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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
291/322

第291話「スクワ-1」

 計画立案から一月後。

 レーヴォル暦319年の二月(春の二の月)のとある日の夜。

 必要な情報を集め終った私は、セレニテスの傍には護衛として『蛇は骸より再(カドゥ)び生まれ出る(ケウス)』を置き、私自身は変装をした上でとある屋敷に忍び込んでいた。


「夜分遅く、失礼致します」

「ん?誰だお前は……ぐっ!?」

 で、私の姿を見てしまった侍女と警備を殺す、食う、半殺しにして動けなくしておくと言った方法で制圧しつつ、私は屋敷の主人の部屋に入ると、部屋の中で酒を楽しんでいた主人をそこら辺で拾った槍で串刺しにして始末した。


「えーと、この書類がそうね」

 主人を始末した私は、とある書類……第一王女スクワ・レーヴォルとこの屋敷の主人が経営する商会との間で行われた金の貸し借りに関する証文を探し出す。


「まったく、こんな大量のお金を何に使ったんだか。ま、スクワにとっては下の人間がどれほど苦しもうが関係ないんでしょうね。下が暴れたら上は死ぬしかないのを知らないんでしょうし」

 私は目的の証文と、それ以外の幾つかの証文を一ヶ所にまとめると、発火(イグニッション)の魔法で証文に火を点け、火を対象とした使役魔法で屋敷に火が燃え移らないようにすると同時に、元がどんな書類であったか分かる程度の焼け残りが出る様に燃やしていく。

 ちなみに火を対象とした使役魔法は、土を対象とした使役魔法よりも遥かに危険で、使い勝手も悪い。

 なにせ火を維持するだけで魔力を持って行かれるし、五感を持たせようにも火は火でしかないため、視覚を繋げるのに必要な特別なパーツを組み込むのが難しいのだ。

 おまけに万が一使役魔法で繋がったまま、予期せぬ外的要因で火が消えてしまったりすると、私の精神にも少なくない影響が生じたりする。


「よし、焼却完了。っと」

 そんなわけで、火の使役魔法を使うのは特殊な状況を除けば、基本的には燃やしたいものだけを燃やす時ぐらいのものである。


「さて、騒ぎになる前に脱出しますか」

 そうして私は誰かに姿を見られたりしないように屋敷を後にした。



-------------



 そして、その三日後。


「ふふふ、奴が死んでくれたおかげで、私が一番になる機会が来た。どこの誰がやってくれたか分からな……は?」

 私はまた別の屋敷に忍び込み、その屋敷の主人の首を刎ねて始末した。


「はい、さようならー。短い幸せだったわね」

 始末が終わったら?

 三日前と同じで、証文を探しだし、焼き払う。

 勿論、元がどのような書類であったか分かるようにだ。

 なお、脱出の際には、私だと分からないように化粧を済ませた顔を警備のヒトにチラリと見せてから、脱出した。



-----------



 さらにその三日後。


「三日前の殺人に、六日前の殺人。まさか……はっ!?だ……」

「気付くのが遅かったわね」

 私は前二件とはまた別の屋敷に忍び込み、屋敷の主人の頭を酒瓶でかち割って始末する。

 そして始末をしたら、同じように証文を探し出し、同じように焼く。


「何の音だ!?」

「ーーーーーー様の部屋からだ!」

「大丈夫ですか!?」

「あらあら、見られちゃった」

 で、最後の脱出の際に私の顔をわざと私の顔を見せ、腰から一枚の紙を出来るだけ自然に、意図せず落としてしまったと警備が思う様に、床に落としつつ窓から脱出。

 追手を完全に撒いた上で、セレニテスの元に帰還した。



--------------



「お疲れ様。セルペティア」

「ええ、本当に疲れたわ」

「まったく、よくやるわ。こんなまどろっこしい事」

 セレニテスの屋敷に帰ってきた私を待っていたのは、セレニテスの労いの言葉と、『蛇は骸より再び生まれ出る』によって土を基本とした肉体を得たヒトの方のソフィアによる小馬鹿にしたような言葉だった。

 まったく、私の意思とは関係なしに行動を可能にする関係上、自由意思を持っているのは良いのだけれど、一体何時の間にヒトの方のソフィアはここまで歪んだのやら。


「まどろっこしくても、これが一番なのよ。スクワを追い詰めるのにはね」

「追い詰めるねぇ……これで王族たちを一思いに殺さなかったせいでアンタが地獄を見たら、大爆笑ものね」

「そうなりそうだったら、私の提案を蹴って、即殺して構わないと言っているから大丈夫よ。たぶん」

「ま、今のところは問題ないわね」

 まあ、何はともあれ、今晩の仕事は終わりであり、次の仕事はまた三日後である。

 ただ……直前までどちらを対象にするかは分からないだろう。

 今日の彼も死の直前になって、私が襲っている相手の法則性に気づいていたようだし。


「それで名簿の方は?」

「ちゃんと現場に落としてきましたので大丈夫です。まあ、そのせいで次に襲う相手は直前まで判断できませんけど」

「そこは、セルペティアに頑張ってもらうしかないわね」

 そう、法則性だ。

 今回の襲撃は、特定の法則に従って襲う相手と実際の行動を決めている。


 襲撃は三日に一度。

 襲う順番は第一王女スクワ・レーヴォルに対して貸しているお金の量が多い順。

 証文は現場で焼き、屋敷の主人を殺したら逃げる。

 侍女や警備は誠実そうな人物は残し、そうでないものを殺す。


 と言った法則で縛っているのだ。


「セルペティア。貴方の予測では後幾つの屋敷を潰す必要が有りそう?」

「そうですね……後二人か三人は必須でしょう」

「つまり、それだけ私も一晩中起きていないといけないのね。まったく、面倒だわ」

 ヒトの方のソフィアの愚痴は無視するとしてだ。


「そう、ならもうすぐ面白い事になりそうね」

「ですね」

 全てが上手くいけばスクワは追い詰められる。

 そうでなくとも、今の暮らしは続けられなくなるだろう。

 その事を想像したならば……私もセレニテスも笑みを浮かべずにはいられなかった。

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