表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
272/322

第272話「旅立つ蛇-4」

「うん、中々いい感じだったわね」

 『蛇は骸より再(カドゥ)び生まれ出る(ケウス)』によって生み出した私の分身。

 それがセントレヴォル城に赴き、セレーネと話していた頃、私自身は既にアムプル山脈の中へと入っていた。


「追手は……まあ、暫くは気にしなくていいわね」

 そう、私はフロウライトを出て、セントレヴォルに向かう途上に在る森の中に入った時点で『蛇は骸より再び生まれ出る』を発動、分身は前述通りセントレヴォル城に向かわせると、私自身は変装をしたうえで北上し、アムプル山脈へと逃げ込んでいたのだ。

 セレーネがこれから出すであろう追手を撒く為に。


「んー……」

 私は山道をゆっくりと歩く馬の背中で、背筋を大きく伸ばす。


「それにしても、久しぶりに完全に一人になったわねぇ」

 そうして今までの生活で溜まっていた体の凝りをほぐしつつ、私はこれから先、どうやってセレーネたちが追って来るかを考える。

 まず、スネッヘやヘテイル、もしかしたらスラグメ辺りにまでには私の存在を伝えてもおかしくない。

 世界中を回ると公言した以上、この二つの地域には訪れるのは分かっているし、私が交易相手に不利益をもたらすのもほぼ確定なのだから。


「あー……なんかやっと重荷が取れた感じもするわね……」

 直接追手を出して確認をするのは……ヘニトグロ地方北西のヘムネマと、北東のスネッツォ、それにアムプル山脈の一部だろうか。

 色々な話を総合すれば、ヘムネマ経由でスネッヘに、短い海を挟むがスネッツォ経由でヘテイルに入る事も可能であるし、今後の事も考えて多少の人員は送るだろう。

 アムプル山脈については、深く入ってもタケマッソ村があるぐらいの深さまでだろう。

 それ以上奥には山を越えるまで殆どヒトは住んでいないと言うし、山の環境そのものが厳し過ぎる。

 なにせ妖魔である私ですら、きちんとした準備を整えなければ危険であると認識しているような環境なのだから。


「……」

 ただ、その領域はもう少し先の話である。

 そして、セレーネは事前に準備を整えていなかったが、私が知る限りでも一人は何かしらの準備を整えているのではないかと言う人物が居る。

 つまりだ。


「来たか」

 山の上から馬ごと私を押し潰すように、綺麗に形が整えられた大岩が複数落ちて来ても想定外ではないのだ。


「よっと」

「ヒヒーン!?」

 今回の為に適当に購入した馬には悪いと思ったが、私は馬を盾にしつつ、地面に触れられる位置にまで岩に驚いて落馬するように移動。

 そうして地面に触れた所で使役魔法を発動すると、まるで大岩に潰されたかのように地中へと潜り込んでいく。


「……」

 地中に潜り込んだ私は呼吸の為の空間を作りつつ、周囲の地面へと慎重に使役魔法の範囲を広げていく。

 馬は……既に絶命している。

 まあ、一つ一つが自分の身体よりも大きい岩に潰されたのだ。

 助かるはずもない。


『ヒハハハハ!やってやったぜ!』

『ざまーみやがれ!なーにが伝説の妖魔だ!』

 少し離れた場所から聞こえてきたのは?

 如何にも小悪党や使い捨ての駒だと言うような男たちの声。

 それに加えて伝わってきたのは?

 彼らが殆ど不動の状態で山の上の方に立っている感覚。

 それから他にも色々と伝わってくる感覚があるが……うん、何と言うか、舐めているのかと私は言いたい。


「まあ、貴重な食料には違いないわ」

 私は声がしてきた方に向けて一直線に地中を移動し始める。

 そして声がした場所の真下に移動し……


『この分じゃあ、ソフィアをずっと仕留められなかった英雄王とやらも大したことは無かったのかもな』

『違いない。こんな簡単に仕留め……「へっ?」』

 そのままスルー。


「どーもー」

「ばっ!?」

「なっ!?」

 少し離れた場所の樹上で、音を遠隔地で発生させる、物を動かす、幻影を見せると言った自分たちの位置を偽装するための魔法を使っていた魔法使いたちの背後に回り込み、全員の首を『妖魔の剣(ヒンドランス)』で即座に刎ねる。


「っつ!?偽装がバレて……るぎゃ!?」

「何が起き……グギッ!?」

「にげっ……アアアァァァ……!?」

 そのまま樹上を移動していき、策が破られた事に他の弓や槍と言った武器を持った男たちが気付く前に手際よく順番に、気付かれてからもこちらの位置が悟られないように注意して始末していく。

 やり口としては……『妖魔の剣』で斬る、黒帯(ブラックラップ)の魔法で絞める、着火(イグニッション)で焼く、各種毒を注ぎ込む、石を目に向けて投げて頭を貫く、使役魔法で崖から突き落とす、忠実なる(スネーク)(ゴーレム)忠実なる(クロウ)(ゴーレム)で食い殺す、甘言で同士討ちを誘発させる等々、まあ、色々とやった。


「ふむ。いい感じに利用されたかしらね。これは」

 そうして一時間ほど暴れまわり、真っ先に逃げ出す事によって私の魔手から逃れた数人を除き、この場に居たほぼ全てのヒトを仕留めた私は、味方であるはずの人々が全滅したのを確認してから現れたその人物に向けてそう言葉を発した。


「ほう、どうしてそう思うんじゃ?」

「ここに居る連中の大半はこの三年間でセレーネの政策や監査によって不利益を被った愚か者じゃない。そして、そうでないものは貴方とリリアの流派の魔法使いか近しい兵士でしょ」

 私の前に現れた三人のうち、二人には見覚えが無かった。

 だが、残る一人は私も知っている人物だった。

 それも五十年以上前からだ。


「つまり、私を倒せればそれでよし、倒せなくても今後の災いの芽を摘むことが出来ると言うわけね。まったく、やってくれるわね」

「やれやれ、バレてしまってはしょうがないのう」

「この代償は高くつくわよ。ストータス」

 その名はストータス。

 『大地の操者』の元長にして、『マダレム・ダーイの悪夢』の生き残った一人である。

11/03誤字訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ