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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
280/322

第280話「三百年後の王国-5」

「さて、今後の為に色々と探らせてもらいましょうか」

 今のレーヴォル王国の政治事情について羊皮紙に一通り書き終わったところで、私は更なる情報収集を行うべく、第二王女が現在匿われているグロディウス公爵の屋敷に忠実なる(クロウ)(ゴーレム)の魔法による烏人形を複数体向かわせる。


「一人ぐらいは食べ甲斐のある子がいないとねぇ」

 私は酒を飲みつつ、烏人形を同時並行的に、間近で見ても本物の鳥が飛んでいるように普通のヒトから見えるように操る。

 そして、烏人形を一体、第二王女が眠っていると思しき部屋のバルコニーに近づけ、他の烏人形たちにはグロディウス公爵の屋敷の様子を窺ったり、侵入しようとしていたりする者が居ないかを見張らせる。

 見つけた時には……普通に衛兵を呼べばいいか。

 フロウライト・ペリドットの衛兵なら、きちんと仕事はしてくれるはずだ。


「ふむ……」

 私は烏人形の目を通して、部屋の中に用意された豪勢なベッドに横たわっている第二王女……少女の様子を窺う。

 髪の色は茶色、肌は農家の少女らしく程よく焼けている。

 肉付きは……栄養が足りていないのだろう、生きるのに問題は無さそうなレベルではあるが、多少良くない感じがする。


『……』

「む……」

 と、少女が寝返りを打つと同時に、何かの気配を感じ取ったのか、瞼を上げ、黄色の美しい……けれど奥に淀みを感じさせる瞳をこちらに向けてくる。


『貴方……鳥じゃないわね』

「……」

 少女は窓を開けると、バルコニーに居た私に向けて手招きを行い、部屋の中へ入るように促す。

 その動作に迷いや戸惑いは感じられない。

 どうやら、彼女も一筋縄ではいかない人物であるらしい。

 それも他の王族モドキと呼んでもいいような連中とは別の方向性で。


『少し待って』

 烏人形が部屋の中に入り、彼女が窓を閉め、ベッドに戻ると、バルコニーが開いた音に反応したのか、執事らしき老人が部屋の中に入ってくる。

 が、彼女はベッドに横たわり、軽く涙を流しながら眠る演技で、難なく老人をやり過ごしてみせる。


『それで貴方は何者なの?』

 彼女は一切の表情を消した顔を烏人形に向けつつ、問いかけてくる。


「暗殺者から貴方を助けた魔法使い。と言ったら信じるかしら?」

 それに対して私は問いかけに問いかけで返すという真似をし……


『信じるわ。土蛇のソフィアさん』

「……」

 彼女の答えに唖然とする羽目になった。


『どうして分かったと言う顔ね』

「はぁ……そう言う顔もしたくなるわよ。土蛇を見られたならともかく、こっちを見られて私に直結させられるヒトなんて今までに一人も居なかったもの」

『土は幾らでも形は変えられる。だったら、他の形にでも出来るんじゃないかと思っただけよ。土を動物のようにして操れる存在なんて他に聞いたことも無いしね』

「なるほどね……」

 この時点で私は第二王女の事を、他の王族たちのようには扱わない決定を自分の中で下した。

 と言うか、農村の少女から突然第二王女になったはずなのに、私相手にこれだけの真似が出来るとは……彼女は間違いなくシチータ、そしてセレーネの血を引いていると、私に思わせるには十分な振る舞いである。


『それで、貴方がレーヴォル王国に戻ってきたという事は、昔からの言い伝え通り、レーヴォル王国を滅ぼすの?』

 彼女は先程よりも少しだけ淀みが薄くなった瞳をこちらに向けつつ、次の問いかけをしてくる。


「どうでしょうね?正直に言って、今の王族連中に私の三百年を叩きつけ、国ごと滅ぼしてあげる価値があるのかと言われたら怪しいし、放っておいても勝手に滅びちゃいそうな感じがするのよねぇ」

 私はそんな彼女の心の動きに、三百年の経験から彼女の一端を理解する。

 理解したが故に、正直に自分の思っている事を吐露し始める。


「だって、現王は現実逃避、皇太子は魔薬中毒、第二王子は暴力馬鹿、第一王女は贅沢三昧、貴女は他の連中に比べれば多少はマシであるけれど……自己の死も含め、自国の崩壊を願う破滅主義者じゃない」

『……』

 してやったりだ。

 彼女の顔が僅かにではあるが、驚きの感情によって揺さぶられた。

 どうやら彼女は自分がどういうヒトであるのかを知られていないと思っていたらしい。


『流石は三百年以上生きている妖魔の中の妖魔、土蛇のソフィアね』

 彼女の表情が変わる。

 今までのあらゆる感情を捨て去ったような仮面のような表情から、先程見せたような精巧に出来た一般的な少女の表情ではなく、激しい憎悪をたぎらせた彼女本来の表情へと。


『でもそんなに悪い事かしら?自分の母親を無理矢理犯した挙句に捨てた父親にこの世の絶望という物を教え、全てを奪い尽くしてから殺したいと思う事が』

 口を三日月に変え、目を大きく見開き、狂相としか称しようのない表情を彼女に浮かべる。

 ああ……ああ……、


『ええそうよ。私は国の崩壊を望んでる。だって私の父親の所有物は国だもの。だったら国全てを奪わなきゃ、私の気持ちは収まらないわ』

 何て素晴らしい。


『その為ならば私は何だってやって見せるし、誰でも利用して見せるわ。王族も、貴族も、暗殺者も、そして貴方すらもね。土蛇のソフィア』

 なんて素晴らしい感情の奔流、なんて素晴らしい魂の輝き、なんて素晴らしい意思の炎。

 これほどの歓喜を感じるのはいったい何時以来だろうか。


「ふふ……ふふふふふ……」

『何がおかしいの?』

 間違いない。

 彼女ならば立派に勤まるだろう。

 私が行うレーヴォル王国滅亡と言う所業のメインディッシュと言う役割が。


「いいでしょう。王女様。それならば一つ契約と行きましょう」

『契約?』

「そう、契約。私は貴女の望みも叶える形でレーヴォル王国を滅ぼしてあげる。その代わり、全てが終わるその時になったら、私にその身を捧げなさい」

 私の言葉に彼女は今までで一番の笑顔を浮かべる。

 その笑顔はとても美しく、蠱惑的だった。


『喜んでこの身を貴方に捧げましょう。土蛇のソフィア。その代わり、絶対にレーヴォル王国は終わらせて頂戴。特に王族連中の息の根は必ず止めてちょうだい』

「勿論よ。期待してもらっていいわ。王女様」

「『ふふっ、ふふふふふ、あはははは!』」

 そうして私こと土蛇のソフィアと、レーヴォル王国王位継承権第四位、第二王女セレニテス・レーヴォルとの契約は結ばれた。

高笑いが似合う二人だなぁ……

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