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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
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第289話「蛇と月長石-7」

「で、出鱈目だ!何もかもが出鱈目だ!」

 私の問いかけに対してグレッドは見るからに動揺した様子を見せつつも、そう喚き散らし、自らの無実を周囲に訴える。


「儂は発熱(フィーバー)の魔法なぞ知らん!?そんな魔法の魔石など持っておらん!そもそもこのような場に魔石など持ち込むはずが……」

「つまり貴方は何も知らなかった。と?」

「っつ!?」

 私は大衆の面前でグレッドの付けていた腕輪の一つを外し、この事態の推移を見守っている貴族たちの前に向けて放り投げる。

 腕輪は黄金と宝石の類をふんだんに使い、見るからに金がかかったものだと分かる。


「申し訳ありませんが、腕輪に付いている緑色の宝石を時計回りに捻ってもらえますか?」

「あ、ああ……」

「ま……っつ!?」

 グレッドを魔力で威圧して黙らせつつ、私は腕輪を放り投げた先に居た貴族たち……第一王女の取り巻きであり、本来はセレニテスの情報収集と可能ならば何かしらの悪意ある行為を行うためにやってきた、その貴族に腕輪を動かしてもらう。


「これは……」

 勿論彼らに私の指示に従う必要性はない。

 が、彼ら視点では私の言葉が真実であるならばグレッドを失脚させるか、そうでなくとも大きな貸しを造れ、私の言葉が嘘であってもセレニテスを貶められると言う、どう転んでも美味しい状況である。


「魔石だ。魔石が入っているぞ!」

「「「!?」」」

 故に彼らは少々躊躇いつつも私の指示通りに腕輪に付いた宝石を動かし、その下に仕込まれた魔石の姿を目にする。


「これは罠だ!儂を嵌める為の罠だ!それに魔石が仕込まれているだけでは……」

「では……」

 私は再び喚き始めたグレッドを黙らせるように、何人かの貴族の名前を上げる。

 それはこの会場に居て、グレッドと握手をした貴族の一部の名前。

 要するに……


「医者と薬、それに解熱用の魔石の準備をした上で、彼らにはこの場に留まってもらいましょう。そうすれば、発熱の魔法が使われた事は確認できます」

「……」

 私が止めた事で難を逃れたセレニテスと違って、発熱の魔法を掛けられてしまった面々の名前である。


「わ、儂は枢機卿なのだぞ……このような事が……」

 既にグレッドは顔面蒼白と言っていい状態だった。

 まあ、それも当然の反応だろう。

 仮に部下が勝手にやった、誰かに嵌められたと言って、グレッド自身が裁かれるのを防いだとしても、それを見抜けなかったとしてグレッドの面目は丸つぶれなのだから。


「儂は……儂は……」

 そうして切羽詰った状態だったが故にだろう。

 グレッドはここまで愚かなのかと後で私に思わせるような行動をとる。


「殺せええぇぇ!今すぐこの侍女を!化け物を殺せええぇぇ!」

 それは私をこの場で殺せという、どう解釈してもレーヴォル国に対する反逆行為、テトラスタ教への背信行為としか取れない命令だった。


「何故だ!?何故誰も……」

「はぁ……グレッド枢機卿、いえ、グレッド。貴方は本当に愚かですね」

 当然、この場に居る誰一人としてそんな命令に従うはずがない。

 より正確に言えば、取らせない、だが。


「セレニテス様」

「そうですね。グレッド・アバリシオス殿と、そのお付きの方々を拘束させていただきましょう。衛兵」

「はっ!」

 セレニテスが指示を出すと共に、衛兵たちが未だに喚き散らすグレッドと、ずっと私の魔力によって威圧され続け、マトモに動く事も出来なくなっている付き人たちを取り押さえていく。


「離せ!離せええぇぇ!!」

 もはやグレッドが罪人である事は、誰の目にも明らかだった。

 こうなってしまっては、私がただの侍女である事を加味しても、どうしようもない。

 グレッドの支援を受けていた皇太子辺りが彼を救おうと動く可能性も、私を殺せと言う命令が出る前までなら有り得たが、あの一言が出てしまっては皇太子どころか王でも、法王でも、グレッドの命を救う事は出来ない。

 枢機卿だったグレッドの命運は、完全に尽きたのだ。


「さて、セルペティア」

「はい」

 私はセレニテスの前に膝を着く。


「私を守るため、許されざる行いをした者を裁くために、貴方が行動を起こした事は分かっています」

 が、主の危機を救った事を褒める為だけに膝を着かせるのではない。


「が、貴方がこの場を大きく乱した事もまた事実です。こうなってしまったら、今宵の宴はこれまでにするしかないでしょう」

「分かっています」

「それに、貴方の言動や実力から考えれば、もっと穏便に済ませる方法もあったはずです。それこそ、これから発熱の魔法によって熱にうなされる者を出さずに済む方法も有ったでしょう」

「はい」

 私が場を乱し、セレニテスを主役とした舞踏会を途中で終わらせてしまったのもまた事実であるのだから。

 そしてそれ以上に、私と言う優秀な侍女をセレニテスがきちんとコントロール出来ている事を、周囲に見せる必要があった。


「故に功罪合わせても罪の方が少し勝っていると私は考えます。なので、貴方の忠誠は理解していますが、後で罰を与えます。いいですね」

「当然の事にございます」

 まあ、本音を言わせてもらうと、これ以上穏便に済ませる方法は……たぶんなかった。

 だがこれで貴族たちにも分かっただろう。

 セレニテスの言う忠を尽くすと言うのが、どれだけ難しいのかが。

 そうして、この場はお開きとなった。


 後日、グレッドは枢機卿の地位を追われ、多くの貴族に対する傷害行為に、セレニテス(王族)への敵対行為、その他諸々今まで隠されていた多くの罪が暴かれ……大衆の面前でただの罪人として処刑された。

相手が悪すぎた

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