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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
303/322

第303話「フォルス-3」

 さて、灰羅ウエナシがディバッチ王の前で土蛇のソフィアについて語ってから一週間が経った。

 この間、私とセレニテスは特に新しい行動は起こしていない。

 皇太子であるフォルス・レーヴォルも、流石に国外から招いた客である灰羅ウエナシの前で事を為すのは拙いと判断したのだろう、セレニテスを殺すための準備はしていても、実際に動く様子は見られない。

 で、当の灰羅ウエナシと言えば……セントレヴォルの警備状況を見るという名目で、多少の助言をしつつ観光を楽しんでいた。

 勿論、名目であっても仕事は仕事である。

 そう、仕事なのだ。

 だからおかしくはない。


「いやはや、急に尋ねたにも関わらず、屋敷の中に上げて頂きありがとうございます」

「いえ、私もウエナシ様とは話してみたいと思っていましたから」

 セレニテスの屋敷にウエナシがやって来てもだ。


「ほう、具体的には?」

「ニッショウ国の事もそうですし、土蛇のソフィアについてもお聞きしたいと思っていましたの」

「ふぉふぉふぉ、それは嬉しい事ですのう」

 と言うわけで、私は他の使用人たちを部屋の中から退けると同時に、記録係としてシエルことシェルナーシュを、茶の世話などの補佐としてキリコことトーコを呼ぶ。

 ちなみに二人ともニッショウ国に赴いた事が有るという経歴を書類に記載しているので、その辺りも呼んだ理由の一つとして通用する。


「と言う事じゃが、どうするんじゃ?」

 そうして部屋の中に居る面子が私、セレニテス、シェルナーシュ、トーコ、ウエナシの五人だけになったところで、ウエナシが私に視線を向けてくる。


「シエル」

「分かった、静寂(サイレンス)

「ほう、防音魔法か」

 屋敷の使用人はよく躾けられているので、聞き耳を立てるような者は居ない。

 が、それでも念の為にと言う事で、まずはシェルナーシュに静寂の魔法を使ってもらい、外に情報が伝わる可能性を無くす。


「セレニテス。悪いけれど、まずは他に話す事が有るわ」

「あら、そうなの。私が知らないソフィアについて知れるいい機会だと思ったのに」

 憂いを晴らしたところで、私はウエナシの正面に立つ。

 勿論、ウエナシが妙な挙動をしたら、即座に殺せるように『蛇は根を噛(スヴァー)み眠らせる(ヴニル)』と『妖魔の剣(ヒンドランス)』ではなく仕込みナイフを対象にした『蛇は八口(ヒノ)にて喰らう(カワ)』を待機させた状態でだ。


「久しぶりね、ウエナシ」

「久しぶりじゃのう、ソフィア。が、そんなに気を張らんでも大丈夫じゃ。儂にあの頃の力はもうない」

「どうかしらね。力を隠している可能性を私は捨てられないわ」

 そんな私の行動にウエナシは何処か呆れ顔で応じてくるが、妖魔を対象とした使役魔法を行使できるような人物相手に気を抜くことなど出来るはずがない。

 シェルナーシュも何時でも動けるようにさり気なく構えを取っているし、セレニテスも私たちの誰かが操られた場合に備えて、一歩の踏込みでは攻撃できない位置に居るようにしている。

 トーコですら、表向きはマイペースにお茶の用意をしているが、ウエナシが一瞬でも不穏な動きをすれば、即座に首を刎ねれるように致命的な隙は見せていない。


「本当じゃっての。と言うか、全盛期の儂でもご先祖様三人を同時に相手するだなんて馬鹿な真似は御免じゃ。そもそも儂の使役魔法は血縁を対象にしづらいように作ってあるんじゃぞ」

「御先祖様ねぇ……ん?三人?」

 と、ここでウエナシが妙な発言をする。

 私の調べが確かなら、私、シェルナーシュの二人とウエナシとの間には血縁関係がある。

 だが三人?

 三人と言う事は?


「ウエナシ、アンタの祖先ってのは……」

「うむ、今まではソフィアだけに出た特殊な反応かと思っておったのだが、こうして他の二人を目にして分かった。そちらの二人からも、儂との繋がりが感じられる。それもソフィアよりはるかに色濃くじゃ」

「「「……」」」

 私はトーコに視線を向ける。

 シェルナーシュもトーコに視線を向ける。

 セレニテスも私たち二人の反応を受けて、トーコに視線を向ける。

 ウエナシも場の変化を嗅ぎ取ってか、トーコに視線を向ける。


「ん?アタシ?」

 で、肝心のトーコは訳が分からないと言わんばかりに首を傾げる。


「質問よ。トーコ」

「何?ソフィアん」

「貴女、子供を産んだ覚えは?」

 うん、これは早急に確かめる必要が有る。

 トーコの血を引く子供が何処に居たのか、それを知っていないと、何処かとんでもないところで想定外の事態が発生しかねない。

 今でさえ灰羅ウエナシとトーコの間に血の繋がりがあるという想定外が発生しているのだから。


「んー……」

 私の質問にトーコは口を噤む。


「んー……」

 首を捻る。


「んー……」

 唸り、腕を組み、首を上下させて、頭から煙を出しそうな勢いで考え込む。


「あっ、思い出した。私レーヴォル王国が出来る少し前ぐらいに一人産んでる」

「「!?」」

 そうして出て来た結論は、私とシェルナーシュも知らない事実だった。


「具体的な場所と時期は?」

「えっとね……」

 トーコの口からおおよそではあるが、地名と時期が語られる。

 そして、語られた条件にぴたりと当てはまり、ウエナシとの繋がりもあるヒトが……私の記憶に一人だが居た。


「ああぁー……なるほどねぇー……なんかもう色々と納得がいった気がするわ……」

「知り合いだったのか?」

「思いっきり私たち三人の知り合いだったわ……」

「え?そうなの?」

 その人物の名はバトラコイ・ハイラ。

 レーヴォル王国初代王であるセレーネ・レーヴォルの親衛隊隊長を務めていた人物である。

 だが言われてみれば納得は出来る。

 トーコと容姿や性格は似ていたし、料理好きも共通してたし、身体能力も普通のヒトよりは明らかに優れていた。

 探せば、他にもトーコ、バトラコイ、ウエナシの三人での共通項は出てくるだろう。

 言われれば、それぐらいには繋がりがあった。


「とりあえずこの話はこれぐらいにしておきましょう。なんか頭が痛くなって来たわ」

「え?え?誰が私の子供だったのソフィアん?」

「そうだな、そうしよう」

「う、うむ」

「ちょっと残念ねー」

 とりあえずこの件についてはこれぐらいにしておこう。

 これ以上はこの場で考えても意味がないし……考えれば考えただけ、頭痛がしてきそうな気がするからだ。

ソフィア視点でも確定しました。


12/04誤字訂正

12/05誤字訂正

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