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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
304/322

第304話「フォルス-4」

「さてウエナシ様。話を戻すついでに一つ質問です。何故貴方は私たちの味方をしてくださるのですか?」

 トーコの件で少々頭を痛めている私の脇で、セレニテスがウエナシに質問をする。


「簡単な損得勘定の結果じゃよ」

「損得勘定……ですか」

 ウエナシの事を訝しみ、セレニテスの目が細くなる。

 恐らく損得で動いているという発言から、状況次第でウエナシが裏切ると思ったのだろう。

 実際、条件が整えばウエナシは私たちと敵対するだろう。

 が、その条件が整う事はないと、ウエナシの事を良く知る私には言い切れた。


「お主も知っているじゃろうが、儂が属するニッショウ国とレーヴォル王国の付き合いは深くて古い。実際に交易を行っているロンガサキとシキョーレの付き合いに限れば、四百年以上の歴史があるほどじゃ。そして、その間多少のいざこざは有れど、基本的には良き付き合い、平和なやり取りが行われておった」

 私はウエナシの言葉が真実であると示すように、セレニテスに向けて一度頷く。


「が、ここ数年の間にその関係性は大きな歪みを生じ、日に日に悪化していっておる。このままでは……まあ、遠からず取り返しのつかない次元で、碌でもない事になるじゃろうな」

「碌でもない事……ですか」

 なお、これは余談になるが、シキョーレとロンガサキの交易は、決して綺麗なものだけではない。

 賄賂を役人に送る事で、自分たちにとって有利なように取り計らってもらう事や、高額な税を支払う商品を密輸しているのを見逃してもらう程度の事は、かなり昔からやっていた。

 勿論、見つければ罰したが……どちらかと言えば、やるならもっとうまくやれと言う意味で捕まえて、罰していた。

 早い話が、円満に物事を回すのに必要だから、上手くやっているものに限ってはわざと見逃していたのである。


「うむ、既に魔薬のようなどうあっても許されない禁輸品をニッショウ国に持ち込もうとする愚か者や、賄賂を貰わなければ仕事そのものをしない者、海で自分たちとは違うグループに属する者を見つけたら襲い、沈めようとする者などが出て来ておる。自分たちの背後にはセントレヴォルからやってきた偉い役人や、貴族が居るぞと周囲を脅しながらの」

「……」

 が、今シキョーレとロンガサキの交易で起き始めている問題は、濁り切って底が見えないどころか、一寸先も見えないような汚さの問題であり、ニッショウ国側にとっては見過ごすわけにいかない問題と化していた。


「と言うわけでじゃ。ソフィアの奴を討てるだけの戦力と、今の良くない状態の交易を改善出来る見込みが王と王子にあれば、儂はあの場でソフィアの正体を告発し、売ると言う選択肢を取っていたじゃろうな」

「けど、そうはならなかった」

「うむ、あの王ではソフィアを討てるだけの戦力は用意できないじゃろうし、交易の改善も期待できないからの」

「フォルスについてはどうなの?」

「論外じゃな。アレが王になれば、確実にニッショウ国に喧嘩を売ってくる。儂らに負ける気はないが、戦になれば少なくない被害が出るし、奴に味方をしても百害あって一利なしじゃ」

「だからソフィアの味方をする。か」

 シェルナーシュの呟くような言葉に、ウエナシは笑みを浮かべた上で返す。


「いいや、味方はせんぞ。セレニテスの侍女であるセルペティアの正体について何も言わないだけじゃ」

「何が違うの?」

「完全な味方になると、万が一の時に困るから、どちらにも味方をする事で、甘い汁を吸おうってだけの話よ」

「ふぉっふぉっふぉっ」

 私の言葉にウエナシは笑い声をあげる事で暗に肯定をする。

 このやり取りにトーコとシェルナーシュは訳が分からないという顔色だが……まあ、これは仕方がないか。

 この手のやり口は私の得意とする分野で、トーコとシェルナーシュにとっては専門外なのだから。

 それに実際問題としてだ。


「ま、正直なところ、完全な味方になられても困るのよね。私、トーコ、シェルナーシュの三人で戦力的には十分足りてるし、それ以外の面でもだいたいは何とかなるもの」

「まあそうじゃろうな。ニッショウ国で儂一人始末するためにお主がやったことを考えれば、儂の助けなど必要あるはずがない」

 灰羅ウエナシに出来る助力で、何が一番うれしいかと言えば、何もしないでくれるのが一番うれしい事なのである。

 その事を私と、私の実力を良く知るウエナシはよく分かっているのである。


「それにこの国の状況も状況だしな……」

「ぶっちゃけソフィアん一人でも何とかなりそうな感じだよね」

「そもそもソフィアに出来ない事ってあるのかしら?」

 他の三人には分からないかもしれないが。

 なお、私が出来ない事を上げるなら、水や風に関係する魔法が挙げられる。

 その辺りだけはどれほどの知識があっても上手くいかなかったので、たぶん根本的に素質が無いのだろう。


「そう言う訳じゃから、儂は多少噛み応えが増すように、最低限の助言だけはするが、それだけじゃ。後は儂を巻き込まないでくれればそれでいい」

「ま、そうでしょうね」

 言うべきことは言ったのだろう。

 ウエナシが席を立ち、セレニテスに対して屋敷の中に入れて、話をしてくれた礼を言った後、トーコの作った菓子を持って屋敷の外に出ていく。


「セルペティア。次に事を起こすのは?」

「相手に合わせますので、恐らくは二週間後かと」

「ならその時は同行させて」

「分かりました」

 そして、ウエナシが去った後、私は屋敷の警備を一新しつつ、その時に備えて動き始めた。

と言うわけで、信用できない国より信用できる妖魔を選んだのです


12/05誤字訂正

12/06誤字訂正

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