表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
305/322

第305話「フォルス-5」

 ウエナシがセレニテスの屋敷を訪れた一週間後。

 伝えるべきものは伝え、指摘するべき点は指摘したとして、ウエナシはセントレヴォルから去って行った。

 勿論、私の助言を受けた妖魔たちによる事件は起こり続けている。

 が、セントレヴォルの守りを司っている騎士たちにとって、存在してもいない自分たちの名誉と、フォルスがこれからやろうとしている事などの面から、これ以上ウエナシには居てもらいたくなかったのだろう。

 彼らはウエナシが若干呆れた様子を見せている事にも気づかず、ウエナシを半ば追い出すように送り出した。

 そしてウエナシがセントレヴォルから去ったという事は、その時が来たという事である。


「ソフィア、準備は?」

「整っているわ。フォルスの始末をつけるどころか、祭りの終幕に必要なものまでばっちりとね」

 夜。

 私は屋敷の一室で、セレニテスに見られながら、最後の確認をしていた。

 服はセルペティアとしての侍女服のままだが、腰には『妖魔の剣(ヒンドランス)』が差さっているし、金の蛇の環もきちんと身に付けている。

 服の内側には大量の魔石が仕込まれていて、使役魔法に必要な土も多少は持っている。

 それ以外にもまあ、使う機会は無さそうだが、色々と仕込みはしてある。


「セレニテス。貴女は?」

「問題ないわ。安心して、私は約束を違えない。貴方と共にあり続けるわ」

 自らの胸に手を置いてそう言うセレニテスの格好は、普段の第二王女らしい豪勢で上品な清潔感のあるドレスではない。

 粗雑で、ありあわせの物から造られた上に、長年にわたって使い古された事が分かる農民としての服装だった。

 だが、化粧らしい化粧もせず、最低限の衣服の他には小さな装飾品すら身に付けていない、今の彼女の姿は普段のセレニテスよりも遥かに輝いて見えた。


「ふふふ、素敵な言葉ね。期待しているわ」

「ええ、期待していてちょうだい」

 しかし輝いて見えるのは当然の事だろう。

 今のセレニテスは普段は隠している自らの本性を、心の奥底に秘めていた感情を露わにし、自らの目的を達する為ならば、己の命を含めた全てを利用してでも達成してみせると言う意思を明らかにしているのだから。


「ソフィアん、こっちは準備完了したよ」

「貴様等の方は……大丈夫そうだな」

 トーコとシェルナーシュの二人が部屋の中に入ってくる。

 二人とも服装自体は屋敷で働いている時のそれだが、トーコの手には包丁のような剣が握られており、シェルナーシュの手には魔力を固めて作った宝石が幾つも填め込まれた杖が握られていた。


「一応聞いておくけれど、二人ともどういう作戦内容かは分かっているわよね?」

「分かってる分かってる。危なくなったら勝手に行動させてもらうけどね」

「そうだな。実を言えば小生たちに貴様の策に乗る理由はない。だから、策に乗るのは話の筋が通っている間だけだ」

「それでいいと言うか、むしろそうでないと困るわね。他の連中と違って貴女たちの替えは居ないわけだし」

 実を言えば、ウエナシが言った通り、私一人でもレーヴォル王国を滅ぼす事は出来た。

 なので、単純な損得から言えば、トーコとシェルナーシュの二人にはこの場に居ないで貰えた方が私が食べれる人の数が増えて、得であると言えた。

 が、それをせず二人を招きよせ、二人に協力をしてもらったのは、やはり私がトーコとシェルナーシュの事を友人と捉えているからなのだろう。

 故に二人に授けた策も、二人を生き残らせることを大前提としていた。

 そして生き残ってほしいからこそ、危ないと判断したら勝手に動いてもらって構わないとも思っていた。


「さて、それじゃあ呼び出しますかね」

 既にフォルス・レーヴォルの手の者は、隠しきれない程の数で以って、セレニテスの屋敷に向かって来ている。

 派兵の名目はセレニテスが土蛇のソフィアたち妖魔を匿っている、という事に後でするらしい。

 私たちはそれを事前に知っていた。

 なので、既に屋敷の使用人たちは全員眠らせた上で、安全な場所に運んである。

 そしてこの後に私たちはセレニテスを伴って、フォルス・レーヴォルの元に向かうつもりなので、屋敷は無人になる。

 だがそれでは少々面白みに欠ける。


「『蛇は骸より再(カドゥ)び生まれ出る(ケウス)』」

 私は髪止めに使っている金の蛇の環を意識しつつ、魔力を暖炉の火で照らされている部屋の中心に盛った大量の土に向ける。

 そうして、普段生み出しているのよりも遥かに精巧な形で……土を骨肉とし、火を血とし、毒と闇を神経として、私が持てる魔法の力を全て使って、セルペティアそっくりの姿で形作っていく。


「はい、出来上がり。やる事は分かってるわね」

「はぁ……まあね」

 やがて現れたヒトの方のソフィアは、若干の溜め息を吐きつつも、腕を回して、身体の調子を確かめる。


「全員ぶっ飛ばせばいいんでしょう。全力で」

「ええそうよ。生き残りは出してもいいけど、手加減は不要よ」

「はいはい。ま、こういう連中が相手なら、ストレス解消にはちょうどいいわね」

 ヒトの方のソフィアは私の記憶から、自分が何をするべきなのかを既に分かっている。

 なので、身体の調子を確かめ終えると、無人になる屋敷を訪ねてくる客を出迎えに向かう。


「さて、セレニテス、トーコ、シェルナーシュ。私たちも行きましょうか」

「分かったわ」

「うん」

「そうだな」

 そして私たち四人は屋敷を後にした。

12/06誤字訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ