不帰の海』と呼ばれている海域であり、私が調べた限りでも極僅かなヒトが運よく帰って来れた海なのだから。

 しかもこの逸話、都市国家時代からのものであるが、最近でもシニドノから南の大陸を目指した船団が行方を断っている。


「……。『不錆(アンルスト)』で合っているわよね?」

 私は三百年ぶりに自分の背中に戻ってきたハルバード……『不錆』の持ち手を思わず握る。

 例の神は伝言で壊れない何かを持ってこいと言っていた。

 何かの部分は聞き取れなかったが、私の知る限り絶対に壊れないと言い切れるのは、このハルバードだけである。


「何か不安になって来たわ……」

 余談だが、『不錆』をフロウライトに在るグロディウス公爵の屋敷から盗み出す際、代わりと言うわけでは無いが『英雄の剣(ヒーロー)』を置いて来ている。

 グロディウス公爵なら、きっとうまく使ってくれることだろう。

 なお、『ヒトの剣(ヒューマン)』についてはある程度の大きさの破片が出る様に砕いた上で、各地にばら撒いた。

 確実に争いの種になるが、分かり易い目印やシンボルがあった方が、レーヴォル王国崩壊後の各都市や地域の再構築も上手くいきやすいと判断しての事である。


「それにしても一人って暇よねぇ……魔力節約を考えたら『蛇は骸より再(カドゥ)び生まれ出る(ケウス)』を使うわけにもいかないし」

 私はセレニテスを喰らった翌日に生じた五つ目の金色の蛇の環を軽く指で弄りつつ、独り言を呟き続ける。

 何かやる事が有るのではないかと言われそうだが、やる事が何も無いのだからしょうがない。

 外の監視と操船は使役魔法頼みにした方が安全だし、食料は定期的かつ計画的に食うべきものなので、暇だからと弄るわけにもいかない。

 新たな魔法を考えようにも魔力も魔石も無駄遣い厳禁なので、やれることはない。

 体力の浪費もいざという時を考えたら、考え物である。

 暇を持て余し過ぎて体力が落ちてもアレなので、最低限の運動はしているが。


「結局一人寂しく呟き続けているしかないと。はぁ……」

 ちなみに、トーコとシェルナーシュの二人については、レーヴォル王国を滅ぼした後、そのまま別れてしまった。

 お互いの行先も話していないので、連絡を取る事も不可能である。

 まあ、生きてさえいれば、その内また会えるだろう。



---------------



「あれは……」

 マダレム・シニドノ出航から一週間。

 どこまでも続く水平線に一つの変化が生じる。


「……」

 それは霧。

 海の上から空のだいぶ高い位置にまで、柱のように霧が生じていた。

 海流も霧の周辺だけおかしい感じがあるし、何者かが何かを隠そうとしているのは明らかだった。


「行ってみますか」

 私は船を操ると、海の流れを無視して、霧の中に無理矢理突入する。


「っつ……なんて寒さ!」

 異常は霧の中に入って直ぐに生じた。

 地域的に常夏の領域であるにも関わらず、まるでヘムネマ地方でも最北の辺りのような寒気が船を襲ってきた。

 私は慌てて、替えの服を重ね着し、どうにか寒さに対応する。


「これは霰……じゃないわね」

 続けて空から霰のような物体が船に降り注ぐ。

 だが霰なのは見た目だけで、中身は全くの別物……と言うか、海以外の物に触れた瞬間に弾けて、周囲に冷気を撒き散らし、当たった物を凍結させようとしてくる霰があって堪るかと言う話である。


「しょうがないわね。着火(イグニッション)

 このままでは船ごと氷漬けにされる。

 そう判断した私は着火の魔法を発動し、続けて火の使役魔法によって炎を操ると、船に付いた氷を溶かす。


「……。見えてきたわね」

 そうして霧と霰に対応しつつ進み続ける事丸一日。

 やがて私の視界に一つの島が見えてくる。


「さて、当たりだとは思うけれど……どうかしらね?」

 島の周囲を探ると、船を付けるのにちょうど良さそうな場所が有ったので、私はそこに船を付ける。

 相変わらず異様に寒いが、島の上では霰は降っておらず、霧も生じていなかった。


「ま、行ってみれば分かるわね」

 行かなければ進まない。

 そう判断した私は、草一本生えていないその島に上陸した。

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