表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
274/322

第274話「世界巡る蛇-前編」

 アムプル山脈でストータスたちを返り討ちにした私は、そのままアムプル山脈を抜けると、ヘニトグロ北海と呼ばれる海が見える場所に出た。

 そして、そこから私は西に向かって移動を始め、初めてヘニトグロ地方の外に出る。


 ヘニトグロ以外で私が初めて踏み入った地方の名はヘムネマ。

 北にある事に加えて、冷たい空気と水で満たされたヘニトグロ北海に接しているために長い長い冬を持つ地方である。

 そんな土地で私は旅をし、ある時にはヒトを喰らい、またある時にはヒトを助け、短い夏の間は妖魔を狩り、長い冬の間には村一つに消えてもらう事で、寒さと飢えをしのいだ。

 そうして過ごす事およそ二十年。

 様々な知識や技術を手に入れるだけでなく、セレーネたちの捜索網を躱す為にわざとゆっくりと進んでいた私の旅路は、地形の関係からやがて南へと進路を変える。


 ヘムネマ地方の次にやってきたのはスネッヘ地方。

 ヘニトグロ地方の西に位置し、レーヴォル王国とも船を用いた貿易等が行われている地域であり、レーヴォル王国成立前のヘニトグロ地方と同じように大小無数の都市国家が乱立している土地である。

 そんなスネッヘ地方だが、私が訪れた時には少々良くない流れになっていた。

 具体的には、レーヴォル王国に対して武力で攻め込もうとする集団が同盟を組み、まずはスネッヘ地方全体を統べようと考えていたのだった。

 当然私がそんな物の存在を許すはずがない。

 私は三十年ほどかけて、スネッヘ地方を大いに荒してやった。

 都市国家同士で争わせて共倒れさせるだけでなく、一部の盗賊や妖魔に知恵を授けて、レーヴォル王国に攻め込む余裕など無くさせた。

 そうして復旧が可能な程度にはスネッヘ地方を荒廃させた私は、誰かに気づかれる事がないようにこっそりと船でスネッヘ地方の南……海を越えた先にあるフロッシュ大陸へと向かった。


 なお、船での旅は特に問題は無かった。

 操船の技術と知識は私の頭の中にあったし、人手は使役魔法で補えたからだ。

 食料についても同様で、昔の私よりも飢えに強くなったうえに、食料を生かして運ぶ方法もヘムネマ地方で覚えていた。

 ただそれ以外の部分……南に向かうにつれて陽が真上に昇って行き、やがては陽が北にあるようになった点や、スネッヘ地方を出たのが春だったのに、向こうに着いたら季節が秋になっていた点などには驚かざるを得なかった。

 やはり知識と記憶だけで知っているものと、現実に自分の目で見るものは全くの別物である。



-----------------



 さて、そんな船での旅を乗り越え、やってきたのはフロッシュ大陸。

 とても濃い密林や湿地帯、河川の類が多数存在している大陸であり、スネッヘ地方との交易を行っているトドノメ地方などはだいぶ発展していたが、それ以外の地域は未開の地域と言っても差し支えの無いような大陸である。

 で、そんなフロッシュ大陸で私は百年ほど過ごす事になった。

 勿論好きで百年も過ごしたわけでは無い。

 理由があっての事だ。


 まずフロッシュ大陸はとても広かった。

 スネッヘ、ヘムネマ、ヘニトグロの三地方を合わせたぐらいの広さは有っただろう。

 そして、それほどまでに広いが故に多彩な地形、動植物等々が存在し、それらを調べるのに時間がかかったというのが理由の一つだ。


 もう一つの理由は、そんな大陸に住む人々の大半は、自分たちの所属する部族以外は獲物としか見ておらず、ヒトの姿を見かければ有無を言わさず攻撃を仕掛けてくる傾向にあったという事。

 中には日常的なレベルで人食行為が行われている部族もあったぐらいである。

 そんな状況であった為に、私は彼らの中でも比較的マシな考えを有する部族を幾つか選び、彼らを援護する事によって、攻撃的過ぎる部族をトリスクーミから退場させたのだが、大陸一つ分の変革なので、どうしても時間がかかってしまった。


 ちなみに、そうやって私がフロッシュ大陸で過ごしていた百年の間に、トーコとシェルナーシュの二人もフロッシュ大陸を訪れていたらしい。

 色々と調査をした結果から、後で分かった事実なので二人と顔を合わせる事は無かったが。


 それともう一つ、興味深い話があった。

 要約したものだが、これはこのフロッシュ大陸の中でも、極一部の部族にのみ伝わっていた話である。


『世界には元々獣しか居なかった。ヒト、妖魔、英雄が産まれたのは、血のように紅き星がこの地に降り立ち、創り出したからである』


 ヒトや妖魔の起源を語る話は何処の地方にもそれなりに存在している。

 テトラスタ教でも、あの戦争の頃には既に作られていたはずである。

 だが、ヒト、妖魔、英雄が同一の存在から造られたとする話は非常に珍しい。

 大抵の話では、ヒトと妖魔が生み出したのは別の存在であるとされているからだ。


 この話が真実であるかは分からない。

 ただ、この話が正確であるならば、血のように紅き星が降り立ったのはフロッシュ大陸の北東、ヘニトグロ地方の南であるらしい。

 何時かヘニトグロ地方に戻ったならば、該当する場所を調べてみてもいいかもしれない。


 そうしてフロッシュ大陸でやるべき事をやった私は、カエノタンから東に向けて海を渡り、次の大陸……ナックトシュネッケ大陸に向かうのだった。

世界一周は大幅に省略です。

真面目にやっていたら年単位でかかる上に、繰り返しになり易いですからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ