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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
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第294話「スクワ-4」

 土蛇のソフィアによるレーヴォル王国第一王女スクワ・レーヴォル及びその母親、祖父、伯父、従兄弟等の殺害。

 一晩どころか、ほぼ同時にまったく別の場所で発生したその事件には、セントレヴォルだけでなく、レーヴォル王国に住む全ての王侯貴族は大いに動揺することになった。


 だがそれも当然の事だろう。

 殺害されたのは王族と言う常に護衛が付いている存在である。

 その王族が殺されたのだ。

 それも、セントレヴォル城の中、王族が住むための場所として用意された部屋の中と言う、レーヴォル王国内でも最も警備が厳重な場所の一つと言っても過言ではない場所で。

 それは暗に、レーヴォル王国の守りでは、土蛇のソフィアを止める事は出来ないと示してしまっていた。



 とある貴族は今回の事件を受けて、陰でこう愚痴を呟いたと言う。


『何故、私の代で土蛇のソフィアが帰って来てしまったのだ。何故、先祖たちは、もっと真面目に土蛇のソフィアへの対抗策を練らなかったのか。奴は必ずやってくると言っていたのに』


 その貴族の愚痴も尤もではあった。

 だが、彼自身も土蛇のソフィアが自分の代で帰って来るとは思わず、遊楽に耽っていたのだから、自分の先祖たちを責める事など出来るはずが無かった。

 つまるところ自業自得であり、自分の先祖の代から積み重ねてきたツケを偶々今代の者たちが払わされただけなのである。



 ただ、そうやって慌てふためき、酷い者では国外に逃げ出す事すらも検討し始める中、平民たちには特にこれと言った変化はなかった。

 彼らは慌てる事も怯える事もなかった。

 その理由は単純だ。


『土蛇のソフィアは貴族しか狙っていない。それも阿漕(あこぎ)なやり方で金を稼いでいる王と貴族だけだ。土蛇のソフィアは、彼らに対して与えられた試練である』


 勿論、この考え方は間違いであり、必要が有ればソフィアは一般市民に刃を向ける事も躊躇わないだろう。

 だが、長年の貴族と平民の関わり方と、テトラスタ教の教えの結果、平民はこのような考え方を持つようになり、今回の事件でも平民たちはどちらかと言えば、土蛇のソフィアを自分たち民衆の味方であるように捉えていた。



 さて、多くの貴族と平民が上述のような状況にある中、一握りではあるが、土蛇のソフィアへの対応を考える者たちが居た。


「土蛇のソフィアは油断……いえ、慢心していると言ってもいいでしょう」

「ほう」

 彼らはセントレヴォル城の一角に集まると、土蛇のソフィアへの対抗策を練るための会議を開いていた。


「どうしてそう思う?何か根拠があるのか?」

 議長の名はフォルス・レーヴォル。

 レーヴォル王国第二王子であり、セレニテスの腹違いの兄である。


「奴の行動です。今回奴は……」

 室内に集まっていた男たちの一人、騎士風の男が今回の事件全体の流れを改めて語る。

 それらはこの場に居る者なら全員把握していて当然の話であったが、この後の議論を円滑に進める為に、彼らは敢えてそれを聞き続ける。


「それで本題ですが、貴族と商人の殺害の頃から、昨夜の事件までの間、スクワ様の警備は強化されていません。そして、スクワ様に各商人が貸していたお金の額を正確に土蛇のソフィアが把握していた事からこの事実を土蛇のソフィアが知らないとも考えづらい。つまり、奴はその気になれば何時でも破れた警備を、昨夜までわざと破らなかった事になります」

 騎士風の男の言葉に、部屋に居る面々が静かに頷く。


「加えて奴は昨夜、片手で数えられない数のヒトを同じ時間に葬っています。なので、各王族の警備の度合いが大きく変わらない事も加味して考えると、奴がその気になっていれば、フォルス様を含めた全王族を暗殺することも不可能では無かったと思われます」

「「「……」」」

 続く言葉には流石に頷きづらかったのか、部屋に居る面々は押し黙り、俯く。


「なるほど。故に慢心。いや、いっそのこと、こちらの事を舐めていると言ってもいいわけか」

「そうなります。悔しい事にですが」

「ちっ、全くもってムカつく輩だ」

 フォルスの舌打ちに騎士風の男を除き、部屋に居る面々は何処か怯えた様子を見せる。


「まあいい、それなら、今晩からは交代で部屋の中に寝ずの番を複数付けるだけの話だ。そうすれば、土の蛇を送り込んできただけなら対応できるだろう。親衛隊隊長」

「わ、分かりました。部下に指示を出しておきます」

「問題はどうやってこのセントレヴォルの何処かに潜んでいるであろう土蛇のソフィアを見つけ出すかだが……例の老人の招聘(しょうへい)はまだかかるのか?」

「も、申し訳ありません。もうしばらくかかるとの事です。何分海を越えた先の国から招きますので……」

「言い訳は要らん。結果を出せ。外交は外交官の仕事だろう」

「は、はい!」

「それから……」

 フォルスは苛立ちながら、部屋の中に居る面々に一通り指示を出していく。


「それで、親父殿と御兄弟様の様子は?」

 そして、一通りの指示が終わったところで、騎士風の男に向けて問いかける。


「ディバッチ王とインダル様は酷く怯えられています」

「だろうな。自分たちの代で伝説の大妖魔が出て来たんだ。臆病者には堪えるだろうよ。セレニテスは?」

「変わりない。との事です」

「ちっ、例の侍女が居るから、心配はしていないって事か。田舎娘の分際で」

 フォルスは苛立ちながら、足を机の上に乗せ、胸の前で腕を組み、何処かの裏路地のボスのような姿を見せる。


「セレニテスとセルペティアとか言う侍女に対する警戒を緩めるな。アービタリを返り討ちにしたのは間違いなく奴らなんだからな。それこそ奴らが土蛇のソフィアを匿っているつもりで相手にしろ」

「分かりました。警戒を強めておきましょう」

 フォルス・レーヴォル、彼はレーヴォル王国国内に居るヒトの中で、最も真実に近い位置に居ると言っても良かった。

 だが、そんな彼ですら驚かざるを得ない事件が直に起きることになる。

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