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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
297/322

第297話「インダル-3」

 数日後の夜。


「セレニテス様。二人を連れてきました」

「ご苦労様です。セルペティア」

 私は本来の物とは大きく異なる服装に着替えたとある二人を、他の屋敷の使用人や騎士、監視の人員に知られないように、秘密の通路を通らせてセレニテスの寝室に案内していた。


「さて、昼間も顔は会わせましたけど、まずは改めて自己紹介をしましょうか。美食家さんに魔女さん」

「魔女……か。ヒトが随分と勝手な通り名を付けてくれたものだ」

「うーん、アタシは美食家って通り名、結構気に入ってるんだけどなぁ」

「まあ、魔女って通り名は、男でも女でもない相手に付けるには不適当よね」

 セレニテスは私たち三人のやり取りを、何処か羨ましそうに見ている。

 まあ、セレニテスの今までを考えたら、私たちにそう言う目を向けたくなっても仕方がない事だろう。


「まあいいわ、夜もそんなに長くないんだし、早いところ自己紹介をしてしまいましょう」

「そうね。そうしましょうか」

 さて、三百年ぶりの再会となれば、色々と話を盛り上げる事も出来るが、時間は有限である。

 まずはやるべき事をやってしまうとしよう。


「では私から、私の名前はセレニテス・レーヴォル。現王であるディバッチ・レーヴォルの庶子であり、レーヴォル王国の第二王女になります。つまり表向きには貴方たちの雇い主と言う事になるわ。そして裏の顔はソフィアの協力者よ」

「よろしくねー」

「はぁ、王女が貴様とつるんで、自国を滅ぼそうとしている……か。世も末だな」

「そう?よくある事だと思うけど?」

 最初にセレニテスが私たちに向けて、王女らしい気配と雰囲気を放ちながら、自己紹介をする。

 それに対する二人の反応は……予想通りの物と言ってよかった。


「私は……表の身分と名前だけでいいわね。表の名前はセルペティア、身分はセレニテス様付きの侍女筆頭。つまりセレニテス様の生活に関わる事の大半において、最高責任者と言えるわね」

「何だかソフィアんの立場は三百年前と同じ感じがするね」

「腹心の方が、色々と動きやすいんだろ。表に出て暴れるのが得意なタイプでもないしな」

「あれで得意じゃないって言われても、納得するヒトはあまり居ないと思うけどね」

 次に私こと土蛇のソフィアが、表向きの部分についてだけだが、念のために自己紹介する。

 ところで、どうして全員何処か呆れた顔をしているのだろうか。

 まったく理由が掴めない。

 まあ、大したことでもないし、流していいか。


「アタシはトーコ。蛙の妖魔だよ。で、表の名前はキリコで、役職は屋敷の料理人。で、いいんだよね?」

「ええ、それでいいわ」

「ふふふ、今日の夕食もとても美味しかったし、表だけでも十分な期待が持てそうね」

「まあ、トーコは料理ばかりしていたようだしな」

 三番手は美食家ことトーコ。

 トーコは三百年前から変わらない感じで、料理人の服装で元気よく自己紹介をする。

 ちなみにトーコの三百年については、おおよそ百五十年ほど前にレーヴォル王国で百人近い騎士を返り討ちにした上に調理した結果として美食家と言う通り名を得た事を除けば、割合地味な物である。

 尤も、地味なだけで、少し探せばトリスクーミ中で御使いトォウコらしき存在が現れて、今まで食べられなかった植物を食べる方法を伝授して飢饉から人々を救っただとか、美食家トーコらしき妖魔が現れて、集落が一つ無くなっただとか、食関係で三百年分の情報が色々と出てくるのだが。


「ふふん、期待してもらっていいよ」

 それと、トーコ自身の料理の腕も三百年の間に大幅に伸びているようで、今まで屋敷の料理を担当していた一流のコックがトーコの料理を一口食べただけで弟子入りを志願していた。

 していたのだが……流石にそれは私が止めた。

 トーコでは、食事を美味しく食べる為に造られたのではないマナーやしきたりは分からないからである。

 まあ、表向きがそうなだけで、実質的には弟子入りしてしまったようだが。


「小生はシェルナーシュ、蛞蝓の妖魔だ。表の名前はシエル、役職は書庫の管理人。まあ、基本的には一日中本を読んで過ごさせてもらう」

「そうね。そうなると良いわね」

「よろしくね。シエル」

「ほぼ本名だよね。シエルん」

 最後は魔女ことシェルナーシュ。

 どうにも三百年の間にヒト嫌いは悪化したらしく、何処か機嫌が悪そうに侍女服に身を包んだシェルナーシュは自己紹介をする。

 ちなみに魔女と言う通り名については、二百年ほど前にレーヴォル王国に姿を現し、騎士一個大隊吹き飛ばした時の姿から付けられたらしい。

 まあ、どう見ても女にしか見えない見た目であるし、仕方がない事だろう。

 なお、トーコの料理がそうであるように、シェルナーシュの魔法とそれを支える各種知識についても、この三百年の間に大幅な進歩を見せている。

 私が知る限りでも、百年ほど前にフロッシュ大陸北東部にある巨大な湖、カエノサイト海の水を酸に変え、周辺地域に多大な被害をもたらすと言う大きな事件を起こしているし、他にも大小無数、様々な事件をシェルナーシュは起こしているようだった。


「偽名なんだ。分かり易い方が困らない」

「ふーん」

 余談だが、シエルの役職である書庫の管理人はそれほど暢気で居られる仕事ではない。

 セレニテスは知識を集める関係で意外と本を読むのが好きなので、書庫の利用頻度も多いのだ。

 それこそ、書庫の管理人と言う役職を設けても問題ない程度には。

 ま、シエルがその事に気づくのは明日以降の話だろうが。


「さて、自己紹介も済んだところで、話を進めましょうか」

「そうね。そうしましょうか」

「分かった」

「うん」

 さて、自己紹介も終わったところで、まずは当面の予定……皇太子インダル・レーヴォルの暗殺について、二人に話しておく事にしよう。

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