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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
275/322

第275話「世界巡る蛇-後編」

 ナックトシュネッケ大陸。

 この大陸は他の二大陸……レーヴォル王国もあるシュランゲ大陸とフロッシュ大陸の二つと比べて、特に気候が厳しい大陸であると言える。

 と言うのも、大陸の殆どは一応農耕が行える程度の荒地であり、それ以外の部分は砂漠だったり、氷河だったりで、ヒトも獣も住むのに適しているとは言いづらい環境なのだ。

 そして、ヒトが住むのに適さないという事は……ヒトを食べなければ生きられない妖魔にとっても厳しい環境と言う事だ。

 現に二百年以上生きて、ヒトを長期間食べなくても割合大丈夫になっている私ですら、ナックトシュネッケ大陸を旅している間には飢えを覚えることが何度かあったぐらいである。

 そんなナックトシュネッケ大陸だが、私はフロッシュ大陸に続けて、この大陸でもまた百年近く過ごす事になった。

 そう、この大陸にはどうあっても許すわけにはいかないものがあったのだ。


 そのものは、私の知る言葉で訳すならば『英雄王国』と名乗っている国だった。

 ナックトシュネッケ大陸の中央部、特に気候が厳しいその場所に、周囲を山に囲まれる形でその国は存在していた。

 彼らは周辺の国家からの略奪を生計の中心とした国であり、それだけでも私が眉根を顰めるには十分な国だった。

 だが、そんな盗賊国家とでも言うべき在り方よりも許せなかったのは、彼らが雄の妖魔を捕え、周囲の国から攫った人々の内、男を餌として妖魔に与え、女を無理矢理に妖魔へとあてがい、生まれてきた先天性の英雄を洗脳、奴隷として使っていた点。

 そんな国であるから、私の怒りが頂点に達し、如何なる手段を用いてでもこの国を滅ぼすと言う決意するのにさして時間はかからなかった。


 そして『英雄王国』と周囲に存在していた都市国家群はまとめて滅びた。

 『蛇は根を噛(スヴァー)み眠らせる(ヴニル)』によって都市の下の地脈を狂わせた上に、狂った地脈の魔力で『英雄王国』全体に病魔を対象とした治癒(ヒール)の魔法がかかるようにし、それでもなお余った魔力で無差別に負の感情を再現するタイプの再燃する(リキンドル)意思(ソウル)の魔法を発動してやったのだ。

 病魔と怨念が荒れ狂い、自分たちの栄華が何時までも続くと信じて疑わなかった愚か者共の顔が、絶望に染まっていく光景は中々に壮観な物だった事も覚えている。

 まあ、妖魔にすら容易に感染し、数日のうちに死に至るほどの疫病が生じてしまったのは少々想定外だったが。


 とにかく、強力な病魔によって『英雄王国』の人々はヒトも英雄も、ただ女を抱くだけになっていた妖魔の屑共も悉く息絶えた。

 中途半端に長い潜伏期間を有する病魔によって、周辺の王国も再興など出来ない程に衰退した。

 再燃する意思の魔法によって肉体を得た怨念によって、『英雄王国』の類稀な軍事力の秘密も失われた。

 『英雄王国』はこのトリスクーミの歴史上から完全に消滅したと言ってよかった。


 そうして『英雄王国』を滅ぼした私は、以前からその名を聞いていたスラグメから船で北に移動。

 ヘテイル地方……規模こそ違えど、今やレーヴォル王国と同じように、一つの国によってまとめられた土地に向かったのだった。



--------------



 ヘテイル地方、またはヘテイル列島。

 この地を治めるのはニッショウと言う国であり、レーヴォル王国とも長い間、友好な関係を保っている国である。

 私はこの地で三十年ほど妖魔らしく過ごした。

 世界各地を回り、大きく力と知恵を付けた私にとって、敵となる者は英雄を含めて皆無と言ってよかった。

 が、一人だけ厄介な相手が居た。


 男の名は灰羅(ハイラ)ウエナシ。

 妖魔を操る使役魔法を得意とする後天的英雄であると周囲には名乗っていたが、身体能力についても下手な先天性英雄以上の物を持っていた。

 つまり、私の生きてきた中で出会った、三人目の完全な英雄と呼んで差支えの無い人物だった。


 その強さは……相性の関係もあっただろうが、ゲルディアン以上シチータ以下と言ったところか。

 使役魔法によって私自身が操られてしまう可能性があったため、私自身は基本的には逃げに徹し、搦め手と使役魔法、それに何も知らないヒトや他の英雄を利用して戦ったので、正確な戦闘能力までは分からないのである。

 だが桁違いに強いのは間違いない。

 最終的に時の権力者の前で正体がバラされてしまった私はニッショウ国の王都から逃げ出し、ヘテイル列島の最北から、スネッツォ地方に逃げ込まざるを得なかったのだから。


 そしてこの戦いで私は悟った。

 私の上には必ず誰かが居ると。

 戦闘能力ではシチータやウエナシが、剣術ではサブカが、身体能力ではトーコが、魔法ではシェルナーシュが、政治ではセレーネが、策謀ではリリアが、建築や農業、計算、その他諸々の分野でも、探せば必ず私以上の存在が居る事を悟った。


 そう、私はヒトから記憶や経験を奪える。

 故に様々な分野において私は一流か、そうでなくとも優れた能力を示す事が出来る。

 だが、奪えるだけであるがゆえに、頂点に行く事は出来ないのだと。

 私はそう悟らざるを得なかった。


 しかし、悟ったが故に私はこう考える事が出来た。

 相手の得意分野で戦う必要はなく、相手に勝てる分野で戦えばいいのだと。

 あらゆる分野で力を発揮できることこそが、私の一番の強みなのだから。



----------------------



 スネッツォ地方については……特に語る事はない。

 二十年ちょっとかけて各地を回ったが、目新しいと言える程の知識は得られなかったのだ。


 そうしてレーヴォル暦318年、九月(秋の三の月)

 スネッツォ地方を抜けた先には……待望のヘニトグロ地方、レーヴォル王国が待っていた。

 そう、ヘニトグロ地方を旅立ってから三百年以上をかけて、私はようやく帰ってきたのだった。

 祭りを開く約束の場所へと。

三百年ちょっとかかりましたが、無事帰還です


11/07誤字訂正

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