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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
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第276話「三百年後の王国-1」

「さて、まずは国内の状況を一通り把握しないとね」

 レーヴォル王国北東部、スネッツォ地方との境界に築かれたその都市の名はノイボーダ。

 規模で言えばマダレムの名が付いてもおかしくない規模の都市であるが、マダレムは付かない。

 と言うのもフロウライトやセントレヴォルと言ったマダレムの名の付かない大都市が存在するために、この三百年間で都市の名にマダレムを付ける風習が途絶えてしまったからである。

 そして、マダレムの名が付かなくなったことからも分かるように、この三百年の間にレーヴォル王国内に存在している文化や風習には少なくない変化が生じている。

 変化の中には国外に居る私の耳にも伝わってきたものもあったが、私が知らない変化も山のように存在しているだろう。


「じゃあ……まずはあの家族なんかが良さそうね」

 と言うわけで、この街で一番高い建物であろうテトラスタ教の教会の鐘楼に上った私は、忠実なる(クロウ)(ゴーレム)の魔法で街中の観察を行い、適当な獲物が居ないかを見定めていく。



--------------



 そして夜。


「しかし、伯爵様も毎度毎度無茶な事を……」

「こんばんわ。そして、おやすみなさい」

「!?」

 私は昼の内に獲物と見定めたヒトを順々に襲い、生きたまま腹の中へと収めて行く。

 普通の家族五人、みすぼらしい格好をした浮浪者三人、ノイボーダを取り仕切っているであろう人物の屋敷に務めている人物三人、テトラスタ教の司祭ら五人、その他商人、衛兵、騎士、旅人等々を合わせて十人ちょっと。

 総計約三十人に消えて貰った事になるが……まあ、今日一日調べた限りではノイボーダに居たこと以外には何の関係性もない人々であるし、関連性を持って疑われることはないだろう。

 なお、私の存在が疑われる危険性については皆無である。

 なにせノイボーダどころか、レーヴォル王国自体に正規のルートでは入っていないのだから。


「ごちそうさまでした。さて、検分を始めないと」

 さて、情報収集が終わったところで、次はその情報の検分である。

 ノイボーダは国境の街なので、集まってくる情報の質や量はあまりよくない。

 だが、国全体を騒がせているような話や一般常識であれば、この街でも十分なものが手に入るはずである。

 そんな事を考えつつ私はノイボーダの外に移動して情報の検分を始めた。

 始めたが……。


「うーん……」

 正直に言わせてもらいたい。

 どうしてこうなった、と。


「むうん……」

 いやまあ、三百年以上ほったらかしにしていた私が言っていい台詞ではないのだろうけど、それでもなお言いたくなってしまう程度には、今のレーヴォル王国は問題を抱えていた。


「腐敗……かぁ……」

 その問題の名は腐敗。

 他にも色々とあるが、一番の問題はこれだ。

 どうやら三百年間大きな戦や強大な妖魔による攻撃を受けて来なかったために、レーヴォル王国は私の存在すらも忘れて、良くない方向に流れてしまったらしい。

 具体的な例を周辺知識と共にあげるならばだ。


「上が下を虐げてどうするのよ……」

 まず、今のレーヴォル王国は大きく分けて四つの階級に分かれている。

 つまり、王族、貴族、平民、奴隷だ。

 そして貴族は更に五つの階級に分かれていて、上から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となっている。

 この辺りの階級制度については特に言う事はない。

 それぞれの地位に、地位に相応しい人物が収まっているのであれば、いい方向に事を運びやすくなるからだ。

 問題はそれらの地位に相応しくない人物が収まっている場合。


「あー……なんか頭が痛くなってきた……」

 そう、今のレーヴォル王国の貴族は平然と平民と奴隷を虐げていた。

 それも正当な理由ではなく、レーヴォル王国の法から見ても不当な理由でもって。

 貴族だから平民と奴隷を虐げても構わないと言う頭の具合を気にしたくなるような慣習を盾にして。

 ノイボーダは国境の街と言う事でまだマトモな状況だったようだが、外からの目が届かない小さな村や町は相当酷い事になっているとの事だった。


「どうしてこうなっちゃったのかしらねぇ……」

 ついでに言えば、貴族や有力な商人の間で不正や賄賂が横行していたり、平民が貴族に取り上げられる事はほぼ無い程度には閉鎖的だったりと、他にも色々と問題があるのだが……ああうん、もう本当に頭が痛くなってくる。


「しかも司祭たちまでもが同じ状況って……」

 で、なお悪い事にテトラスタ教の方も似たような状況である。

 いつの間にか司祭たちの上に枢機卿や法王と言った地位を作っていて、直接的な暴力は流石にしていないが、ことあるごとに金品を要求するような業突く張りにはなっていた。


「はぁ……」

 何と言うか、頭痛で頭が痛いとか、そんな何かがおかしい言葉を呟きたくなる程度には私の頭を痛くしてくれる状況だった。

 と言うか、勝算があるなら、今すぐにでもセントレヴォル城とマダレム・イーゲン改めテトラスタイーゲンに乗り込んで、主要な連中を皆殺しにした挙句、それぞれの街に火を放ってやりたい所である。

 勝算が無いのでやらないが。


「とりあえずグロディウス(我が)公爵さん(子孫)の領地に行きましょうかね。他よりはだいぶマトモな状況らしいし」

 私はそう呟くと、大きめの忠実なる(スネーク)(ゴーレム)を生み出し、地中を高速で移動し始めるのだった。

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