第312話「ディバッチ-2」
「ひ、ひあああぁぁぁ!」
「こんなところに居られるか!」
「なっ!?待て貴様等!?」
ディバッチ王の周囲に居た人々の内、何人かが私から逃げるべく隠し通路に向かって駆け出す。
王を置いて逃げると言う辺りに彼らの忠誠心のほどがよく分かるが、当然私に彼らを逃がす気はない。
「はいはい、逃がすわけないでしょ」
「馬鹿ねぇ」
「ぎっ!?」
「ぎゃっ!?」
「「「!?」」」
と言うわけで、私は使役魔法によって隠し通路の周囲の土を操ると、隠し通路を駆けていたヒトを、通路を構成していた石畳で挟む形で動きを止める。
「ま……」
「じゃっ、さよなら」
「「「!?」」」
そして、捕獲された当人含め、その場に居る全員が、この場から逃げ出そうとした者が私の魔法によって捕えられた事を認識出来る様に、一瞬間を置いてから……潰す。
「本当に馬鹿ね。土蛇のソフィア相手に土で囲まれた通路で逃げようだなんて」
「私が土を操れる事すらも忘れているでしょう。でなければ、あんな隠し通路で逃げようとは思わないわ」
「「「……」」」
ディバッチ王たちは、逃げ出そうとした者たちの末路に顔を青くし、全身を震わせていた。
実際、彼らは私について碌に知らないだろうし、知ろうともしなかったのだろう。
でなければ、土蛇のソフィアが土に関する魔法を得意としている事実すら忘れられているとは思えない。
「う、うおおおおぉぉぉぉっ!」
「あら」
騎士の一人が状況の打開を狙ってだろう、剣を抜き、私とセレニテスに向かって一直線に突っ込んでくる。
「勇気があるのね。なら苦しまずに逝かせてあげる」
「そうね。それでいいと思うわ」
「死……ぎゃああああぁぁぁぁ!!」
対する私は傍に控える二匹の大蛇の内、炎で出来た大蛇を向かわせ巻きつけ、一切の抵抗を許さず、骨までも焼き尽くしてやる。
この後にやる事を考えれば、まあ慈悲深い対応だろう。
「さて、これで他に抵抗するヒトは……」
「何故だ……何故このような事をする!セレニテス!私はお前の父親なのだぞ!」
私は他に何かしらの行動をするヒトが居ないか探そうとする。
が、その前にディバッチ王がセレニテスに向けて叫び声を上げる。
「お前は血の繋がった家族を……」
「……」
その内容ははっきり言って聞くに堪えないものであり、表情こそ笑顔のままで固定されているが、セレニテスの機嫌がディバッチ王の口が開く度に悪くなっていくのが私には簡単には分かった。
だが、ディバッチ王にはそんなセレニテスの変化は分からなかったらしい。
「だから頼む!助けてくれ!!助けてくれれば……」
ディバッチ王も、そしていつの間にやらディバッチ王の周囲に居る人々も、自分の命だけは助けて欲しいと、失笑しか出てこないような懇願を行っている。
「言いたい事はそれだけかしら?」
やがて彼らが出せる物を全て出したのだろう。
少しの間彼らは静かになり、その静かになった瞬間を見計らってセレニテスが口を開く。
その目に冷酷な、暗い昏い炎を灯し、彼らに対する明確な殺意を表に出した状態で。
「ソフィア」
「分かりました」
「ま……」
セレニテスの言葉に、凄まじく愚鈍な彼らでも自分たちの命が危機に瀕している事が分かったのだろう。
彼らは一様にセレニテスの事を止めようとする。
「「「ーーーーーーー!?」」」
「っ!?」
だがその前に私の使役魔法によって、彼らの周囲の土が鋭い刃物になって彼らに襲い掛かり、ディバッチ王以外の面々を生きたまま粉々にしていく。
それこそ畑に鋤きこむようにだ。
「ディバッチ王。貴方はどうしてこんな事になったか分かりますか?」
一人生き残らされ、周囲の熱さに反して顔面蒼白状態のディバッチ王にセレニテスが問いかける。
「………………」
ディバッチ王からの返事はない。
どうやら目の前の惨状に思考が追いついていないらしい。
「ふんっ」
「ガッ!?」
なので軽く殴ってやり、無理やり思考を現実に戻させてやる。
「もう一度問います。ディバッチ王。貴方はどうしてこんな事になったか分かりますか?」
「そ、そんなもの、貴様が土蛇のソフィアを招き入れたからではないか!それ以外に理由などあるか!」
「本当に愚か。その先のもっと根本的な部分に考えは至らないのね」
「なっ!?」
セレニテスは既に笑顔を貼り付けておくことを止めている。
代わりに、一見すれば無表情とも取れそうな、静かな怒りの形相を浮かべている。
「私が土蛇のソフィアと契約したのは、貴方に対して復讐するのに、それが一番いい手だったからよ」
「復讐……だと……」
「そう、復讐よ。貴方に犯され、私を孕んだせいで一生を台無しにされたのに、それでもなお私を立派に育てようとしてくれたお母様のね」
「なっ!貴様はそんな事の為にこれだけの惨事を招いたというのか!?」
「そ ん な こ と ?」
「あ、いや……その……」
私たちの周囲の炎は、まるでセレニテスの感情に呼応するように激しく燃え上がり、ディバッチ王を威圧する。
愚かなディバッチ王は、もはや顔面蒼白を通り越し、今にも気を失いそうな状態になっている。
なお、私は今、こちら側に火が来ないようにする最低限の操作しかしていない。
「そう、なら、貴方がやったそんな事が原因となって、三百年続いたレーヴォル王国は滅びるのね。良い様だわ」
「ま……」
セレニテスが腕を真上に上げる。
ディバッチ王はそれを止めようとするが、それよりも早くセレニテスは腕を振り下ろす。
「ただ死ね」
そして、それに合わせて私がディバッチ王の胴体部分に重い石の魔法を発動。
生み出された巨岩は自然の理に従ってディバッチ王にのしかかり……潰した。